サン・ラ - ウェイク・アップ・エンジェルズ (Art Yard, 2011) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ウェイク・アップ・エンジェルズ (Art Yard, 2011)サン・ラ Sun Ra & His Intergalactic Arkestra - ウェイク・アップ・エンジェルズ Wake Up Angels: Live at the Ann Arbor Jazz Festival (Art Yard, 2011) 

Sun Ra & His Solar Arkestra appeared at the 1972 Ann Arbor Blues & Jazz festival by arrangement with Alton Abraham & Saturn Research, Inc.
Disc 1-1 to 1-8 Recorded In performance at Otis Spann Memorial Field, Ann Arbor, Michigan, Friday, September 8, 1972.
Originally Released by on CD by Total Energy Records "Life Is Splendid" (NER3026), 1999
Sun Ra & His Intergalactic Discipline Arkestra Live at the 1973 Ann Arbor Blues & Jazz Festival.
Disc 1-9 to 1-18 Recorded In performance at Otis Spann Memorial Field, Ann Arbor, Michigan, Sunday. September 9. 1973.
Originally Released by on CD by Total Energy Records "Outer Space Employment Agency" (NER3021), 1999
Sun Ra & His Intergalactic Arkestra Live at the 1974 Ann Arbor Blues & Jazz Festival in Exile.
Disc 2 2-1 to 2-11 Recorded in performance at St Clair College Amphitheatre, Windsor, Ontario, Canada. Friday. September 6, 1974.
Originally Released by on CD by Total Energy Records "It is Forbidden" (NER3029), 2001
Reissued 3 in 2 CDs "Wake Up Angels: Live at the Ann Arbor Jazz Festival" Released by Art Yaid Records CD 012, 2012
All composed and arranged by Sun Ra expect as noted.
(Disc 1)
1972: Life Is Splendid
1-1. Enlightenment (Sun Ra, Dotson) - 2:12
1-2. Space Is The Place - 8:12
1-3. Untitled Improvisation - 5:45
1-4. Discipline 27-II - 1:43
1-5. What Planet Is This - 1:21
1-6. Life Is Splendid - 1:51
1-7. Immeasurable - 2:45
1-8. Outer Spaceways Incorporated - 1:56
1973: Outer Space Employment Agency
1-9. Untitled Improvisation - 13:50
1-10. Discipline 99 - 4:58
1-11. Love In Outer Space - 6:18
1-12. Watusi (Pitts, Sherrill) - 6:53
1-13. Discipline 27-II - 2:14
1-14. At First There Was Nothing - 3:55
1-15. The Universe Has More To Offer You - 1:19
1-16. Wake Up Angels - 2:55
1-17. The Universe Sent Me To Converse With You - 4:52
1-18. Outer Space Employment Agency - 5:02
(Disc 2)
1974: It is Forbidden
2-1. Untitled Improvisation - 13:16
2-2. Discipline 27 - 9:19
2-3. Love In Outer Space - 4:41
2-4. The Shadow World - 6:05
2-5. Space Is The Place - 7:18
2-6. Second Stop Jupiter - 1:41
2-7. Discipline 27-II / What Planet Is This - 2:32
2-8. Images - 8:23
2-9. It Is Forbidden - 2:31
2-10. Watusi (Pitts, Sherrill) - 5:51
2-11. Sun Ra And His Band From Outer Space... - 2:47
[ Sun Ra & His Intergalactic Arkestra  (1974) ]
Sun Ra - organ, piano, synthesizer, vocals
Marshall Allen - flute, percussion, alto saxophone
Akh Tal Ebah - mellophonium, trumpet, vocals 
John Gilmore - percussion, tenor saxophone
Kwame Hadi - trumpet 
Judith Holton - vocals 
James Jacson - bassoon, drums, vocals 
Clifford Jarvis - drums 
Stanley Morgan - conga 
Eloe Omoe - bass clarinet
Danny Thompson - flute, libflecto, percussion, baritone saxophone
June Tyson - vocals 
Dale Williams - Electric guitar
and the others saturnians. 

