ザ・リッター - ディストーションズ (Warwick, 1967) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ザ・リッター - ディストーションズ (Warwick, 1967)ザ・リッター The Litter - ディストーションズ Distortions (Warwick, 1967) 

Recorded at Dove Recording Studios, Minneapolis and Warren Kendrick's Lake Street Studio, Minneapolis, Minnesota, 1966
Released by Warwick Records WM-671-A, December 1967
Produced by Warren Kendrick
(Side 1)
A1. Action Woman (W.Kendrick) - 2:32
A2. Whatcha Gonna Do About It (Potter, Samwell) - 2:27
A3. Codine (St. Marie) - 4:30
A4. Somebody Help Me (Edwards) - 1:55
A5. Substitute (P.Townshend) - 2:36
A6. The Mummy (Bomberg, Caplan) - 1:25
(Side 2)
B1. I'm So Glad (S.James) - 3:47
B2. A Legal Matter (P.Townshend) - 2:47
B3. Rack My Mind (C.Dreja, J.Beck, J.McCarty, K.Relf, P.S.Smith) - 3:41
B4. Soul-Searchin' (W.Kendrick) - 2:47
B5. I'm A Man (E. McDaniel) - 4:00
[ The Litter ]
Dan Rinaldi - guitar and vocals 
Bill Strandlof - lead guitar
Denny Waite - organ, blues harmonica and lead vocals
Jim Kane - bass guitar
Tom Murray - drums
(Original Warwick Records "Distortions" LP Liner Cover & Side 1 Label)

 サイケデリック・ロックというと何かおどろおどろしくアンダーグラウンドなものと思われがちですし、実際にそういうバンドやアーティストもたくさんいますが、アメリカのサイケデリック・ロックの元締めグレイトフル・デッドなどは一見ただのフォークだったりカントリーだったりする楽曲も相当多かったりするので、サイケと言っても単なる時代区分で分類されているだけだったりアシッド・トリップ的なムードがあれば何でもサイケと呼ばれたりします。特に一発屋的バンドに顕著なのはけばけばしいお化粧をしたお姉ちゃんたちがミラーボールの下でゴーゴーを踊り狂っているようなイケイケのロックンロールで、今回ご紹介するザ・リッターのデビュー・アルバムはブルー・チアーのデビュー作と並んで「アメリカのファズ・ギター・サイケの最高峰」と定評がありますが、英語版ウィキペディアではザ・リッターと共通する音楽性のバンドとして本作でもカヴァーされているヤードバーズ(B3, B5)、ザ・フー(A5, B2)、スモール・フェイセズ(A2, A4)、クリーム(B1)、シャーラタンズ(A3)などと並んで同時代のアメリカ各地、世界各国のバンドが引き合いにされており、ザ・リッターに相当する日本のバンドは「初めて武道館で演奏した日本のロック・バンド」(これは完全に事実誤認ですが)ザ・スパイダースだそうです。

