アメリカの女性ヴォーカル・オルガンGS! | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ネイバーフッド・チルドレン - パターンズ (Acta, 1968)
Neighb'rhood Childr'n - Patterns (Rick Bolz, Dyan Hoffman) (from the album “Neighb'rhood Childr'n”, Acta Records, 1968) - 3:23 :  

Reissued by Air Mail Archive AIRAC-1359, Japan, June 6, 2007
Also Reissued by Sundazed Music SC 6280, 2011
[ Neighb'rhood Childr'n ]
Rick Bolz - 12 string guitar, harmonica, vocals
Ron Raschdorf - guitar, harmonica, vocals
Dyan Hoffman - vocals, keyboards
W. A. Farrens - drums, harmonica, vocals

 これは可愛い!演奏力は拙くて、とてもプロとは呼べないほどです。1968年(昭和43年)発表のアルバム収録曲ですが、メンバー自作曲なのと素人くさい女性ヴォーカルの初々しさだけが取り柄で、演奏力は同時代の日本のGSにもおよびません。いわばアメリカGSの、さかもあまり上手くないやつです。しかしそこがいいので、ロックにおいては演奏の稚拙さ、素人くささ、幼さも他には代えがたい魅力になる見本みたいな佳曲です。
 ネイバーフッド・チルドレン(Neighb'rhood Childr'n)は1963年にオレゴン州フェニックスで結成されたザ・ナヴァロズ(The Navarros)を前身としたバンドで、当初は地元でサーフ・ミュージックとR&Bのコピー・バンドとして活動していました。例に洩れず1964年のブリティッシュ・インベイジョンに衝撃を受けてビート・グループに転向、リーダーのリック・ボルツ(ギター、ヴォーカル)、紅一点のダイアン・ホフマン(ヴォーカル、オルガン)にリード・ギタリスト、ベーシスト、ドラマーを含む5人組でしたが、フォーク・ロック~サイケデリック・ロックの過渡期にたびたびアメリカ西海岸遠征を重ね、数度のメンバー・チェンジののちリード・ギタリストがロン・ラシュドルフ、ドラマーがW・A・ウォレンに交代してからバンド名をネイバーフッド・チルドレンと変えて、カリフォルニア州サンフランシスコに拠点を置いて活動しました。間もなくベーシストのジョージ・グレインが脱退しましたが、バンド名をタイトルにしたファースト・アルバムは1968年、RCA委託配給のインディー・レーベル、アクタ(Acta)・レコーズからアメリカ盤・カナダ盤が発売されます。全12曲中リーダーのリック・ボルツのオリジナル曲が10曲(うち1曲は二代目リード・ギタリスト、トム・ライアンとの共作、のちのCD化の際にほぼ全曲がダイアン・ホフマンを始めとするメンバー共作曲と判明しましたが)の意欲的な力作でした。
Neighb'rhood Childr'n (Acta Records, 1968) Full Album :  

 バンドはボー・ブラメルズ、タートルズ、グラス・ルーツら西海岸の先輩グループや、ザ・フー、ディープ・パープルらイギリスのバンドのアメリカ西海岸ツアーの前座を務めましたが、ファースト・アルバムも、1968年に発表されたアルバム未収録曲を含む2枚のシングルもヒットせず、バンドは1枚の自主制作シングルを発表したのち翌1969年にホワイト・ホース(White Horse)と改名、インディーの老舗レーベル、ドット(Dot)・レコーズと契約しシングルを1枚発表、改名後の再デビュー・アルバムを制作にとりかかるも完成前に制作中断となり、1970年には解散してしまいます。
 唯一作を残したネイバーフッド・チルドレンは‘60年代ロックの再評価が始まった1980年代からレコード起こしの複写海賊盤が出回るカルト・バンドとなり、1997年には定評ある復刻レーベル、サンデイズド(Sundazed)から唯一のアルバム全曲にレコード契約以前のデモ音源、アルバム未収録シングル曲、アクタとドットに残された未発表曲・未発表テイク12曲を加えた全24曲のコンプリートCD『Long Years in Space』がリリースされました。
Neighb'rhood Childr'n - Long Years in Space (Sundazed Records, 1997) Full Album :  

 アナログLPでたった1枚、収録時間たっぷり現存音源を詰めこんだCDでもたった1枚にしかならないネイバーフッド・チルドレンですが、それだけ小さな業績しか残さなかったために妙にアメリカ‘60年代ロックのリスナーのマニア心をくすぐる所があります。アルバム全体ではリック・ボルツとダイアン・ホフマンの男女ヴォーカルが半々ですし、ロン・ラシュドルフの千鳥足リード・ギター、W・A・ウォレンの危なっかしいドラムスも魅力なのですが、サイケと言うには洗練されておらず、どこか野暮ったいのがこのバンドの魅力で、よく比較されるジェファーソン・エアプレイン、ママス&パパス、ピーナッツ・バター・コンスピレイシーら男女ヴォーカルのフォーク・ロック~サイケデリック・ロックの一流グループにはないガレージ・ロック的な味わいがあるのです。ベーシストがレコーディング前に脱退してしまったためダイアンさんがオルガン・ベースで補っていると思われる低音域もスカスカで、男女デュオで歌っている曲ではなくダイアンさんのソロ・ヴォーカルでたどたどしいオルガンとリード・ギターをフィーチャーしたこの「パターンズ (Patterns)」は、哀愁のメロディーと素人くさいヴォーカル、稚拙な演奏で、アナログ盤B面3曲目(シングル・カットもされず)という目立たない位置にありながら、アルバムのハイライトをなしています。女性ヴォーカリストをフィーチャーしたGSはほぼ皆無ですが(当時女性ヴォーカリストはソロ歌手として売り出されたため)、末期カーナビーツが女性キーボード奏者・ジュンさん(カーナビーツ解散直前のオムニバス音源に、「ゲット・バック」「ふたりのシーズン」で素晴らしい演奏を披露しています)のリード・ヴォーカル曲をフィーチャーしたら、こんな感じの曲も残してくれたかもしれません。