ヴァルター・ウェグミュラー - タロット (Kosmische, 1973) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ヴァルター・ウェグミュラー - タロット (Kosmische, 1973)

ヴァルター・ウェグミュラー Walter Wegmuller - タロット Tarot (Kosmische, 1973)
Recorded at The Studio Dierks, Stommein by Dieter Dierks, December 1972
Released by Metronome Records GmbH, Die Kosmischen Kuriere KK58.003, October 1973
(Disk 1) :  

A1. Der Narr (The Fool) - 3:55
A2. Der Magier (The Magician) - 4:38
A3. Die Hohepriestern (The Highpriestess) - 4:17
A4. Die Herrscherin (The Empress) - 4:16
A5. Der Herrscher (The Emperor) - 2:58
A6. Der Hohepriester (The High Priest) - 3:10
(Seite 2)
B1. Die Entscheidung (The Lovers) - 3:51
B2. Der Wagen (The Chariot) - 5:15
B3. Die Gerechtigkeit (Adjustment) - 3:01
B4. Der Weise (The Hermit) - 4:01
B5. Das Glucksrad (Fortune) - 3:38
B6. Die Kraft (Lust) - 3:26
(Disk 2) :  

C1. Die Prufung (The Hanged Man) - 4:56
C2. Der Tod (Death) - 1:19
C3. Die Massigkeit (Art) - 4:44
C4. Der Teufel (The Devil) - 3:35
C5. Die Zerstorung (The Tower) - 4:00
(Seite 4) : 23:00
D1. Die Sterne (The Star) - (6:15)
D2. Der Mond (The Moon) - (2:50)
D3. Die Sonne (The Sun) - (3:03)
D4. Das Gericht (The Aeon) - (2:06)
D5. Die Welt (The Universe) - (8:41)
[ Personnel ]
Walter Wegmuller - concepts, vocals, composer
Manuel Gottsching - guitar, composer
Walter Westrupp - guitar, composer
Jerry Berkers - guitar, bass, composer
Klaus Quadro Schulze - drums, electronics, composer
Jurgen Dollase - keyboards
Hartmut Enke - bass, composer
Harald Grosskopf - drums, composer 

(Original Kosmische "Tarot" LP Inner Box, Inner Credit Sheet & Disk 1 & Disk 2 Label)







 ここから先は怒涛の怪作セッション、Ohrの姉妹レーベルKosmische Musikによる通称「The Cosmic Jokers Sessions」アルバムが続きます。特に本作はアナログLP2枚組大作、レーベル所属アーティスト総動員のコンセプト・アルバムとあって当時のジャーマン・ロック(クラウトロック)を代表する大作にして名盤です。正確にはコズミック・ジョーカーズ・セッションのアルバムは'72年8月録音の『Timothy Leary & Ash Ra Tempel / Seven Up』(Kosmische, 1972)から始まっていました。アメリカの科学者ティモシー・リアリー博士(1920-1996)はLSDの研究家・普及活動家でヒッピーの教祖的英雄でしたが、当時アメリカを追われてスイスに亡命中で、在米時にもLSD普及活動のためのロック・バンドとの共演アルバムがありましたが、ドイツでもせっかくリアリー博士が隣国にいるんだからアルバムを作ろうじゃないかという企画が創設メンバーのクラウス・シュルツェがソロ転向のため脱退後マニュエル・ゲッチング(ギター、エレクトロニクス)とヘルトムート・エンケ(ベース)にゲスト・メンバーを迎えて活動していたアシュ・ラ・テンペルの再会アルバム『Join In』制作に上がり、『Seven Up』はアシュ・ラ・テンペルのアルバムというよりはバンドの関係者を多数招いてリアリー博士を囲んだヒッピーのパーティー・アルバムになりました。同作はシュルツェは参加していませんが、『Seven Up』の成功に味をしめたOhr、Pilz、Kosmische Musik主宰のロルフ=ウルリッヒ・カイザーが次にヒッピーの教祖として目をつけたのがタロット研究家でオリジナル・タロットカード作家のヴァルター・ウェグミュラー(1937-2020)で、ウェグミュラーを主役に、ウェグミュラーの新作タロットカード22枚をコンセプト・テーマにタロットカードを特典に封入した2枚組LP大作のボックス・セットがアルバム『タロット』になりました。このアルバムから1972年~1973年にかけて、クラウス・シュルツェはOhr、Pilz、Kosmische所属の男性フォーク・デュオのヴィットゥーザー&ヴェストルップ(W&W)、アシュ・ラ・テンペルのゲッチングとエンケ、ヘヴィ・シンフォニック・ロックのバンド、ヴァレンシュタインのメンバーとともに7作におよぶ「The Cosmic Jokers」セッションのアルバム(1972年~1974年リリース)のレコーディングを始めることになります。ことに本作は半分のインストルメンタル曲はシュルツェの作品と呼べる大作です。その点でも本作はシュルツェ参加作の中でも実質的に半分はシュルツェのアルバムになっています。

