サン・ラ - ウィ・トラヴェル・ザ・スペース・ウェイズ (El Saturn, 1967) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ウィ・トラヴェル・ザ・スペース・ウェイズ (El Saturn, 1967)
サン・ラ Sun Ra and his Myth Science Arkestra - ウィ・トラヴェル・ザ・スペース・ウェイズ We Travel The Space Ways (El Saturn, 1967)  

Released by El Saturn Records LP409, 1967
All songs were written by Sun Ra.
(Side A)
***A1. Interplanetary Music - 2:41
****A2. Eve - 3:08
***A3. We Travel The Space Ways - 3:23
***A4. Tapestry from an Asteroid - 2:07
(Side B)
****B1. Space Loneliness - 4:49
*B2. New Horizons - 3:01
**B3. Velvet - 4:36
total time; 23:45
*recorded at Balkan Studio, Chicago, April 13, 1956
**recorded at RCA Studios, Chicago, around June 17, 1960
***recorded at various rehearsals in 1960
****recorded at the Pershing Lounge, Chicago, July 13, 1961
[ Sun Ra and his Myth Science Arkestra ]
Sun Ra - piano (expect A1), cosmic tone organ (A1)
Phil Cohran - trumpet (A4), cornet (B3), zither/vocal (A1)
Walter Strickland - trumpet (A2)
George Hudson - trumpet (A3, B1)
Art Hoyle - trumpet (B2)
Nate Pryor - trombone (A2, B3)
Julian Priester - trombone (B2)
Marshall Allen - alto saxophone (A3, A4, B1, B3), percussion (A1), bells/flying saucer/vocal (A3, B1)
James Scales - alto saxophone (B2)
John Gilmore - tenor saxophone (A2, A3, A4, B1, B3), cosmic bells/vocal (A1), perc./vcl (A3, B1), bells (B2)
Pat Patrick - baritone saxophone (A2, B2)
Ronald Wilson - baritone saxophone (A4)
Wilburn Green - electric bass (B2)
Ronnie Boykins - bass (A1, A2, A3, A4, B1, B3), percussion/vocal (A1, A3, B1)
Robert Barry - drums (A4)
Jon Hardy - drums (A3, A4, B1, B3)
William Cochran - drums (A1, B2) 

(Original El Saturn "We Travel the Space Ways" LP Liner Cover & Side A Label)

 サン・ラ(1914-1993)自身による絵本のようなジャケットがチャーミングな本作は、メンバー、楽曲ともサン・ラ・アーケストラの初期作品中もっとも定番の編成・得意曲を集めたアルバム(英語版ウィキペディアの作品概要より)といわれますが成立は錯綜しており、英語版ウィキペディアでも参加ミュージシャン15名の名前を並べてあるだけで担当楽器の記載がありません。本作はデータ記載の不備のために発売以来長い間、曲ごとの編成や録音年月日が特定できないアルバムとされていました。今回詳細に担当楽器と参加曲をメンバーごとに記載できたのは、Solar Records盤CDの2012年リマスター盤解説書に掲載された詳細解説によります。Solar Recordsはスペインのレーベルで、著作権切れの古い録音と発掘ライヴ音源をリマスター復刻CD化している会社ですが、1990年代からアメリカ本国でサターン音源を正規発売していたEvidenceレーベルより20年後の再発だけあってデータの調査も進み、サターンに直接マスターテープを当たったらしく別テイクや同セッションからのシングルをボーナス収録する、サターンのオリジナル・ジャケットはブックレット内に再現し今となってはかえってレアなインパルス再発盤ジャケットを表ジャケットに採用するなど芸が細かく(サターン盤ではサン・ラ自身によるジャケット・アートが恒例なので、メジャーのインパルス・レコーズ版のリニューアル・ジャケットと対照して鑑賞するとより音楽の味わいも増します)、音質やカップリング(サン・ラの初期アルバムは25分前後ですからCDでは2in1どころか3in1も可能)もEvidence盤をしのぎます。今後もサン・ラ作品のSolarからのさらなる精密リサーチによる改訂再発が望まれます。Solar盤ブックレットでの調査によって、このアルバムの収録曲を録音順で並べると、

B2; *recorded at Balkan Studio, Chicago, April 13, 1956
B3; **recorded at RCA Studios, Chicago, around June 17, 1960
A1, A3, A4; ***recorded at various rehearsals in 1960
A2, B1; ****recorded at the Pershing Lounge, Chicago, July 13, 1961

