偽ムーミン谷へのご案内 | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。


 このブログはでは一昨年・2021年の1月1日(金)から毎週金曜日~火曜日の週5日ペースで(総タイトル)『偽ムーミン谷のレストラン』という偽童話シリーズを載せました。同シリーズは「偽ムーミン谷のレストラン」を8週間・40回、「荒野のチャーリー・ブラウン」を8週間・40回、「戦場のミッフィーちゃんと仲間たち」を8週間・40回、「夜ノアンパンマン」を8週間・40回、「Nagisaの国のアリス」を8週間・40回、と40週間・全200回に渡って連載し、10月5日(火)に五部作を完結いたしました。本文作者「かずP」にとっても、挿し絵をお引き受けいただいたイラストレーターのまりえ(まりe)さんにとっても週5回・40週連続という長丁場は初めてでしたが、一度も落とすことなく完遂いたしました。

 このブログに載せている文章はすべて趣味の作文で、記事などと呼べるような商品価値のあるものはありません。ただし筆者はかつてフリーの雑誌ライターという(底辺とはいえ)文筆業の端くれだったので、休業療養生活中の今でも書くからには全力を尽くします。軽音楽(ジャズ、ロック、ポップス)や文学(明治~昭和年代の現代詩)、映画(サイレント時代の作品や現代インディー映画)の紹介の方は長年親しんできたものを、さらに注意深く文献資料に当たってまとめあげてるようにしていますが、「偽ムーミン谷」五部作は単なる思いつきと出たとこ任せで書いてみようとした結果の産物で、「偽ムーミン谷のレストラン」というタイトルだけをアイディアに書いてみたのがあの始末です。長さがちょうど夏目漱石の「坊ちゃん」や「草枕」とほぼ同じ、原稿用紙200枚相当になったので(漱石はこの2作を専業作家になる前の大学教員時代に三日二晩や一週間で書いたそうで、漱石を引きあいに出すのはおこがましい限りですが)、だったら続編も書いて見ようと「荒野のチャーリー・ブラウン」「戦場のミッフィーちゃんと仲間たち」とタイトルだけを先に決めて書き続け、どれも原稿用紙200枚なら全部で1,000枚(そうしたら漱石の『吾輩は猫である』『明暗』と同じくらいの長さになります)にしてやろう、と「夜ノアンパンマン」「Nagisaの国のアリス」と書いて、原稿用紙200枚ずつ、全五部で全1,000枚の『偽ムーミン谷のレストラン』五部作まで書きました。漱石と並んで愛読する明治・大正作家の岩野泡鳴のライフワークに『泡鳴五部作』と呼ばれる大作があり、それも念頭にありました。漱石、泡鳴は蒲原有明、辻潤、牧野信一らとともに病跡学的研究から双極性障害がほぼ確定されており、生前に専門医診断で双極性障害が確認されていたヴァージニア・ウルフや宇野浩二(深刻な慢性的統合失調症まで進行しながら回復した稀な人ですが)、坂口安吾とともに親近感を抱かずにはいられません。
 
 もちろん双極性障害の発症者が文筆に優れた才能を持つのはごく少数の作家たちだけなので、筆者などは非才の見本でしかありません。偽ムーミン谷シリーズについて言えばイラストレーターのまりえさんの描き下ろしイラストを得てどうにか形になっていたようなもので、イラストの方が本体、本文はただの包み紙みたいなものです。またアレは「かずP」という作者によるもので、ポルノ小説やエロゲーで作者やキャストが別名(匿名)を使うようにアレは18禁用別ネームによる代物です。「まりe」さんことまりえさんにはイラストの再使用・転用の許可をいただいているので、今回はシリーズ第一部「偽ムーミン谷のレストラン」から部分抜粋再掲載して恥をさらそうと思います。全文お読みいただけるなら書庫「偽ムーミン谷のレストラン五部作」に残してありますので、奇特な方はご覧ください。以下部分抜粋再掲載いたします。

