サン・ラで踊ろう!『ディスコ3000』 (El Saturn, 1978) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ディスコ3000 (El Saturn, 1978)
(Reissued Art Yard CD Front Cover)
サン・ラ Sun Ra and his Arkestra - ディスコ3000 Disco 3000 (El Saturn, 1978) :  

Recorded live in the Teatro Cilak, on January 23, 1978 in Milan. (not credited as such on the cover or labels).
Released by El Saturn Records Saturn CMIJ 78, 1978
Reissued & Expanded Edition by Art Yard CD001, 2007
all compositions by Sun Ra
(Side A)
A1. Disco 3000 (incl. Space is the Place) (Sun Ra) - 26:16

(Side B)
B1. Third Planet (Sun Ra) - 8:44
B2. Friendly Galaxy (Sun Ra) - 6:06
B3. Dance of the Cosmo-Aliens (Sun Ra) - 11:06
[ Sun Ra and his Arkestra ]
Sun Ra - organ, piano, Crumar Mainman organ, drum box, etc,
Michael Ray - trumpet
John Gilmore - tenor saxophone
Luqman Ali (Edward Skinner) - drums
(Original El Saturn "Disco 3000" LP Front Cover, Alternate Front Cover & Side A Label)

 発表当時はまったく注目も評価もされなかった本作『ディスコ3000』は、サン・ラ(1914-1993)没後の1990年代後半以降急速に再評価が高まり、現在ではサン・ラ作品中屈指の人気アルバムとなっています。本作はサン・ラ・アーケストラのヨーロッパ公演に伴い、イタリア・ツアーでのみ行われた期間限定1978年1月のカルテットのライヴ・アルバムとして、1月9日録音の前作『Media Dreams』と次作の補遺編『Sound Mirror』と併せて三部作、または『Media Dreams』との姉妹作になります。つまり『Sound Mirror』に収められた『Media Dreams』『Disco 3000』の未収録テイクは両作の現行完全版2枚組CDに網羅されており、『Sound Mirror』に追加されていたイタリアから帰国後のフィラデルフィアのライヴ・テイクはここでは対象外になるからです。このカルテットはローマのホロ・レコーズにスタジオ盤『New Steps』(1月2日・7日録音)、『Other Voices, Other Blues』(1月8日・13日録音)を録音し、『Media Dreams』は『Other Voices~』の中間日に行われたライヴでした。スタジオ盤2作はともにLP2枚組の大作で、「Sun Ra Quartet Featuring John Gilmore」名義でしたが、バンドの自社サターン・レコーズからのライヴ盤『Media Dreams』『Disco 3000』では同じメンバーのカルテット編成ながら「Sun Ra and his Arkestra」名義に戻しています。ベーシスト不在の編成のためスタジオ盤ではピアノまたはベース・キーボードによる同時もしくはオーヴァーダビングだったベース・パートが、ライヴではシンセサイザー内蔵のシークエンサーによるループ・ベース・プログラミングとドラムマシーンとの同時演奏で飛躍的に大胆になったのが『Media Dreams』でもうかがえましたが、スタジオ盤2作とも完成後の1月23日のコンサートを収録した本作ではさらに自由度が増した奔放な演奏が聴け、テクノ・パンク・スペース・ファンク・フリージャズとも言うべき状態になっています。こんなジャズはサン・ラ以外には聴けない、しかも本作はその究極的作品という面でも、本作はジャズのリスナーを越えて広く現代ポップスやロックのリスナー(クラウトロックや電子音楽系リスナー、スペース・ロックやプログレッシヴ・ロック、オルナタティヴ・ロック、ポスト・ロックのリスナー)からも絶大な支持を受けている、時代を超越したアルバムとなりました。