 英語版ウィキペディアには日本の「Group Sounds」の項目もあるのですが、リッターに近いのは純粋にビート・グループだったGS第1世代のスパイダースよりもビート・グループからサイケデリック・ロックに両足をかけた第2世代のザ・ジャガーズやザ・テンプターズ、ザ・ゴールデン・カップスやザ・モップス、ザ・ビーバーズらでしょう。リッターは1966年後半~1967年春デビューの第1世代のサイケ・バンドよりデビュー・アルバムの発売が遅れたのです。もっとも早いラヴが1966年3月にアルバム・デビューし、ザ・シーズのデビュー作が4月、ラヴのセカンド・アルバムとカウント・ファイヴ、13thフロア・エレベーターズのデビュー・アルバムは1966年11月にリリースされています。ザ・ドアーズは1967年1月、エレクトリック・プルーンズは1967年4月にデビュー・アルバムをリリースしますから、1967年12月リリースのリッターのデビュー・アルバムはカヴァー曲の古さからも時期を逃したというほかないでしょう。モビー・グレイプの傑作デビュー・アルバムが1967年6月で、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・クラブ・バンド』と同月だったため完膚なきまでに割を食いました。またチョコレート・ウォッチバンドもリッターと同様アルバム・デビューが遅すぎた(1967年9月)ためにデビューと同時に時代遅れだったバンドです。渡英してデビューしたジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのデビュー作も1967年5月イギリス先行発売、アメリカ発売は8月でしたが、ジミは1967年6月のモンタレー・ポップ・フェスティヴァルで大反響を呼んでおり、ジミのデビュー作『Are You Experienced?』は1967年の全米年間アルバム・チャートの1位になっています。本作と同月にはジミ・ヘンドリックスが早くもセカンド・アルバム『Bold As Love』をリリースしています。アメリカのロックがジミ以前・ジミ以後に分けられるのは高い音楽性とテクニックを備えたジミの登場でアメリカのビート・グループの主流だった乗り一発のガレージ・ロックが一気に古臭くなってしまったからで、逆にパンク・ロック以降の一部のミュージシャン、批評家、リスナーには'60年代アメリカン・ロックの真髄はジミ以前のガレージ・ロックにありとする再評価もなされるようになりました。

 リッターはミネソタ州ミネアポリスのローカルなガレージ・ロック・シーンを代表するバンドで、1966年内にはシカゴのワーウィック・レコーズにアルバムの録音を済ませていたようです。アルバムに先立って3枚のシングルが発売されており、すべてデビュー・アルバム収録曲になりました。1967年1月のデビュー・シングルが別レーベルなのはワーウィックへの売り込み前のプライヴェート・プレスだったのでしょう。ミネソタでは玉子売りだけでなくリッターのようなガレージ・バンドがうじゃうじゃいてファズ・ギターをぶんぶん唸らせていたと思うと、アメリカ'60年代ロックの底深さにはくらくらします。

"Action Woman" c/w "A Legal Matter" (Scotty 803G-6710) January 1967
"Somebody Help Me" c/w "I'm a Man" (Warick 9445-6711) 1967
"Action Woman" c/w "Whatcha Gonna Do About It" (Warick 6712) 1967

 ワーウィック以前・ワーウィック時代のシングルは上記3枚で、ザ・リッターはアルバム1作ごとにメンバー・チェンジするとともにレコード会社を移籍し3枚のアルバムを発表、その後は細々と1972年まで活動しました。それもデビュー作の録音が1966年中には完成していたのにリリースが1967年12月と、ライヴ活動とアルバム・リリースがうまくかみ合わなかったのが原因と思われます。1990年代になってCD再発の好評から臨時再結成を繰り返し、'60年代ガレージ・ロックの再発レーベルArf! Arf!からライヴ盤、新作スタジオ盤もリリースしていましたが、オリジナル・メンバー中リード・ギターのビル・ストランドロフは参加せず、2015年にギター&ヴォーカルのダン・リナルディも逝去したようです。デビュー・アルバム時のプロモート写真を見るとヤードバーズのファッションに感化されたのは明らかですが、まるでプライマル・スクリームやオアシス以降のイギリスのバンドのようで、このファッション・センスもリッター再評価に結びついています。
[ The Litter Album Discography ]
1. Distortions (Warick WM-671-A) 1967
2. $100 Fine (Hexagon 681-S) 1968
3. Emerge (Probe 4504-S) 1969
4. Live At Mirage 1990 ‎(Arf! Arf! AA-079) 1998
5. Re-Emerge (Arf! Arf! AA-080) 1999

