サン・ラ - ホリデイ・フォー・ソウル・ダンス (El Saturn, 1970)
サン・ラ Sun Ra and his Intergalactic Arkestra - ホリデイ・フォー・ソウル・ダンス Holiday for Soul Dance (El Saturn, 1970) :
Released by El Saturn Records, Saturn Research ESR508, 1970
(Side A)
A1. But Not For Me (Gershwin) - 4:11
A2. Day By Day (Cahn, Stordahl, Weston) - 3:40
A3. Holiday for Strings (Rose, Gallo) - 4:09
A4. Dorothy's Dance (Cohran) - 3:19
(Side B)
B1. Early Autumn (Herman, Mercer, Burns) - 4:53
B2. I Loves You Porgy (Gershwin, Gershwin, Heyward) - 3:35
B3. Body and Soul (Green, Heyman, Sour, Eyton) - 6:00
B4. Keep Your Sunny Side Up (DeSylva, Brown) - 2:12
[ Sun Ra and his Intergalactic Arkestra ]
Sun Ra - percussion, bells, gong and piano
Phil Cohran - cornet
Nate Pryor - trombone and bells
John Gilmore - tenor saxophone and clarinet, percussion
Marshall Allen - alto saxophone, flute, bells
Ronnie Boykins - bass
Jon Hardy - drums
Ricky Murray - vocals on "Early Autumn"
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(Original El Saturn "Holiday For Soul Dance" LP Liner Cover & Side A Label)
本作はサン・ラ生前の1991年にCD化されるも、プレス枚数が少なかったのか、特殊なアルバム内容からかおそらく追加プレスもされず、中古市場でもあまり出回らず、プレミア盤にもならなかったのに、エヴィデンス社によるサターン・レコーズ復刻CD中でもなかなか見つけるのに苦労する作品です。というのはこのアルバムは、シカゴ時代のサン・ラ・アーケストラのアルバム中コルネット奏者フィル・コーランのオリジナル曲が1曲あるきりで、サン・ラ自身のオリジナル曲を含まないスタンダード集として例外的作品とされます。そのためか1960年録音にもかかわらず発表は1970年と、10年遅れでリリースされています。のち'70年代後半以降にはソロ・ピアノ作品をきっかけにアーケストラでもスタンダード曲集も手がけるようになるサン・ラですが、この時期のサン・ラのアルバムとしては『Sound Sun Pleasure!!』(1959年録音・1970年発売)、『Bad and Beautiful』(1961年録音・1972年発売)と三部作をなすスタンダード集と見なせるとは言えますが、それらにはサン・ラのオリジナル曲も含まれますので、本作はもっともスタンダード曲集に徹底した選曲のアルバムとして際立っています。
また本作は1960年6月17日前後にシカゴのRCA系列スタジオ、または貸しホールで集中的に行われた録音セッションからの音源からなる5枚のアルバムのうちの1枚で、他の音源は本作に先立ち『Interstellar Low Ways』(1966年発売)、『 Fate In A Pleasant Mood』(1965年発売)、『Angels and Demons at Play』(1965年発売)、『We Travel The Space Ways』(1967年発売)の4枚に収められていました。つまりもっとも発売が後回しにされた未発表アルバムが本作だったのです。これもやはり本作のスタンダード曲集という性格によるものでしょう。
というわけで、このアルバムについては聴いて楽しめばそれで良く、特に書くこともありません。A4がコルネットのフィル・コーランのオリジナル曲ですがコーランの曲を1曲入れたことに特に意味はなさそうで、あえて意味づければA面最後にオリジナル曲、B面最初にヴォーカル曲というはっきりした分断面を作りたかったのでしょうか。いや絶対そこまで計算してはいなくて、他の未発表アルバムともどもストック曲を振り分けているうちにスタンダードは1枚にまとめるか、とこの選曲にされただけと思われるのです。日本の普通のジャズ・リスナーでもおなじみの曲が少なくともA1、A2、B1、B2、B3と半数を越えます。ではこれがつまらないアルバムかというと、いかにもサン・ラ・アーケストラらしい寂れた味わいがあってなかなか良いのです。いかにも「アーケストラ・バイ・リクエスト」的スタンダード・ジャズ・アルバムですが、いつもはボスのサン・ラのオリジナル曲ばかり演っているアーケストラの面々が気楽にのびのびとスタンダード曲を演奏している肩の力の抜け方が好ましく、サン・ラ作品の中では異色作ながら、聴けば聴くほどしみじみします。サン・ラ・アーケストラは凄腕メンバーが揃っているのにピッチが怪しい、縦線(ユニゾン)が危うい、万年予選落ちの高校吹奏楽部みたいな所があるのですが(また、その肉声感がアーケストラの革新性になっているのですが)、本作ではオリジナル曲で固めた普段のアルバム同様、そこが瑞々しい魅力になっています。ジャズの核心はクラシック音楽基準の吹奏楽的精度とは異なることを、アーケストラ作品はどのアルバムでも教えてくれます。本作のようなスタンダード曲集となればなおさらです。
アルバム・タイトル『ホリデイ・フォー~』の由来かもしれませんが、これらはほとんどビリー・ホリデイのレパートリーでもあり、ビリーのレパートリーということはシナトラのレパートリーでもあります。オリジナルA4はともかくA3とB4は馴染みが薄い曲ですが、ビリーより数倍多作なシナトラとエラ・フィッツジェラルドならきっと録音があるでしょう。サン・ラで聴く大スタンダード曲「But Not For Me」や「Body and Soul」、そして「I Love You Porgy」(サン・ラのピアノも強引なミス・トーンが目立ち、見事なほどにマーシャル・アレンのフルート中心の管楽器アンサンブルのピッチと縦線がバラバラな!)など曲が良いからわかってはいますが、感動なしには聴けません。アーケストラの演奏は、あるいはサン・ラの指揮による意図的な演出なのかもしれませんがスタンダード曲では妙に素朴で、そこも感動のポイントになっているのかもしれません。サン・ラが好き、古きゆかしきスタンダード・ジャズも好き、というリスナーにはたまらないアルバムです。隠れ名盤というほど持ち上げるにはさりげないアルバムですが、案外サン・ラを未聴のリスナーは本作あたりから聴き始めても「ジャズっていいなあ」と思わせてくれる佳作かもしれません。
(旧記事を手直しし、再掲載しました。)