頭に蛆が湧く1曲 | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ラゴーニア - ワールド・フル・オブ・ナッツ (MaG, 1967)

Laghonia - We All (Single B-Side,, MaG, 1967) - 3:01 :  

 1960年代末から1970年代初頭に活動していたペルーのバンド、ラゴーニアについては昨日ファースト・ファースト・アルバム『グルー (Glue)』(MaG, 1969)を紹介し、明日はセカンド・アルバム『エトセテラ (Etcetera)』(MaG,
1971)をご紹介しますので詳細はそちらに譲りますが、筆者がペルーのバンドを初めて聴いたのは先に全アルバム4枚をご紹介したラゴーニアのレーベル・メイトかつ好ライヴァルだったトラフィック・サウンドのコンピレーション・アルバム『Traffic Sound 68-69』(Background, 1993)で、筆者はスティーヴ・ウィンウッドの率いていたトラフィックの大ファンなので、トラフィックの海賊盤発掘ライヴを探しているうちに偶然同作を見つけ、調べてみるとペルーのバンドだったので、1968年~1969年のペルーのバンドとはどういうものか聴いてみようと大した価格でもない中古CDだったので買ってみたのです。同CDはトラフィック・サウンドの初期シングル集『A Bailar Go Go』(MaG, 1968)と全曲オリジナル曲の初のフルアルバム『Virgin』(MaG, 1969)を曲順もそのままにカップリングしたものでしたが、英米ロックのカヴァー曲集『A Bailar Go Go』はニュー・ロックに足をかけた日本のGSと大差なかったものの、『Virgin』の素晴らしさには一発でやられました。こんな良いバンドがペルーにいたのかとトラフィック・サウンドの全アルバム(『A Bailar Go Go』と『Virgin』も単品のオリジナル・ジャケット復刻盤で)、アルバム未収録シングルを含むコンピレーション『Yellow Sea Years: Peruvian Psych-Rock-Soul 1968-71』(Vampi Soul, 2005)を集め、平行して世界各国の'60年代後半~'70年代初頭までのグローバル・ロック(アジア、アフリカ、地中海諸国からイスラム、イスラエル、日本含む)を集めたコンピレーション『Love, Peace & Poetry』(O.D.K. Media)シリーズを揃えていきました。もし(スティーヴ・ウィンウッドの)トラフィックからバンド名の類似でたどり着かなければ、トラフィック・サウンドばかりか非欧米圏諸国のロック・シーンのにも気づかなかっただろうと思うと愕然とします。
 トラフィック・サウンドによってペルーヴィアン・ロック(インカ・ロック)の水準の高さも期待できたので、『Love, Peace & Poetry』のペルー編のみならず、全22組のアーティストから1曲ずつを収めたコンピレーションCD『Back To Peru: The Most Complete Compilation of Peruvian Underground 64-74』(Vampi Soul, 2002)を見つけた時には飛びつくようにして購入しました。アナログLP2枚組でもリリースされた同作は「完全決定版アンダーグラウンド・ペルー・ロック '64年~'74年」という副題も納得の、レニー・ケイ編のオリジナル『Nuggets: Original Artyfacts from the First Psychedelic Era, 1965–1968』(Elektra, 1972)にも匹敵する傑作コンピレーションでした。同作の好評からVampi Soulは2005年にトラフィック・サウンドの『Yellow Sea Years: Peruvian Psych-Rock-Soul 1968-71』を、また2009年にCD2枚組に34曲を収めた『Back To Peru Vol II: The Most Complete Compilation of Peruvian Underground 64-74』をリリースしますが、第1集でトラフィック・サウンドに次いで光っていたのはニュー・ジャグラー・サウンド(New Juggler Sound)の「Glue」(のち改名後にアルバム用に再録音)、そして同バンドがラゴーニア(Laghonia)と改名して発表したアルバム未収録シングル「World Full of Nuts」でした。

 ラゴーニアはビートルズ直系のビート・グループ色の濃い前身バンドのニュー・ジャグラー・サウンド、さらにラゴーニアと改名してのちメンバー・チェンジ後ウィー・オール・トゥギャザー(We All Together)となり、ウィー・オール・トゥギャザー改名後にポール・マッカートニーのカヴァー「Tomorrow」、ビートルズの弟バンド、バッドフィンガーのカヴァー「Carry on Till Tomorrow」を南米全土でヒットさせたため、南米ではビートルズ・フォロワーのウィー・オール・トゥギャザーの前身バンドとしての方が名高いそうですが、割りと普通のビートルズ直系バンドになってしまったウィー・オール・トゥギャザーや前身バンドのニュー・ジャグラー・サウンドよりも、ビート・グループとサイケデリック・ロックの橋渡しとなった過渡的なラゴーニア時代の2枚のアルバムの時期の方が、トラフィック・サウンドに迫るユニークな音楽性が感じられます。その頂点と言えるのがアルバム未収録シングル「World Full of Nuts b/w We All」で、メンバー全員の共作ですが、合衆国アメリカ人ギタリスト、デイヴィー・レーヴェンの色彩感鮮やかなリード・ギターが光るB面曲「We All」も佳曲でこそあれ、A面曲「World Full of Nuts」はラゴーニアの全録音曲にあっても、突然変異的に生じたとしか思えない、1967年(かつて項目があったスペイン語版ウィキペディアでは1970年リリースとありますが、シングル・レーベルには1967年とはっきり記載されています)にあっては国際的にもサイケデリック・ロックの頂点を極めた異常な楽曲です。トラフィック・サウンドもラゴーニアも英米ロック基準ではあまりにストレンジなサウンド感覚が感じられますが、この「World Full of Nuts」の異様なミックス、フィルターをかけたヴォーカルやオルガンの音色は、転調をくり返すだけで曲想としては平坦なこの楽曲を万華鏡のように色彩感溢れるアレンジで展開し、リスナーを異次元空間に誘います。ラゴーニアのアルバム2作『Glue』(プレス数300枚、うち売り上げは260枚だったと伝えられます)、『Etcetera』はともに好ましい佳作ですが、ラゴーニア(ニュー・ジャグラー・サウンド~ウィー・オール・トゥギャザー)が臨界点を越えたのはこのシングル「World Full of Nuts」に尽きます。この曲は1999年にリーバイスのCMに使われ日本でのみヒットしたイギリスのヒップスター・イメージ(Hipster Image)の「メイク・ハー・マイン (Make Her Mine)」(Decca, 1965) に匹敵し、ある意味それを越えます。テレビCMでこれが流れてきたら、「メイク・ハー・マイン」以上のインパクトを放つに違いありません。時代がラゴーニアに追いつくのを待つばかりです。
Hipster Image - Make Her Mine (Single B-Side, Decca, 1965) - 2:15 :