サン・ラ - オムニヴァース (El Saturn, 1979) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - オムニヴァース (El Saturn, 1979)
サン・ラ Sun Ra and his Arkestra - オムニヴァース Omniverse (El Saturn, 1979)

Recorded probably at West End Cafe, New York, September 13, 1979.
Released by El Saturn Records Saturn 91379, 1979
All Composed and arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. The Place of Five Points - 6:12
A2. West End Side of Magic City - 9:40
A3. Dark Lights in a White Forest - 4:23
(Side B)
B1. Omniverse - 8:50
B2. Visitant of the Ninth Ultimate - 11:01
[ Sun Ra and his Arkestra ]
Sun Ra - piano
Michael Ray - trumpet
Marshall Allen - alto saxophone
John Gilmore - tenor saxophone
Danny Ray Thompson - baritone saxophone
Richard Williams - bass
Luqman Ali (Edward Skinner) - drums 

(Original El Saturn "Omniverse" LP Alternate Front Covers & Liner Covers)

 ハンドメイドによる複数ジャケットでリリースされた本作は、またもやサン・ラがアコースティック・ピアノに徹したストレートなメインストリーム・ジャズ作品ですが、クレジットには疑問があります。まず録音がライヴ収録となっていますが、どう聴いてもスタジオ録音か観客を入れないライヴハウス収録で、全5曲が新曲なのもスタジオ録音(または無観客録音)の裏づけになるでしょう。またA1、A2、B1はピアノ・トリオにテナーのジョン・ギルモアをフィーチャーしたワンホーン・カルテットであり、A3はピアノ・トリオだけの演奏です。クレジットでは4ホーン&ピアノ・トリオの7人編成なのにどうなっているのかと思うと、アルバムの最終曲でようやく4ホーン編成の演奏が登場します。本作はレコード番号の91379から1979年9月13日録音と位置づけられているのですが、カルテット、トリオ、セプテットと3通りの編成が収録されているとなると本当に1日だけの録音かどうか疑わしく、同日にアルバム2枚分の録音が行われたとしたら7人集めた手間もかけるでしょうが、9月13日は録音日ではなくリリース日だとしても本作と同時録音らしいアルバムは見当たりません。あるいは7人編成アーケストラでニューヨークのライヴハウスに出演した際に、ライヴの前後についでに会場録音してきたアルバムかもしれません。なるべくスタジオ代をかけないサターン・レコーズにはこれまでにもそういうアルバムが何枚もありました。

 内容は素晴らしいのひと言で、アーケストラとしては異例の小編成作品ですが名人の一筆書きの生の味わいがあります。前作のトリオ・アルバムに続いてメインストリームのジャズ・リスナーを唸らせる渋い演奏で、それこそ'60年代ブルー・ノートから出ていてもおかしくない、もし無名ジャズマンのアルバムでジャズらしいアルバム・ジャケットで発売されていたら幻の名盤扱いされて中古レコード店の壁を飾りそうな逸品です。ジャズ喫茶やジャズの中古盤専門店でかかろうものならお客さんが一斉にジャケットを凝視し、何だあの怪しい自主制作盤みたいなのは、とどよめきが起きること必至でしょう。このわかりやすいかっこよさはアルバムの半分をギルモアのワンホーン・カルテットが占めていることにもあり、ギルモアはアーケストラで唯一ブルー・ノートからアルバムを出したことのあるメンバーですが(のちにチャールズ・ミンガスやマックス・ローチのバンドのテナー奏者になる、1957年のクリフォード・ジョーダンとの共演アルバム)、テクニカルなバップ・テナーの側面を抑えてブルージーなソウル・テナー的に武骨な演奏で迫ります。ピアノ・トリオ曲も優れた演奏ですが、伝統的なアーケストラらしいのはやはりフル・メンバー(とはいえアーケストラとしては最小編成の7人)で4ホーンがフリー・ブローイングをくり広げるB2でしょう。ジャズらしいサン・ラから入りたいリスナーには格好のアルバムですが、本作はあまりにも多いアーケストラ作品にすっかり埋もれてほとんど忘れられた無念の一作でもあります。捨て駒のようにリリースされた作品がこれほどの出来なのがサン・ラの恐ろしいところです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)