 もっともクラウス・シュルツェ自身は後年に一連のコズミック・セッションを契約消化のための濫作、レーベルからの搾取と快く思ってあないことを表明していますが、本作を皮切りにゼルギウス・ゴロヴィン『Lord Krishna von Goloka』'73、ザ・コズミック・ジョーカーズ『The Cosmic Jokers』'74、同『Planeten Sit-In』'74、同『Galactic Supermarket』'74、同『Sci Fi Party』'74、同『Gilles Zeitschiff』'74と続くアルバムはいずれもクラウトロックの爛熟を示す傑作揃いです。うち『Sci Fi Party』と『Gilles Zeitschiff』は『The Cosmic Jokers』『Planeten Sit-In』『Galactic Supermarket』の3作録音時の未発表テイクをコラージュした編集盤ですが、コズミック・ジョーカーズ・セッションのアルバムはもともとプレ・コズミック・セッションの『Seven Up』から即興セッションを編集によって曲にまとめた性格が強かったので、未発表テイクの編集盤と言えどもアルバムとしてはオリジナルなものになっています。むしろ異質なのはタロット作家ウェグミュラとの本作『タロット』や、やはりヒッピーの教祖的存在だった東洋思想研究家ゼルギウス・ゴロヴィン(1930-2006)をコンセプト・メーカー、作詞家、ヴォーカル(語り)に迎えた『ロード・クリシュナ・フォン・ゴロカ』なので、この2作ではヴォーカル(語り)のパートを考慮して作曲された曲と即興セッション部分が混在しており、特にシュルツェが演奏パートのリーダーシップを握る場面が多いのです。『The Cosmic Jokers』『Planeten Sit-In』ではゲッチングのギターとシュルツェのエレクトロニクスが主役のためアシュ・ラ・テンペルの発展型になっており、『Galactic Supermarket』はレーベル仲間のゲストを招いたシュルツェのアルバムと言っていいほどクラウス・シュルツェの音楽になっています。

 このアルバムは乗り乗りのロックンロールで始まり、ウェグミュラーがスーパー・グループのメンバーを一人ずつ紹介していきますが、全員アンダーグラウンドのミュージシャンなので「ベース!ジェリー・バーカーズ!」(この1曲目はエンケ不参加で名前が呼ばれないので、同時録音されたアシュ・ラ・テンペルの『Join Inn』ではエンケの名前がトップにクレジットされたのかもしれません)などと一人一人名前を呼ばれても豪華メンバーどころかあまりにアンダーグラウンドなメンバーばかりで笑ってしまうのですが、アシュ・ラ・テンペルやシュルツェはもとよりヴィットゥーザー&ヴェストルップも当時のドイツを代表するヒッピーのフォーク・デュオですし、ヴァレンシュタインも英米スタイルのプログレッシヴ・ロックとはいえ『Cosmic Century』(Kosmische, 1973)を頂点に初期4作の名盤を持つ、同期のバース・コントロールよりは確実に上でヘルダーリン、後輩のノヴァリスと並ぶ実力派です。アルバムD面の5曲は5曲シームレスの23分の大作で、クラウス・シュルツェがアシュ・ラ・テンペルとヴィットゥーザー&ヴェストルップ、ワレンシュタインのメンバーを総動員し、ヴォイス・アクターにウェグミュラーを配した、1972年末時点でのドイツのロックの最上の面ばかりを抽出したような出来になっています。メロディアスでドラマティックでかつ幻想的な瞑想性があり適度に実験的、しかもロックの乗りがあり完成度の高いこのアルバムは、各アーティストでは(シュルツェでさえ)まだこの時点では達成できなかったもので、メンバー間の結束すら感じられる'70年代前半のドイツのロックの粋を集めた金字塔的な大傑作とすら言えます。本作をよりコンパクトにして瞑想性を強め、アコースティックにしたのが『ロード・クリシュナ~』になります。シュルツェの関わった一連のコズミック・ジョーカーズ作品は、単なる企画セッションではない、'70年代初頭の西ドイツの粋を凝縮した記念碑的作品です。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)