 となることが判明しました。もっともA1, A3, A4の3曲がB3より早いか遅いかまではわかりませんし、同日録音のA2, B1の前後もわかりません。前作『Angels and Demons at Play』B面とほぼ同時期のバンド初期の1956年録音のB2にエレクトリック・ベースが使われているのも先駆的ですが、担当楽器が判明してようやく納得のいった曲は、たとえばA1「Interplanetary Music」でしょう。ドラムス、ベース、各種パーカッションにサン・ラの「Space tone organ」なる正体不明の楽器が使われたヴォーカル・コーラス曲で、これは楽器の正体も、どんなメンバーで歌っているのかも不明でした。トランペットのフィル・コーランがチターを弾いて歌い、アルトサックスのマーシャル・アレンがパーカッションと「flying saucer」(?)にまわり、テナーのジョン・ギルモアが「Cosmic bells」を鳴らしながらコーラスに加わっているなど音だけではわかりません。この曲は極端な例ですが、こうしてパート解説をしているとジャズではなくて他の種類の音楽について説明している気分になります。ベースのロニー・ボイキンスもパーカッションとコーラスを兼任していますし、マーシャル・アレン、ジョン・ギルモア、パット・パトリック、ロニー・ボイキンスは全米ジャズ界レベルで屈指のプレイヤーなのですが、サン・ラが創造しているのはジャズではなくてアーケストラの宇宙(土星)音楽であり、メンバーもジャズマンではなくアーケストラのメンバーとして合唱曲を演奏しているのだと思うと、やっぱりサン・ラ・アーケストラとはサン・ラというカリスマを中心とした、相当変な人たちの集まりだったのだと思わずにはいられません。

 英語版ウィキペディアは本作の重複曲を簡潔にまとめています。その部分を訳すと、
●このアルバムにはほとんどが本作よりも優れた録音で、先立つサターンからのアルバムに収録されていた曲の別ヴァージョンが含まれている。 「Interplanetary Music」と「Space Loneliness」は『Interstellar Low Ways』1966に、「Eve」も『Visits Planet Earth』1966に、「We Travel The Space Ways」は『When Sun Comes Out』1963から、「Tapestry From An Asteroid」はサヴォイからの『The Futuristic Sounds of Sun Ra』1962から、さらに「New Horizons」はトランジションからの『Jazz by Sun Ra』1956に先立つ録音で、「Velvet」は『Jazz In Silhouette』1959で初演されている。上記のアルバムはすべて1967年発売のこの『We Travel the Space Ways』制作に先立ってすでに発売されていた。
(英語版ウィキペディアより)

 と、1967年まで発売の遅れた本作の全7曲中全曲が既発表アルバムに別ヴァージョンが発表済みであり、中には「New Horizon」のようにデビュー・アルバム録音以前の貴重な録音もありますが、アルバムを代表するタイトル曲も1962年~1963年のニューヨーク進出後に再録音され『When Sun Comes Out』ですでに先行発表されていたヴァージョンが決定版とされますし、また『Interstellar Low Ways』で「Rocket Number Nine」とともに要をなしていた「Interplanetary Music」と「Space Loneliness」も『Interstellar Low Ways』収録ヴァージョンの方が優れるとされています。名曲「Eve」や「Velvet」も『Visit Planet Earth』や『Jazz in Silhouette』収録ヴァージョンの方が良いとなると、何だか代表曲の没ヴァージョンか手慣れた再録音集みたいに見えてきますが、案外本当にそうで、代表曲といえる曲だけあって何度か録音してみてベスト・テイクをこれまでのアルバムで発表してきましが、ふと溜まった没ヴァージョンや再録音をまとめたらこれで1枚の価値もあるのではないかという企画だったのではないかと思われる節があります。「Eli is a Sound of Joy」や「Blues at Midnight」「Medicine for a Nightmare」「Enlightenment」、何より「Saturn」など代表曲はまだまだありますがそれらはもう2~3回、「Saturn」などはそれ以上シングルやアルバムで再録音してきたので、別ヴァージョンとしては初めてのものに絞ったのでしょう。そして今回はアナログLPのAB面で収録時間23分45秒と、サン・ラのアルバムでも最短収録時間のアルバムになりましたが、Allmusic.comでは★★★★、Rolling Stone誌のアルバム・ガイドでは★★★★★の高評価なのは選曲が申し分なく、演奏の出来も聴き較べなければ没ヴァージョンとは気づかないほど充実しているからです。こういう賞味期限切れ寸前の見切り発売みたいな、ただし曲目はベスト盤並みなので落とせないようなものを平気で出してくるあたりも、サン・ラ・アーケストラは時代の先を行っていました。逆を言えば、サン・ラ・アーケストラは本作のような代表曲の未発表テイク集でも、聴きごたえがあり見逃せない名盤を易々と作ることのできる自在さとコンセプトの一貫性、一体感を誇る驚異的なバンドだったのです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)