サン・ラ - ライヴ・アット・モントルー (El Saturn, 1976) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ライヴ・アット・モントルー (El Saturn, 1976)
(Reissued 1978 Phonogram/Inner City "Live at Montreux" LP Front Cover)
サン・ラ Sun Ra and his Arkestra - ライヴ・アット・モントルー Live at Montreux (Saturn, 1976)  (Excerpt Side A3 to Side B1, B2, B3 only) 

Released by El Saturn Records MS-87976, 1976
Reissued by Phonogram/Inner City Records IC-1039, 1978
All Composed and arranged by Sun Ra expect as noted.
(Side A)
A1. For the Sunrise - 2:00
A2. Of the Other Tomorrow - 7:43
A3. From Out Where Others Dwell/On Sound Infinity Spheres - 13:25
(Side B)
B1. House of Eternal Being - 9:36
B2. Gods of the Thunder Realm - 7:28
B3. Lights on a Satellite - 4:38
(Side C)
C1. Piano Intro - 3:50
C2. Take the A Train (Billy Strayhorn) - 7:50
(Side D)
D1. Prelude (Cascade on the saturn) - 3:12
D2. El is a Sound of Joy - 8:56
D3. Encore 1 - 1:44
D4. Encore 2 (on the Saturn the encores are called The People Are) - 2:28
D5. We Travel the Spaceways - 4:11
[ Sun Ra and his Arkestra ]
Sun Ra - piano, solar organ, moog synthesizer
Ahmed Abdullah, Chris Capers - trumpet
Al Evans, Vincent Chancey - flugelhorn
Craig Harris - trombone 
Reggie Hudgins - soprano saxophone
Marshall Allen, Danny Davis - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone, percussion
Pat Patrick, Danny Thompson - baritone saxophone, flute
Eloe Omoe - bass clarinet, flute
James Jacson - bassoon, flute, ancient egyptian infinity drum
Tony Bunn - electric bass
Hayes Burnett - bass
Clifford Jarvis, Larry Bright - drums
Stanley Morgan (Atakatune) - conga
June Tyson - vocals
Judith Holton, Cheryl Banks - dance 

(Original El Saturn "Live at Montreux" LP Front Cover)

 1975年のサン・ラ音源は1月のコンサートを収録した発掘盤『Live In Cleveland』(Leo, 2009)しかありません。自社スタジオでのリハーサルは重ねていても、ライヴ活動自体はほぼ休止して充電期間に当てていたようで、外部とのレコード契約もなく、サターン・レーベルの方もマネジメントではなくバンド自身が流通・販売まで手がけるようになって1年あまり経ちましたから、アルバム制作は少々負担になってきていたのかもしれません。そのかわり、翌1976年のアーケストラの活動は目覚ましいものがありました。ヨーロッパ・ツアーに伴うスイスのモントルー・ジャズ・フェスティヴァルへの出演とそのライヴ・アルバム、そしてパリでフランスのコブラ・レーベル(先鋭的な音楽レーベルでジャンルは限定せず、日本発売されたものではフランスのプレ・インダストリアル・エレクトリック・ノイズ・バンドのエルドンのアルバムなどがあります)でスタジオ・アルバム『Cosmos』を録音します。『Live At Montreux』と『Cosmos』は'70年代のサン・ラ・アーケストラではもっとも商業的に成功したロングセラー・アルバムになり、今日までに6種類あまりのレーベルから再発売されています。この2作の出来は素晴らしく、これまで最大の28人編成アーケストラで行われた5年ぶりのヨーロッパ・ツアーは周到なアレンジとリハーサルが行われたもので、モントルーでの成功は世界的な評価のかかった正念場ですから、殊の外タイトなステージだったろうと思われます。名盤『Live at Montreux』は版権上の問題からかYouTubeに部分的にしかアップされておらず全曲の試聴紹介ができませんが、'50年代~'60年代の代表曲から新曲までを含んだ'70年代サン・ラの代表的名作ライヴとして主流ジャズのリスナーにも文句なしにお薦めできるアルバムなので、残念ながら試聴リンクを引けなかったものの、1970年秋のドイツのジャズ・フェスティヴァルでのライヴを収録した名盤『世界の終焉 (It's After the End of the World)』(Phonogram/MPS, 1971)以来になるメジャーのフォノグラム傘下のジャズ・レーベルInner City盤からの再発盤(現在はフォノグラムを合併したユニバーサル盤)で国内盤で入手も容易、中古盤でもよく見かけるアルバムとしてアーケストラ作品のファースト・チョイスにも向いている、'50年代から'70年代の20年間のアーケストラ作品の中でも、フリー・ジャズ・ビッグバンドとしての筋は通しながら、もっとも洗練された主流ジャズらしいアルバムと思っていただければ大方は間違いありません。サン・ラ・アーケストラのデビューから20年、62歳にしてようやくサン・ラとサン・ラ・アーケストラは現役最高の意欲的黒人ビッグバンドとしての世界的名声を確立したのです。『Live at Montreux』はその記念碑であり、サン・ラのキャリアでも里程標となった名作ライヴ盤です。