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 スナフキンが着いたのは、夜も更けてからのことでした。谷は深い雪の中に横たわっていました。谷の両側にそびえるはずの山はまったく見えず、霧と夜の闇に包まれていました。街の中心地を示すかすかな灯りさえなく、スナフキンは長いあいだ国道から谷に通じる木の橋の上に立ちすくみ、ぼーっとなにもない空間を見上げていました。
 やがてスナフキンは泊まる場所をさがしに出かけました。宿屋はまだ開いていました。空いた部屋はありませんでしたが、宿屋の主人は突然の深夜の客に驚き、面食らって、酒場の床でよければゴザでも敷いて寝かせてあげよう、と申し出ました。それで結構、とスナフキン。農夫が数人まだビールを飲んでいましたが、スナフキンは誰とも口をきく気がしないので、屋根裏部屋から自分でゴザを下ろしてきて、ストーヴの近くに横になりました。暖かいな、とスナフキンは思いました。農夫たちは静かでした。スナフキンは疲れた目でしばらく彼らの様子をうかがっていましたが、やがて眠り込みました。
 ところが、うとうとしたかと思うとすぐにまた起されました。都会的な服装で、俳優にでも向きそうな顔立ちの、目の細い、眉の濃い若い男が、宿屋の主人と並んでスナフキンのすぐそばに立っていました。農夫たちもまだ店にいて、椅子をこちらに向け、成り行きを見守っている様子です。
 若い男はスナフキンを起したことを丁重にわびて、領主の執事の息子だと自己紹介したのち、告げました。この宿は、谷の領土です。ここに住む者や宿泊する者はすでに谷の中に住むか、または泊まるも同然です。それには公的入谷許可証が必ず要ります。ですがあなたは、その許可証をお持ちでない。というのが失礼になるなら、その許可証をご提示にならない。
 スナフキンは上半身を起こし、帽子をかぶり直すと、若い男と宿屋の主人を見上げて、どういうことでしょうか、と訊きました。
 申し上げた通りです、と簡潔に、若い男。
 それで、宿泊の許可が要るというのですか?とスナフキンは先ほどからのやり取りが夢ではないかと確かめるように言いました。
 そうです、この谷では、と若い男。そして、宿屋の主人や農夫に向かってあからさまにスナフキンを嘲る仕草をしました。
 この宿も谷だとおっしゃのですか?
 若い男はゆっくりと、もちろんです、と答えました。ここはムーミン谷という谷です。
 
 
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 第六章。
 ムーミン谷近代美術館所蔵映画全目録。『愛と死をみつめて』『赫い髪の女』『赤いハンカチ』『秋津温泉』『網走番外地』『天城越え』『嵐を呼ぶ十八人』『ある殺し屋』『生きているうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』『伊豆の踊子』『一心太助』『刺青』『いれずみ判官』『浮雲』『右門捕物帖』『駅前旅館』『おとうと』『解散式』『陽炎座』『貸し間あり』『花芯の刺青・熟れた壺』『関東無宿』『喜劇あゝ軍歌』『喜劇女は度胸』『君の名は』『巨人と玩具』『切られ与三郎』『斬り込み』『斬る』『くちづけ』『雲ながるる果てに』『狂った果実』『警視庁物語全国縦断捜査』『恋文』『木枯し紋次郎』『月曜日のユカ』『拳銃は俺のパスポート』『ゴキブリ刑事』『ゴジラ』『さらば愛しき大地』『座頭市物語』『思春の泉』『七人の侍』『しとやかな獣』『忍びの者』『勝利者』『処刑の部屋』『女囚701号・さそり』『ションベンライダー』『新幹線大爆破』『地獄』『実録阿部定』『十三人の刺客』『十兵衛暗殺剣』『次郎長三国志・殴り込み甲州路』『仁義なき戦い』『仁義の墓場』『砂の器』『青春残酷物語』『関の弥太っぺ』『0課の女・赤い手錠』『曽根崎心中』『大幹部・無頼』『胎児が密猟する時』『太陽を盗んだ男』『たそがれ酒場』『玉割り人ゆき』『大草原の渡り鳥』『大地の子守歌』『近松物語』『血槍富士』『忠臣蔵』『妻たちの性体験・夫の眼の前で、今……』『手討』『点と線』『東海道四谷怪談』『東京流れ者』『独立愚連隊』『寅次郎恋歌』『なつかしい風来坊』『七つの顔』『南国土佐を後にして』『憎いあンちくしょう』『二十四の瞳』『ニッポン国古屋敷村』『ニッポン無責任時代』『二等兵物語』『二百三高地』『濡れた海峡』『野菊の墓』『野良猫ロック・ワイルドジャンボ』『薄桜記』『博奕打ち・総長賭博』『白昼の襲撃』『張り込み』『反逆児』『反逆のメロディー』『幕末太陽伝』『晩春』『光る女』『人斬り与太』『ひとり狼』『緋牡丹博徒』『笛吹童子』『豚と軍艦』『兵隊やくざ』『本日休診』『瞼の母』『卍』『みな殺しの霊歌』『明治侠客伝』『夫婦善哉』『最も危険な遊戯』『もどり川』『悶絶!!どんでん返し』『やくざ囃子』『野獣死すべし』『野獣の青春』『用心棒』『夜霧のブルース』『四畳半襖の裏張り』『浪人街』『わたしのSEX白書・絶頂度』。上映機材・なし(死蔵)。
 