 リッターはセカンド・アルバムからはメンバーの自作曲が増えますが、ゾンビーズの「She's Not There」を9分のジャムセッション・アレンジにするなどリッターの演奏力では手に余る無理がアルバムのバランスを崩しているものの、ムーグ・シンセサイザーを導入し、4トラック・レコーダーと2台の2トラック・レコーダーで録音しミキシングに2トラック・レコーダー3台を連結する凝ったエンジニアリングでバンドの実力の限界まで迫る意欲的な力作になりました。ワーウィックは主に黒人音楽のインディー・レーベルでしたから、大手ABCレコーズ傘下のプローブ・レコーズからのリリースだったサード・アルバムでは出世の機会もあったかと思いますが(同社は前年・同年にソフト・マシーンの初期2作も出しています)、リード・ヴォーカルとリード・ギターがメンバー・チェンジしてサイケデリック色は残しつつ方向性はハード・ロック路線になっています。リッターのようなローカル・バンドはメンバー・チェンジによってバンドのアイディンティティーの一貫性が失われがちですし、サード・ アルバムの印象はMC5もどきといったところですが、リッター本来の指向からすれば1968年デビューのジェフ・ベック・グループとレッド・ツェッペリンの未熟な影響が見られるものの、これもアメリカン・ガレージ・ロックのマニアには人気の高いアルバムです。『Distortions』がほとんどブリティッシュ・ビート・グループのカヴァーからなるアルバムなのは先に指摘しましたが、アルバムの白眉はウォーレン・ケンドリックのオリジナル曲「Action Woman」「Soul-Searchin'」の2曲です。メンバーでもないこの人は何者かというと、アルバムが制作されたミネアポリスのレイク・ストリート・スタジオのオーナーで、このアルバムのプロデューサーにクレジットされている人物です。エレクトリック・プルーンズが半ばデイヴ・ハッシンジャーに作られたバンドだったように、リッターもウォーレン・ケンドリックが発掘してきた学生バンドだったのでしょう。「Action Woman」「Soul-Searchin'」の2曲、ことに1コードでぶんぶん唸るファズ・ギター(このギターの歪み具合はジミ・ヘンドリックス以上で、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのセカンド・アルバム、ブルー・チアー、MC5、ザ・ストゥージス以前にも以降にもこれほどヤケクソな力任せの爆音ファズ・ギターは聴けません)が炸裂する「Action Woman」はリッター最高のキラー・チューンですが、ケンドリックスにはこの水準の楽曲をアルバム全曲分書き下ろす才覚はなかったようです。この曲はゴッズ1967年の怪作『Godz 2』冒頭の名曲「Radar Eyes」と酷似したベースのペダル・トーンが肝になっていおり、ゴッズはレコード会社勤務の会社員のバンドでしたから1967年1月発売時点でシングル盤の「Action Woman」をいち早く聴いていた可能性は大いにあります。また日本の誇るゴールデン・カップスとモップスのデビュー・アルバムは1968年3月、ビーバーズは6月ですが、リッターの本作はカヴァー曲の演奏でも正直それ以上の出来とは思えません。しかしリッター'60年代の3作のアルバムは国際的実力を持っていた日本のトップ・グループと匹敵するほどの出来とは言えるわけで、ライヴではアルバムがこぢんまりとして聞こえるほどにさぞ壮絶な爆音演奏が聴けただろうと思うと、13thフロア・エレベーターズ、ブルー・チアー(1968年3月デビュー)と並んでリッターの存在は'60年代きってのプロト・パンク、フリークビート、ルーツ・オブ・シューゲイザーと目されるだけのことはあるのです。現役でバンドを組んでいらっしゃる方はぜひ「Action Woman」(やゴッズの「Rader Eyes」)をレパートリーにしていただきたいとお勧めする次第です。 またバンドをやってらっしゃる方はリッターやゴッズを聴いて「俺達の方がずっと上手い」と感想を抱かれるかもしれませんが、これらはすでに55年以上を経て今なお聴かれている音楽で、2022年の今2077年になっても聴き継がれている音楽を作り出せるか、襟を正してお聴きいただきたいものです。


(旧記事を手直しし、再掲載しました)