 直後のスタジオ盤『Cosmos』ではアルバムのまとまりのために12人編成に縮小されますが、1970年代半ばに世界的なジャズ界の傾向はクロスオーヴァー(フュージョン)・ジャズの確立と4ビート・ジャズの再評価でした。サン・ラはクロスオーヴァー的でもありましたがバンドの出発点は4ビート・ジャズであり、1976年のアーケストラはフリー・ジャズ路線の踏襲こそあれ、これまでになく4ビート・アンサンブルに固執しています。リヴァイヴァル的なものではなく8ビートを経由した'70年代型4ビートであり、サン・ラのクロスオーヴァー性は黒人音楽としてのジャズを踏まえていましたから決して商業的な目的の転換ではなかったので、上手く時代の風潮とサン・ラの志向性が合致したのが『Live at Montreux』と『Cosmos』でした。4ビートであり、クロスオーヴァー的な現代性も備えている上、テーマ~ソロ~テーマの構成やフィーチャリング・ソロイストも明快な演奏で、1974年12月のリハーサル音源『Dance of The Living Image』や1975年1月のライヴ音源『Live In Cleveland』は本作のための助走だったことがわかります。不満があるとすれば、本格的にフリー・ジャズ路線に踏みこんだ1964年~1974年までの10年間のアーケストラの楽曲や演奏には常にマジカルな混沌がありました。ですがここでは録音やミキシングまでメジャーでプロフェッショナルなバンドに徹したアーケストラがいます。特に充実した成果を見せた1969年~1973年の足かけ5年の作風を一度洗い流して、1966年の傑作ライヴ盤『Nothing Is...』から10年を一飛びに『Live at Montreux』にたどり着いたような面があり、サン・ラとしては珍しくあえて旧作の作風に立ち戻ってから1976年時点の再解釈に刷新したような印象もあって、それが本作の充実と保守性の両方につながっているとも思えます。また本作が収録された1976年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルには部分的ながら映像が残されています。『Live at Montreux』のアルバム音源のリンクが部分的にしか引けなかった代わりに、同一ステージの一部をシューティングした映像を引いておきます。これがサン・ラが決定的に世界的なジャズ・ジャーナリズムに認知された瞬間をとらえたステージです。また2016年4月にサン・ラのアルバム再発に定評あるArt Yardレーベルからリリースされた、ラジオ放送音源と思われる発掘盤『In Some Far Place ; Roma '77』は翌年のライヴですが、『Live at Montreux』とほぼ同内容のステージですので、今回に併載します。ジャズ・スタンダード曲はローマのライヴではさらに増えていますので、音質の良さともども大変素晴らしく、これまで埋もれていたのがもったいない音源です。
◎Sun Ra & His Cosmo Swing Arkestra - Live at Montreux 1976 (1) :  

same as "Live at Montreux"
Sun Ra & His Arkestra - In Some Far Place: Roma '77 (Art Yard, 2016) 

Released by Art Yard STRUT122LP, 2CD, April 2016
All composed(exept as credited) and arranged by Sun Ra.
(Disc 1)
CD1-1. Introduction - 4:05
CD1-2. Untitled 1 - 3:24
CD1-3. Spontaneous Simplicity - 6:40
CD1-4. Space Is The Place - 6:51
CD1-5. Calling Planet Earth - 5:41
CD1-6. Outer Spaceways Incorporated - 6:46
CD1-7. Penthouse Serenade - 6:10
CD1-8. Untitled 2 - 4:23
CD1-9. Trying To Put The Blame On Me - 3:44
CD1-10. Sometimes I Feel Like A Motherless Child (Gabrielle Ann Goodman) - 5:07
(Disc 2)
CD2-1. How Am I To Know? (Dorothy Parker, Jack King) - 4:54
CD2-2. I Cover The Waterfront (Edward Heyman, Johnny Green) - 4:55
CD2-3. Love In Outer Space - 7:39
CD2-4. El Is A Sound Of Joy - 22:33
CD2-5. St Louis Blues (William Handy) - 7:54
CD2-6. Ladybird (Tadd Dameron)/ Half Nelson (Miles Davis) - 4:41
CD2-7. Willow Weep For Me (Ann Ronell) - 7:14
CD2-8. Take The 'A' Train (Billy Strayhorn) - 3:57
[ Sun Ra & His Arkestra ]
same as "Live at Montreux".
 
 今回の『Live at Montreux』と次回の『Cosmos』の1976年の2作(と1977年の発掘ライヴ)で'70年代のサン・ラ・アーケストラの前期は音楽的にも活動サイクルとしても一旦完結したと言っていいでしょう。1994年にLeoレーベルから発掘発売された『A Quiet Place in the Universe』がやはり1976年~1977年のヨーロッパ・ツアーから編まれたものですが、複数会場からの不完全収録の上に曲数も6曲と少なく、18分の新曲「I Pharaoh」(1979年にアルバム録音)を早くもライヴ音源で聴けるのが唯一の収穫です。残念ながら『A Quiet Place in the Universe』のリンクもご紹介できませんが、内容はモントルーとローマの中間に当たり、フル・コンサートからダイジェストされたライヴ・コンピレーションです。さて、次回にはスタジオ盤『Cosmos』をご紹介し、次々回からは1977年~1979年の猛烈な多作時代のサン・ラ・アーケストラのご紹介ですが、近作ほどリンクをご紹介できるアルバムが減っていくので、せめて要となるアルバムだけでも押さえていければと思っています。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)