サン・ラ - ライヴ・アット・ピットイン (DIW, 1988) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ライヴ・アット・ピットイン (DIW, 1988)
サン・ラ Sun Ra Arkestra - ライヴ・アット・ピットイン Live at Pit-Inn (Cosmo Omnibus Imagiable Illusion) (DIW, 1988) :  

Recorded live at Pit-Inn, Shinjuku, Tokyo, August 8, 1988
Released by DIW Records DIW 824 (CD), DIW 8024 (LP), DIWP 2 (LP picture disk, limited edition of 1000 copies), 1988
All Compositions except as indicated and Arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Introduction / Cosmo Approach Prelude - 7:29
A2. Angel Race (aka. Discipline 27-II) / I'll Wait for You - 7:18
A3. Can You Take It? (Fletcher Henderson) - 3:14
A4. If You Came from Nowhere Here (Egyptian Fantasy) (aka. Carefree) - 10:27
(Side B)
B1. Astro Black - 11:23
B2. Prelude to a Kiss (Duke Ellington) - 5:11
B3. Why Was I Born? (Jerome Kern) - 5:57
B4. Interstellar Low Ways - 7:23
[ Sun Ra Arkestra ]
Sun Ra - piano, synthesized, vocals 
Michael Ray - trumpet, vocal (on Why Was I Born)
Ahmed Abdullah - trumpet
Tyrone Hill - trombone
Marshall Allen - alto saxophone
John Gilmore - tenor saxophone, timbales
Danny Thompson - baritone saxophone
Leroy Taylor (Eloe Omoe) - alto saxophone, bass clarinet, contra-alto clarinet
June Tyson - violin, vocal (on Astro Black); Bruce Edwards - electric guitar
Rollo Radford - electric bass
Eric Walker - drums
Earl "Buster" Smith - drums
(Original DIW "Live at Pit-Inn" LP Liner Cover, Inner Sheet & Side A/B Label)

 1984年2月にギリシャのジャズ祭で収録されたVol. I~Vol. IIIにおよぶ大作『Live At Praxis』以降サン・ラ・アーケストラはツアーに明け暮れ、今回ご紹介する1988年8月8日(8並び!)の日本公演でのライヴ盤『Live at Pit-Inn』まで、発掘音源も少なければ、サン・ラ生前発売の公式なアルバムは1984年5月収録のライヴ盤『Cosmo Sun Connection』(El Saturn/Recommended, 1985)、1986年秋~年末のヨーロッパ・ツアー時の同年12月18日・19日にイタリアのインディー・レーベルに録音したスタジオ盤『Reflections In Blue』『Hours After』(Black Saint, 1987/1990)、1988年1月11日にニューヨークのライヴ・スポット、ニッティング・ファクトリーで収録され最後のサターン盤リリースとなったライヴ盤『Hidden Fire 1』『Hidden Fire 2』(El Saturn, 1988)くらいしかありません。1987年にはチェコスロバキアでのジャズ祭での1曲がオムニバス盤『Bratislava Jazz Days '87』(Opus, 1988)に収められ、また1988年2月にはディズニー映画曲のジャズ・オムニバス盤『Stay Awake』(A&M, 1988)に1曲『ダンボ』からの曲をスタジオ録音し提供しています。のちにアーケストラはメジャーのA&Mからフルアルバムもリリースし、ディズニー映画(特に『ダンボ』)曲集も制作しますから、オムニバス盤『Stay Awake』への1曲参加はその布石となったものです。また1988年もライヴは活発で、4月まではアメリカ国内、5月~6月はヨーロッパ・ツアーを行い、7月に一旦帰国してアメリカでのスケジュールをこなした後、1988年7月30日、ついに日本に訪れます。

 サン・ラ・アーケストラの日本公演のスケジュールは、全国巡業野外ジャズ祭「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」の企画によるもので、7月31日には神奈川県の読売ランド、8月3日は富山太閣山ランド、8月6日福岡海の中道海浜公園、8月7日大阪万博記念公園というものでした。トリはマイルス・デイヴィスが出演し、サン・ラはマイルスの直前の出演順だったためアーケストラの出演時間は45分程度で、サン・ラで盛り上がった観客のせいでトリのマイルスは割を食ったと言われます。サン・ラとマイルスは'70年代のアン・アーバー・ジャズ・フェスティヴァルでもトリを分けあった因縁がありました。また来日時の野外フェスティヴァルを縫って、8月1日・2日は渋谷クラブ・クワトロで両日とも2時間のステージ、8月8日は日本公演最終日で当時まだ紀伊国屋裏にあった新宿ピットイン(その後新宿御苑に移転)で3時間あまりのクラブ出演が行われています。来日翌日すぐにフェスティヴァル出演、8日までに休みは移動日の5日のみというスケジュールでした。うち「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」から15分の映像収録、30分のラジオ放送が行われましたが、レコード化されたのは新宿ピットイン出演で、8曲入りLPの本作『Live at Pit-Inn (Cosmo Omnibus Imagiable Illusion)』以外にアルバムとはダブりなしのEP3枚組『ライヴ・アット・ピットイン・トーキョー8.8.88 Vol.1/2/3』として各AB面・6曲がレコード化されています。3枚組EPの方は試聴リンクがなくご紹介できず残念ですが、『Live at Pit-Inn (Cosmo Omnibus Imagiable Illusion)』はアナログLPとしては限界の60分近い収録時間でクラブ出演ライヴのハイライト部分を凝縮しています。