(Reissued Art Yard "Wake Up Angels" CD Liner Cover)
 本作はジョン・レノンとの親交やデトロイトのプロト・パンク・バンドMC5との密接な関係でも知られる政治活動家のジョン・シンクレアが主催した1972年、1973年、1974年のアン・アーバー・ブルース&ジャズ・フェスティヴァルからサン・ラ・アーケストラの出演を収録した発掘ライヴで、3in2CD『Wake Up Angels: Live at the Ann Arbor Jazz Festival』としてまとめられる前に年度ごとに『Life Is Splendid』『Outer Space Employment Agency』『It is Forbidden』として単独発売されていたものです。1972年、1974年分は当初抜粋版(1972年分は7分、1974年分は15分)がオムニバス・アルバムに収められてサン・ラ生前に発売されており、1973年の出演はラジオ放送されていました。うち『Life Is Splendid』は以前にご紹介しましたし、単独で音源リンクのなかった『Outer Space Employment Agency』は時期が前後する1973年の発掘ライヴ音源『What Planet It Is?』『The Road To Destiny』や公式ライヴ盤『Live in Paris at The Gibus』と同メンバーによるものです。フェスティヴァル全出演者の音源はジョン・シンクレアによって公式収録・保管されており、特にシンクレアが大ファンだったサン・ラは1969年の第一回開催から出演し、毎回の出演でトリを飾っていることもあって、この『Wake Up Angels』に収録された1972年、1973年、1974年の出演はシンクレアによる公式リリースを前提としたフェスティヴァル参加でした。1972年は前日のトリがマイルス・デイヴィス、最終日の大トリがサン・ラ(しかもサン・ラの直前出演はハウリン・ウルフ!)でしたし、1974年の出演はジェームズ・ブラウン(!)のステージの後を受けてトリを飾っています。1972年にはマイルスと並ぶトリだったというのはシンクレアのサン・ラ贔屓を考慮しても、すでにサン・ラの人気がアメリカ国内でも定着したのを証明する出来事だったでしょう。サン・ラ・アーケストラは1974年にはシカゴ時代からのマネジメント、アルトン・エイブラハムとの関係がこじれており(エイブラハムはシカゴ在住、アーケストラはバンドの事務所と社宅を1972年以来フィラデルフィアに移していました)、スタジオ盤の制作の減少とともにライヴ音源もこの年の収録は少なくなっています。1974年度のサターン・レーベルからのアルバムにはフィラデルフィアのライヴ録音で収録日・会場不明の『Celebration For Dial Tines』とニューヨークのハンター・カレッジでのライヴ『Out Beyond The Kingdom Of』('74年6月16日録音)があり、8月17日のフィラデルフィアでのラジオ局での放送用スタジオ・ライヴ『The Antique Blacks』がアン・アーバーでのフェスティヴァル参加前に制作され、さらに9月録音の『Sub Underground』がありますが、シカゴのエイブラハムを通さずバンドのライヴ会場の手売り用に制作された『Celebration For Dial Tines』『Out Beyond The Kingdom Of』『The Antique Blacks』はもともとプレス枚数が少なかった上にマスターテープ紛失と思われる事態からアーケストラ作品でも稀少盤となってしまい、サン・ラ専門復刻レーベルのArt Yard社がラジオ局のマスターテープを突き止めて2009年に『The Antique Blacks』を復刻するにとどまっています。

 そうした事情から本作のディスク2は珍しく数少なかった1974年のアーケストラ音源として重要なもので、1971年~1973年の強烈なゴスペル・スペース・ジャズ・ファンクの作風の延長ながら徐々に作風を変化させようとしている過渡期のアーケストラのサウンドが『The Antique Blacks』に続いて確かめることができる貴重な音源となっています。サン・ラはこの時期からギタリストをアーケストラのメンバーに加えますが、まだこの時期にはライヴ要員としての起用が多く、スタジオ録音、また発表を意図したライヴ収録ではギタリストを招かない場合が多く、その点でもギタリストをフィーチャーしたこのライヴは注目されるものです。楽曲単位で完結しないメドレー形式、エレクトリック・ギターのフィーチャーなど、この時期のサン・ラ・アーケストラはマイルスのエレクトリック・バンド化と軌を一にしたものでした。半端なご紹介ながら、本作は'70年代のサン・ラの発掘ライヴ盤ではArt Yard社盤で輸入盤の入手がまだ容易な作品でもあり、絶好調の1972年・1973年(ディスク1のこの2年分は編集で短縮されており、ステージのフルセットではありませんが)、ジミ・ヘンドリックス張りのエレクトリック・ギターが聴ける貴重な1974年のライヴがフェスティヴァル出演ならではの代表曲のてんこ盛りで楽しめるこの2枚組は、編集や音質ではやや劣る(レンジが狭く、アーケストラのライヴのダイナミズムをとらえるにはやや平坦な録音とミックスです)とはいえ、公式ライヴ盤に準ずる価値のある好作です。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)