今日の1曲~やがて朝は来るだろう | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ジェリー・バーカーズ - やがて朝は来るだろう (Pilz, 1972)
Jerry Berkers - Es Wird Morgen Vorbei Sein (Jerry Berkers) (from the album "Unterwegs", Pilz, 1972) - 4:10 :  


Jerry Berkers - Na Na Na Chu Chu Chu (Jerry Berkers) (Single A-side, Pilz, 1972) - 3:20 :  

Jerry Berkers - Unterwegs (Pilz, 1972) Full Album :  

 オランダ出身のシンガーソングライター、ジェリー・バーカーズ(1947~1988)は西ドイツ・ラインラント地方のウェーゼンで1971年にキーボード奏者のユルゲン・ドラゼ(1948~)をリーダーに結成されたバンド、ヴァレンシュタイン(Wallenstein)の創設メンバーで、ヴァレンシュタインは1972年~1981年までに9枚のアルバムをリリースしていますが、バーカーズは最初の2枚『Blitzkrieg』(Pilz, 1972)、『Mother Universe』(Pilz, 1972)に参加したのちピルツ(Pilz)~オール(Ohr)、コスミッシュ(Kosmische Musik)・レーベルのオールスター・セッション・アルバム、タロット研究家のヴァルター・ウェグミュラーの『Tarot』(Ohr, 1973)、東洋思想研究家のセルギウス・ゴロヴィンの『Lord Krishna Von Goloka』(Ohr, 1973)に参加したのみで表舞台から姿を消してしまいます。そのバーカーズが唯一残したソロ・アルバムが、ヴァレンシュタインを始めピルツ~オール~コスミッシュのレーベル・メイトをバックに従えた『Unterwegs (途中で)』(Pilz, 1972)で、アナログLP時代の1980年にも再プレスされ、1990年代以降にはCD化されるも、シンガーソングライター的作風からプログレッシヴ・ロックの愛好家が多いユーロ・ロックのリスナーからは不人気アルバムとなっています、ヴァレンシュタインはバーカーズ在籍時の初期2作とバーカーズ脱退後の2作『Cosmic Century』(Kosmische, 1973)と『Stories, Songs & Symphonies』(Kosmische, 1975)までが人気が高く、ポップ化した1977年~1981年までの5作はほとんど顧みられませんが、初期~中期まではのちにクラウス・シュルツェ、アシュ・ラのドラマーとなる名ドラマー、ハラルド・グロスコフが在籍し、リーダーのユルゲン・ドラゼもクラウス・シュルツェと並ぶキーボード奏者と目されていました。バーカーズのソロ・アルバムもドイツでは人気、国際的には不人気のアシッド・フォーク・デュオ、ウィットヘイザー&ウェストラップとドラゼが全面参加し、アレンジとプロデュースをジャーマン・ロック最重要人物ディーター・ダークスが手掛けています。

 この曲「やがて朝は来るだろう (Es Wird Morgen Vorbei Sein)」はベーカーズ唯一のシングルとなったアルバム未収録シングル曲「Na Na Na Chu Chu Chu」(これはいかにもシングル・ヒットを狙ったポップ・ナンバーです)のB面にシングル・カットされ、多くのドイツのバンドが英語詞で歌うのが当然だった当時、ピルツ・レーベルの方針でドイツ語歌詞で歌われ、CSNかニール・ヤングかアメリカ(「名前のない馬」)か、といったフォーキーな曲調にゴツゴツしたドイツ語歌詞がぎこちなく歌われるのが、フランスのヌーヴェル・ヴァーグやアメリカン・ニュー・シネマへの憧憬から始まったニュー・ジャーマン・シネマ(ノイ・デウィッシュ・フィルム)の映画主題歌、または挿入歌のような侘び寂びを感じさせます。端的に言えば1970年代初頭のアメリカのフォーク系ウエスト・コースト・ロックの模倣なのですが、模倣しきれず垢抜けないもったりとしたサウンドになっているのがかえってこの曲の聴きどころにもなっていて、タイトルは「それは明日には終わるだろう」とも訳せますが、「エス・ヴィード・モルゲン・フォバイ・ザイン」とゴツゴツしたサビの歌詞は英語詞で「It Will Be Over Tomorrow (イット・ウィル・オーヴァー・トゥモーウロウ)」と歌われたらまったく別物になってしまいます。ニュー・ジャーマン・シネマの到達点を示すヴィム・ヴェンダースの傑作『さすらい』(1976年)でもエンディング主題歌にウエスト・コースト・ロックもどきのださい英語詞ロック・バラードが使われていたのを思い出します。プログレッシヴ・ロック好きのユーロ・ロック・リスナーにはユルゲン・ドラゼのピアノ、オルガン参加だけが聴きどころと大して評価もされていないアルバムですが、ジェリー・バーカーズ唯一のソロ・アルバム『Unterwegs』は全編に渡ってしょぼいフォーキーなウエスト・コースト・ロックもどきの楽曲が、ショボさに輪をかけるドイツ語歌詞のヴォーカルで聴ける、味わい深いアルバムです。ヴァレンシュタインの初期~中期4作『Blitzkrieg』『Mother Universe』『Cosmic Century』『Stories, Songs & Symphonies』はプログレッシヴ・ロック好きなリスナーを満足させる名作・佳作ですし、スーパーセッション・アルバム『Tarot』『Lord Krishna Von Goloka』はクラウトロック史に輝く名盤ですが、ほとんど見過ごされているバーカーズのソロ・アルバムだって負けず劣らず、しみじみ聴ける良いアルバムではないかと思っています。しょせん音楽は趣味の問題(職業音楽家はともかく、一般のリスナーにとっては)、ぜひバーカーズ一世一代の名曲、「やがて朝は来るだろう」をお聴きください。