 この日本公演のライヴ内容は、同年1月のニッティング・ファクトリー出演を収めた『Hidden Fire』とはこれが同じバンドかと、確かに同じバンドなのはわかるのですが、サン・ラ・アーケストラのライヴ盤でもこんなにジャズらしいジャズで、親しみやすく楽しい内容でリラックスして聴けていいのだろうかと驚くほどサーヴィス精神に富んだ演奏が聴かれます。冒頭のパーカッション・アンサンブルも冗長に流れずマイケル・レイが「さくら、さくら」を吹き、サン・ラのエレクトリック・ピアノはマイルスの「So What」イントロでビル・エヴァンスが弾いていたフレーズを変奏し、やがてトロンボーンやサックス陣が代わるがわるトゥッティを披露すると、A2の「Discipline 27-II」でスウィングするビッグバンド・ジャズに移り、後半はマイケル・レイのリード・ヴォーカルにアーケストラ全員のコーラスで「Dicsiplin 27-II」のリフに乗せながら「I'll Wait For You」と「Angel Race」の歌詞が合唱されます。快適なノリはA3、A4にも続き、B1の「Astro Black」は初演以来ずっと緊張感のあるジューン・タイソンのアカペラ(またはパーカッションが添えられる程度)で歌われてきましたが、本作ではアーシーなバンド・アレンジをバックに歌われます。後述する完全版リリースからはメドレー形式での演奏が、本作ではずいぶん編集されているようですが、アルバム作品としては本作は妥当な編集で密度が高く、録音作品として聴くにはこのくらい凝縮した編集が望ましいでしょう。ドラムスのイントロからフリーかと思いきやB2、ピアノのイントロから始まるB3とスタンダード曲が続き、'50年代のエキゾチック路線の代表曲B4がここではスタンダード曲「Tenderly」のサックス陣持ち替えのフルート・アンサンブルのリフと、しっとりとしたビッグバンド・アレンジで聴けます。またエレクトリック・ギターの導入も過激に走らずバックにソロに快適で、エレクトリック・ベースもツイン・ドラムスになじんでいます。ヨーロッパ・ツアーやアメリカ国内ツアーで演奏先や会場ごとに異なるアプローチをしてきたサン・ラが、初めての(サン・ラ生前のアーケストラとしてはこれが唯一の)日本公演にこうした、もっとも親しみやすい演奏を披露したことでも、本作は日本のリスナーにとって格別な価値のある記念碑的ライヴ盤です。特にピットインのステージに立ったことのある多くのプレイヤーにとって、サン・ラが踏んだステージというだけでも感慨ひとしおのアルバムでしょう。少なくとも筆者はそうで、このステージをエルヴィン・ジョーンズが踏んだ、サン・ラが踏んだと言うだけでもピットインのステージは特別でした。

 また、2015年にアーケストラ自身が配信版で再リリースした『The Pit Inn 8​-​8​-​88』ではLPの8曲・EPの6曲を網羅し編集・未発表部分を復原した、ピットイン出演全16曲が網羅されています。これが3枚組CDでリリースされていないのが惜しまれますが、同配信版再リリースのデータ、曲目を掲載しておきましょう。
Sun Ra Arkestra - The Pit Inn 8​-​8​-​88 (Enterplanetary Koncepts, 2015)
Recorded live at Pit-Inn, Shinjuku, Tokyo, August 8, 1988
Released by Enterplanetary Koncepts,16 x File, FLAC, February 15, 2015
All Compositions except as indicated and Arranged by Sun Ra
(Tracklist)
1. Percussion Introduction - 7:30
2. Discipline/Angel Race/I'll Wait For You - 7:12
3. Prelude To A Kiss (Duke Ellington, Irving Gordon, Irving Mills) - 4:23
4. Astro Black/The Space Age - 12:26
5. Interstellar Low Ways - 7:22
6. Queer Notions (Coleman Hawkins) - 3:15
7. Why Was I Born? (Jerome Kern, Oscar Hammerstein II) - 6:03
8. Prelude #7 In D Major (Frédéric Chopin) - 5:03
9. Can You Take It? (Fletcher Henderson) - 3:12
10. Cosmo Approach Prelude - 7:26
11. Opus Springtime - 9:46
12. Frisco Fog (Allan Roberts, Leon Carr) - 3:30
13. Carefree (Egyptian Fantasy)/If You Came From Nowhere Here - 10:17
14. Fussy Wussy Blues (a.k.a. Cosmo Swing Blues) - 7:39
15. East Of The Sun (Brooks Bowman) - 3:22
16. Space Is The Place - 15:43

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)