サン・ラのソロ・ピアノ!オーロラ・ボレアリス (El Saturn, 1981) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - オーロラ・ボレアリス (El Saturn, 1981)
(Reissued Enterplanetary Koncepts Front Cover)
サン・ラ Sun Ra - オーロラ・ボレアリス Aurora Borealis (Ra Rachmaninov) (El Saturn, 1981) :  

Recorded Live on October 4 or December 4, 1980
Released by El Saturn Records Saturn 10480, Saturn 12480, 1980
Remastered Reissued by Enterplanetary Koncepts, 5 x File, WAV, 2015
All composed & arranged by Sun Ra except as indicated.
(Side A)
A1. Prelude in C# Minor (Rachmaninov) - 4:08
A2. Quiet Ecstasy - 4:48
(Side B)
B1. Aurora Borealis - 4:26
B2. Omniscience - 9:13
(Reissued Bonus Track)
5. Love In Outer Space - 4:52
[ Personnel ]
Sun Ra - unaccompanied solo piano 

(Original El Saturn "Aurora Borealis" LP Front/Liner Cover & Side A Label)

 ストレート・ジャズの快作『Sunrise in Different Dimensions』、ここはどこで今はいつなのとのけぞるような過激フリー・ジャズ作品『Voice of the Eternal Tomorrow』に続いて、本作『Aurora Borealis (Ra Rachmaninov)』 はラフマニノフのサン・ラ流解釈まで含んだソロ・ピアノ・アルバムです。その上どれも新レパートリー中心のライヴ・アルバムというのは'60年代中期または'70年代前半のマイルス・デイヴィスのようで(ソロ・ピアノという点ではチック・コリアやキース・ジャレットの諸作が連想されますが)、この旺盛なのか真剣勝負なのか手抜きなのかわからないアルバム制作の姿勢というのは何なのでしょうか。再発盤(リマスター配信版)では5分ほどのボーナス・トラックが追加されていますが、オリジナルLPではA面は9分、B面は13分半しかありません。プレーヤーを全曲リピートにしてかけていると聴いたばかりの曲がまた流れてくるので、時間の感覚がいかれてきます。収録時間にしろ、現代音楽かインダストリアル・ミュージック系のアルバムのようなオリジナル盤ジャケットにしろ、バンド直営のサターン・レーベル作品ならではのセンスにくらくらします。『Aurora Borealis (Ra Rachmaninov』というタイトルも響きが良く、「ラァ・ラフマニノフ」はそのものずばりですし、「オーロラ・ボレアリス(Borealisという綴りから「ボリアリス」とどちらの読みがいいか迷いますが、「Boreal」はボレロとリアルの合成語で、副詞語尾「~is」になっていることから「ボレロが織りなすオーロラ」といったニュアンスでしょう)」というタイトルも素敵ですから、お洒落なピアノ・アルバムと間違えてしまう購入者を生みやしないかと心配になります。サン・ラのソロ・ピアノ・アルバムは没後発掘のライヴ作品を除けば'78年の『Solo Piano Vol.1』と『St.Louis Blues (Solo Piano Vol.2)』以来で、生前発表のソロ・ピアノ・ライヴとしては『St.Louis Blues (Solo Piano Vol.2)』(ただし同作は公開録音のスタジオ・ライヴ的な作りでしたが)に続くアルバムになります。また没後発掘ライヴを含めたサン・ラのソロ・ピアノ作品としてはもっともフリー・ジャズ色の強いアルバムでもあります。

 本作は現在アーケストラ直営のEnterplanetary Konceptsから配信のみの再発売(配信用ジャケットはなかなか風格のあるデザインです)しかされていませんが、ボーナス・トラックが加えられ、リマスター再発されていることからマスターテープは現存しているようです。ただしデータは失われているらしく録音月日に2説あるばかりか会場も不明ながら、音響状態からすると観客を入れたスタジオ・ライヴではなくコンサート会場でのリアル・ライヴでしょう。前作のスクワッド・シアターのライヴ同様観客のマナーが良いことから、公開ライヴ収録として会話・飲食・演奏中の出入り禁止で録音したものと思われます。だとすればジャズ・クラブ録音ではなさそうです。演奏の特色としては'78年のソロ・ピアノより一段と黒々としていますが、アメリカ第三の大都市シカゴ出身のサン・ラの黒さは必ずしもアーシーではなく、白人ジャズ・ピアニストとは異なる角度から都会的な知的洗練を感じさせるものです。ディジー・ガレスピーのアレンジによる「All The Things You Are」のイントロ・オスティナートを使ったインプロヴィゼーション・ヴァリエーションなどはややくどさを感じますが、アルバム全体としてはソロ・ピアノによるバラード集を意図したものでしょう。バラードに向かった演奏の方がフリー・ジャズ色が強くなっているのが本作の聴きどころにもなっています。これまでのサン・ラのソロ・ピアノ作品やアーケストラの小編成作品、トリオ演奏のパートで得意としたような軽みよりは、こってりとした味わいで統一されたフリー・ジャズ系ソロ・ピアノ作品なので、サン・ラのアルバムの中でも異色作であり、ファン・アイテムとまでは言いませんが好みを分ける作品でもありそうです。ただし限られたジャズ・ピアニストにしか惹かれない筆者には手にあまりますが、ジャズの(またはジャンル問わず)ソロ・ピアノの演奏が大好きというリスナーの方のご感想をぜひ聞いてみたいと思わせられるアルバムでもあります。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)