 本作の評価が遅れたのは『ディスコ3000』という(同時にタイトル曲の冒頭2分43秒がシングル・カットされた際は、「ディスコ2100 (Disco 2100)」というタイトルがつけられました)、普通ジャズマンならつけないようなうさんくさいタイトル、手にとる気も起きなければ内容もたぶん適当なフュージョン風のジャズ・ファンクでもやっているんじゃないかとしか思えないこのタイトルと、自主レーベルのサターン盤ならではの入手しづらさとデータの不備、プレスごとに異なるジャケット(曲目はレコード・レーベルにのみ記載)というのでは、サン・ラの熱心なファンでも本作の位置づけに困ったでしょう。本作は少なくとも1978年~1979年にリリースされた8種類のジャケットが確認されていますが、サターン盤のジャケットはメンバー、スタッフ、ファン有志の手作りなので初回プレス以降実際は何回の追加プレスが行われたか断定できず、おそらく累計2000ロットほどの追加プレスにジャケットが揃うごとに分売されたものと思われます。また本作が『ディスコ3000』とされたのはユーロ・ディスコの発祥地イタリアでのライヴだったからとも思われ(タイトル曲「ディスコ3000」は実質的には1973年の代表曲「スペース・イズ・ザ・プレイス (Space is The Place)」の拡張ライヴ・ヴァージョンです)、64歳にして最新の流行ビートに挑むサン・ラの挑戦的実験意欲が託されていますが、オーディエンスからのレスポンスをほとんどカットしたライン録音のためによほど注意して聴かないとライヴ盤とはわかりません。オン・タイムで切り替えられる極彩色のシンセサイザー・シークエンサーをリズム・トラックにサン・ラのオルガン、ピアノに導かれてトランペット、テナーサックス、ドラムスが自在にインプロヴィゼーションを展開する本作はディスコへの挑戦を越えた実験的、しかしキャッチーでチャーミングな音楽的完成度を達成しており、サン・ラのジャズ・ファンク=フュージョン路線のスタジオ盤には先に『コスモス (Cosmos)』(Cobra, 1976)や、後にはサターン盤の『オン・ジュピター (On Jupiter)』『スリーピング・ビューティ (Sleeping Beauty)』、ファン有志の自主レーベルに提供した『ランクィディティ (Lanquidity)』がありますが、それらはもっと'70年代的な主流ジャズ・ファンクやソフトなAOR的フュージョンとしての完成度を目的とした、実験性をあえて抑制したアルバム群でした。サン・ラはそうしたアルバムでも手抜かりのない優れた成果を示しましたが、ライヴ盤の本作はあらんかぎりの冒険的な実験に挑んで、とんでもない意外性に満ちたアルバムを作り上げています。ジャズ、ソウル、ファンク、エスノ、ロック、電子音楽を総動員して成り立った、本作時点でキャリア50年にもおよぶサン・ラがいかに自己更新を怠らなかったミュージシャンであるかを、本作の成果は証明して余りあります。

 本作のオリジナルLPはコンサートの3分の1を収録したハイライト版にすぎず、2007年にリニューアル再発売されたコンサート完全版の2枚組CDで聴くのが楽しいのですが、最大の聴きものなのはオープニングのアルバム・タイトル曲でオリジナルLPではA面全面を占める、26分を越える自在な演奏が聴ける「Disco 3000」でしょう。これはいわゆる作曲された楽曲というよりもシンセサイザーとドラムマシーンのシークエンス・パターンをいくつか用意し、ベースラインとリズムパターンをシークエンサーに任せながらサン・ラの指揮でメンバーたちがインプロヴィゼーションしていくもので、サン・ラの強力なオルガンとシンセサイザー・プレイで強引に組曲的展開をしていく様子がスリリングです。サン・ラ自身が出たとこ任せの演奏プランで臨んだ演奏なのかシークエンサーとドラムマシーンしか鳴っていないスカスカなパッセージが頻繁に起こり、途中で無理矢理サン・ラ・アンセムの一つで代表曲のヴォーカル曲「Space is the Place」をメンバー全員で合唱するパートはサン・ラ聴いてて良かったなあという感動に襲われます。LP全体の音源リンクを載せましたがA面「Disco 3000」だけの単独リンクも載せましたので、A面曲「Disco 3000」だけでもこのアルバムの真価はつかめます。オリジナルLPのB面3曲はコンサート中盤からの選曲で、B1、B2ではアコースティック・ピアノによるカルテット、B3はドラムスとサン・ラのシンセサイザー・デュオでA面全面の「Disco 3000」のリプリーズ的な演奏になる、良いテイクと選曲ですが、コンサート全曲の完全版CDがスタンダードになった現在この3曲でなくても印象はあまり変わらなかっただろうという感じもします。現在このアルバムは粗末な手製ジャケット(しかも追加プレスごとに異なる)のオリジナルLP通りの4曲構成のCDの方が淘汰された格好ですので、現行版のコンサート全曲完全版2枚組CDの曲目も載せておきます。
◎Double cd tracks: ArtYard, 2007. Double cd with the complete concert.
(Disc one)
1-1. Disco 3000 - 26:16
1-2. Sun of the Cosmos - 10:23
1-3. Echos of the World - 5:59
1-4. Geminiology - 7:40
1-5. Sky Blues - 10:39
1-6. Friendly Galaxy - 6:06
(Disc two)
2-1. Third Planet including Friendly Galaxy - 8:44
2-2. Dance of the Cosmo Aliens - 11:06
2-3. Spontaneous Simplicity - 14:08
2-4. Images including Over the Rainbow - 8:35
2-5. When There Is No Sun  - 13:25
2-6. We Travel the Spaceways - 6:36
NOTES ;
June Tyson is also credited on Art Yard's double cd.

*旧記事に加筆修正し、再掲載しました。