 
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 まもなくスナフキンは黒い丘のほうへ急ぎました。牧場の後ろはゆるい丘になって、その黒い平らな頂上は北斗七星の下に、ぼんやり普段よりもつらなって見えました。
 スナフキンは、もう露の降りかかった小さな林のこみちを、どんどんのぼっていきました。まっ暗な草や、いろいろなかたちに見えるやぶのしげみの間を、その小さな道がひと筋、白く星あかりに照らしだされていたのです。草むらには、ぴかぴか青びかりする小さな虫もいて、ある葉は青くすかし出され、スナフキンはまるで谷の住民たちが持ち歩く光る木の実のカンテラのようだと思いました。
 そのまっ黒な、針葉樹や落葉樹の林を越えると、にわかにがらんと空がひらけて天の川がしらじらと南から北へ渡っているのが見え、また魔女の結界の頂きも見わけられたのでした。つりがね草や野菊らの花がそこらいちめんに、夢のなかからでも薫りだしたというように咲き、鳥らしき影が一羽、丘の上を鳴きつづけながら通って行きました。
 スナフキンは魔女の結界の頂きの下に来て、火照ったそのからだを冷たい草になげました。
 谷のあかりは、闇のなかをまるで海の底の宮殿の景色のように灯り、子どもらの歌う声や口笛、きれぎれの叫び声もかすかに聞えてくるのでした。風がとおくで鳴り、丘の草もしずかにそよぎ、スナフキンの汗でぬれたシャツもつめたく冷やされました。スナフキンは谷のはずれから、とおく、黒くひろがった野原を見わたしました。
 そこから汽車の音が聞えてきました。その小さな列車の窓は一列、小さく赤く見え、そのなかにはたくさんの旅人が果実を噛ったり、笑ったり、好き放題楽しんでいると考えると、スナフキンはもう何ともいえずかなしくなり、また眼を天にあげました。
・ああ、あの白い天の帯がみんな星だというゾ
 ……ところがいくら見ていても、その天はスナフキンには天文学で教わるような、がらんとした冷たいところとは思われませんでした。それどころではなく、見れば見るほどそこは小さな林や牧場がある野原のように感じられて仕方なかったのです。そしてスナフキンは青い琴の星が三つにも四つにもなってちらちら瞬き、脚が何度も出たり引っ込んだりして、とうとう茸のように長く延びるのを見ました。また、すぐ眼の下の谷までがぼんやりした多くの星の集まりか、ひとつの大きなけむりのように見えると思えました。
 
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