サン・ラ - ニュー・ステップス (Horo, 1978) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ニュー・ステップス (Horo, 1978)
サン・ラ Sun Ra Quartet Featuring John Gilmore - ニュー・ステップス New Steps (Horo, 1978) :  

Recorded at Horo Voice Studio, Rome, January 2 & 7, 1978
Released by Horo Records Horo HDP 25-26, 1978
All compositions by Sun Ra except as indicated
(Side One)
A1. My Favorite Things (Oscar Hammerstein II, Richard Rodgers) - 7:49
A2. Moon People - 7:50
(Side Two)
B1. Sun Steps - 11:37
B2. Exactly Like You (Dorothy Fields, Jimmy McHugh) - 6:04
(Side Three)
C1. Friend and Friendship - 6:58
C2. Rome at Twilight - 5:08
C3. When There Is No Sun - 4:37
(Side Four)
D1. The Horo - 15:33
[ Sun Ra Quartet Featuring John Gilmore ]

Sun Ra - piano, Crumar Mainman organ, vocals
John Gilmore - tenor saxophone, percussion, vocals
Michael Ray - trumpet, vocals
Luqman Ali (Edward Skinner) - drums 

(Original Horo Records "New Steps" LP Liner Cover & Side One Label)

 このジャケットなら中身も良いに違いない、しかも1曲目が「My Favorite Things」!と聴く前から期待させる本作も、今回はホロ・レーベルの狭い自主スタジオでの録音のためベースレスのカルテット編成(テナーサックス、トランペット、キーボード、ドラムス)ながら、サン・ラの魅力を2枚組LPに渡ってたっぷり堪能できるアルバムで、発掘盤のソロ・ピアノ・コンサートのライヴ『Piano Recital - Teatro La Fenice, Venezia』(Leo, 録音1977年11月24日/発売2003年)や、録音時期の不確かなライヴ盤『The Soul Vibrations of Man』『Taking a Chance on Chances (ともにSaturn, 録音1977年11月?/発売1977年)を除けば、本作はともにニューヨーク録音になる10人編成のスタジオ盤『Some Blues but not the Kind That's Blue』(Saturn, 録音1977年10月14日/発売1977年)と20人編成の2枚組ライヴ盤『Unity』(Horo, 録音1977年10月24日&29日/発売1978年)以来の新作スタジオ録音盤になります。ホロ・レコーズはメジャーのRCAヴィクター配給のイタリアの新興インディー・ジャズ・レーベルで、1977年11月のヨーロッパ・ツアー中に『Unity』の販売契約と新作制作が結ばれたようです。ホロ・レーベルはサン・ラのヨーロッパ・ツアーの大盛況や『Unity』の出来映えに成功を確信して、『Unity』の発売前から1978年1月上旬には早速ホロ・レコーズ所有のローマのホロ・ヴォイス・スタジオで4日間のセッションが組まれ、1月2日と7日録音分は『New Steps』、8日と13日録音分は『Other Voices, Other Blues』にまとめられました。どちらもソウル・ジャズ、ジャズ・ファンク色の強い'70年代型メインストリーム・ジャズ路線の8曲入り2枚組アルバムで、『New Steps』の「My Favorite Things」と「Exactly Like You」のスタンダード曲2曲を除く14曲はこの2作のためのサン・ラの書き下ろし新曲です。サン・ラのホロ・レコーズ作品はいずれもアナログLP2枚組、かつメイン・ストリーム・ジャズとサン・ラ独自の作風が無理なく融合した出来の素晴らしいものです。

 この時期「My Favorite Things」のカヴァーはバンドの定番レパートリーになっていたようで、『Some Blues but not the Kind That's Blue』でも『Unity』でも演奏されていました。ただしそれらが前述の通り10人(アーケストラの標準編成)、20人(アーケストラの拡大編成)というフル・メンバーだったのに較べ、本作と姉妹作の次作『Other Voices~』は小型スタジオだったホロ・スタジオの収容規模が理由で2ホーン、キーボード(キーボード・ベース兼任)、ドラムスという変則カルテットになっており、名義もSun Ra Quartetになっている点で、従来人数に関わりなく「Astro Infinity Arkestra」や「Intergalactic Arkestra」など作品毎に宇宙人楽団を強調していた衒いがなくなっています。本作での「My Favorite Things」の出来は突出して素晴らしく、看板サックス奏者ジョン・ギルモア(1931-1995)のテナーサックス演奏は、もともとジョン・コルトレーンがギルモアから影響を受けたという証言を納得させるエモーションに満ちあふれたものです。また、ホロ・レーベルへのカルテット作品2作に手応えを感じたサン・ラは、リズムボックスとシークエンサー内蔵シンセサイザーをライヴ演奏に導入し、カルテット編成で1月いっぱいまで行ったイタリア各地での膨大なライヴ録音を録り貯め、帰国後『Media Dreams』『Disco 3000』『Sound Mirror』の3作に編集しました。それは同じカルテット作品でもリズムボックスとシークエンサーの導入によってきわめてトランシーかつスペイシーなテクノ・フリー・ジャズ・ファンクと言うべき作品になり、『New Steps』『Other Voices~』の'70年型メインストリーム・ジャズ路線から瞬く間に変貌したサン・ラの創造力を記録する、さらに評価の高い作品になり、この頃サン・ラが提唱していたディスコ・ビートの導入に難色を示していたアーケストラのメンバーを納得させる成果を得ました。スタジオ録音の姉妹作『New Steps』『Other Voices~』の高い完成度に執着せずサン・ラは同月のうちにすぐに次の実験に入ったと思うと、本作と次作『Other Voices~』は刹那の美としていっそう輝かしく見えます。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)