新宿駅構内にて | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

(画像はお借りしたものです)
 これはX(ツイッター)で見かけた写真で、文面は1行「新宿駅構内で凄い女を見た」とだけ添えてありました。人影まばらなのはよほど早朝か深夜だったのだろうかと思われますが、新宿駅はあの通りターミナル駅でだだっ広く、地下でいくつもの路線に渡って構内が広がっているので、日中や通勤ラッシュ時でもあまり人が渋滞しない場所があちこちにあります。東京メトロやショッピングモールに沿った都営地下鉄線の通路など長く長く一駅分ほどつながっていますから、そうした人通りのない物影で見かけた光景なのかもしれません(実際背景に都営地下鉄線の番号出口が写りこんでいます)。そうしてショッピングモールの店舗の看板にもたれて座りこむこの若いお嬢さん、少女と言ってもいい女性に、何が起こったか知るすべもありません。
 ふと思い出したのは、昔南新宿の編集部で働いていた時、仕事仲間が「昨日の晩凄いのを見たよ、新宿駅の京王線乗り換えの通路で」という話です。帰り道の通勤ラッシュ時、すし詰めの通行人が左右に分かれているので何かと思ったら、ズボンを足首まで下げて下半身を露出させた「普通のサラリーマン」のスーツ姿の男が横向きに身体を丸めて倒れていて、尻から大量に脱糞しながら低い呻き声を上げていたそうです。「こらえきれずに漏らしちゃったんじゃないかな、無意識にズボンを下げながら。それでショックで失神しちゃった。大勢の人前でウンコしちゃって」。だったとしたら気の毒だねえ、誰も駅員を呼ばなかったんだろうか。「わからん。おれも人の流れに押されてそのまま通りすぎちゃった」。武田泰淳の「蝮のすゑ」に、複雑な男女関係に陥った主人公が泥酔状態で盛り場の路上に脱糞し、錯乱しながら大便を両手でかき集める場面があったなと連想しながら、「間に合わなかったんだろうね」そんな体験をして、その男はその後大丈夫だったんだろうか、自我が崩壊するほどの出来事だったんじゃないかと話した記憶がよみがえりました。

 武田泰淳の「蝮のすゑ」は恐るべきことにほとんど作者自身の体験を元にした短篇小説だそうですが、「蝮のすゑ」の作者ほど強靭な精神の持ち主こそ暴露的に描けたことであれ、どんな人にも立ち直れないほどの衝撃が襲ってくることはあるでしょう。突然の体調不良、予期しなかった心身の急変も起こり得ます。明らかに人目を意識したゴスな戦闘服で身を固めたこの若い、少女と言ってよい女性が、なぜ新宿駅構内の地下通路で逆に人目もはばからずうずくまってしまったのか、それは知るよしもありません。これから待ち人たちに向かう所か、それとも同じような少女たちと会ってからの帰路かも判らなければ、特に嘔吐や失禁の様子は見えないことから何らかの出来事で力尽きた様子にも見受けられば、何とか羞恥心を保った状態の姿勢でいるだけ心身消耗までには陥っていない、とも思えます。しかし彼女を心配して声をかける通行人はまずいない、いても歌舞伎町の女衒くらいでしょう。もし彼女がそれを待っていたら、という可能性を思うと、その先は想像しない方がいいように思えます。