X - ワイルド・ギフト Wild Gift (Slash, 1981)
X - ワイルド・ギフト Wild Gift (Slash, 1981)
Released by Slash Records SR-107, May 1981
Billboard Pop Albums #165
Produced by Ray Manzarek
All tracks written by John Doe and Exene Cervenka except A2 and A3.
(Side 1)
A1. The Once Over Twice - 2:31
A2. We're Desperate (Billy Zoom) - 2:00
A3. Adult Books (Billy Zoom) - 3:19
A4. Universal Corner - 4:33
A5. I'm Coming Over - 1:14
A6. It's Who You Know - 2:17
(Side 2)
B1. In This House That I Call Home - 3:34
B2. Some Other Time - 2:17
B3. White Girl - 3:27
B4. Beyond and Back - 2:49
B5. Back 2 the Base - 1:33
B6. When Our Love Passed Out on the Couch - 1:57
B7. Year 1 - 1:18
[ X ]
John Doe - bass, vocals
Exene - vocals
Billy Zoom - guitar
D.J. Bonebrake - drums
(Original Slash "Wild Gift" LP Liner Cover & Side 1 Label)
ロサンゼルス・アンダーグラウンド・シーンの生んだ1977年結成の先駆的パンク・バンド、Xは、メンバー闘病中の現在も散発的に活動していますが、1987年に一旦解散するまでのスタジオ録音アルバムはいずれも'80年代アメリカン・パンクの代表的作品として現在でも高い評価を受けています。
1. Los Angeles (Slash, 1980, Produced by Ray Manzarek) 全英インディー14位
2. Wild Gift (Slash, 1981, Produced by Ray Manzarek) 全米ビルボード165位
3. Under the Big Black Sun (Warner/Elektra, 1982, Produced by Ray Manzarek) 全米ビルボード76位
4. More Fun in the New World (Warner/Elektra, 1983, Produced by Ray Manzarek) 全米ビルボード86位)
5. Ain't Love Grand! (Warner/Elektra, 1985, Produced by Michael Wagener) 全米ビルボード89位
6. See How We Are (Warner/Elektra, 1987, Produced by Alvin Clark) 全米ビルボード107位)
このうち最初のスラッシュ盤2作はインディー・レーベル作品、3作目からはメジャーのエレクトラ盤になります。エレクトラは言うまでもなく、プロデューサーのレイ・マンザレクがリーダーだったザ・ドアーズを世に送り出したレーベルです。80年代のエレクトラはアンダーグラウンド・パンクからはX、アンダーグラウンド・メタルからはメタリカを送り出したレーベルでした。スラッシュ盤のデビュー・アルバム『ロサンゼルス』はセカンド・アルバムの本作『ワイルド・ギフト』と並んで現在も主要な音楽ジャーナリズムからアメリカの西海岸パンクの記念碑的アルバムと目されています。『ワイルド・ギフト』への評価は『ロサンゼルス』と同等以上に高く、
●X - Wild Gift (Slash, 1981)
◎AllMusic [ ★★★★★ ]
◎Christgau's Record Guide [ A+ ]
◎Entertainment Weekly [ A ]
◎Rolling Stone [ ★★★★☆ ]
◎The Rolling Stone Album Guide [ ★★★★★ ]
◎Spin Alternative Record Guide [ 10/10 ]
と、ほとんどすべてのメディアから満点に近い評価を勝ち得ています。発売当時にはヴィレッジ・ヴォイス紙の年間ジャズ・ロック・ポップス総合アルバム投票で2位に(1位は前年1位に『ロンドン・コーリング』が選ばれたのと同じクラッシュの『サンディニスタ』、また前年にはXのデビュー作『ロサンゼルス』は16位でした)、また2003年のローリング・ストーン誌のオールタイム・ベストアルバム500選では334位(『ロサンゼルス』は286位)に選出されました。さらにアメリカ国産アルバムとしてローリング・ストーン誌を始め、ロサンゼルス・タイムズ紙、ニューヨーク・タイムズ紙、ヴィレッジ・ヴォイス紙から1981年度作品の「レコード・オブ・ジ・イヤー」(つまり西海岸・東海岸の主要ジャーナリズム4冠!)に選ばれ、表紙&巻頭インタビューを飾る出世作となっています。
アルバム単体としての評価は『ロサンゼルス』より高いものの、「'80年代ロックを代表する作品」としての歴史的重要性ではデビュー・アルバム『ロサンゼルス』と2択で僅差で『ロサンゼルス』に軍配が上がるようです。ロサンゼルスの大先輩、ザ・ドアーズのデビュー・アルバム『ハートに火をつけて (The Doors)』(1967年1月)とセカンド・アルバム『まぼろしの世界 (Strange Days)』(1967年9月)はほとんど双子のような作品で、楽曲の多彩さとアレンジ力の向上、完成度ではセカンド・アルバムの方が高いのですが、1作となると衝撃的なインパクトを持ったデビュー・アルバムが選ばれるのと同じ事情でしょう。
そうしたデビュー・アルバムとセカンドの作風の類似と甲乙つけ難い出来は、通常レコード・デビューできるほどの実力をつけたバンドなら、単独ライヴをこなせるだけのアルバム2枚分のレパートリーがデビュー時にはすでにあるからなので、似たような例は13thフロア・エレベーターズのデビュー作とセカンド、ブラック・サバスのデビュー作とセカンドなどいくらでも思いつきますが、Xのデビュー作とセカンド・アルバムは2 in1CDでもトータル61分しかない簡潔さです。Xのアルバムは4作目までロサンゼルス・ロック・シーンの裏番長、ザ・ドアーズのリーダー、レイ・マンザレクのプロデュースですが、『Los Angeles』では見事なオルガンでバンドをサポートしたマンザレクは本作以降はギター・バンドのXの演奏を重視し、シングル曲程度しか演奏に加わらなくなります。ジム・モリソン没後のマンザレクにはモリソン抜きのドアーズの2作、ドアーズのリヴェンジを目指した新バンド、ナイト・シティの2作、ソロ・アルバム2作よりもXのプロデュースこそが最大の功績だったでしょうが、『Los Angeles』のドアーズの亡霊を吹っ切ったオルガン・プレイを聴くと、もっと現役アーティストとしてオルガンを弾いてほしかったとも思えます。
Xはパンク・ロックだけあって、ミニマム・ミュージックと言ってもいいくらい切りつめた内容の楽曲をササッと演奏するクールなバンドなので、ドラマチックでメロディアスなダイナミズムを強調するブリティッシュ・ロックの愛好者が多い日本のリスナーにはもっとも好まれない音楽性のバンドと言えるでしょう。短調の曲や構成に凝った曲もほとんどありませんし、ビートもストレートなロックンロールです。アメリカ本国での絶大な評価はむしろそこにあるので、アメリカ国内においては白人と黒人のアイディアのキャッチボールがジャズやロックを生み出し発展させてきた歴史があります。
ビートルズ以降のロックはイギリスとアメリカのアイディアのキャッチボールから発展してきました。優れた成果も多く生まれましたが、ロックンロールの原産国アメリカとしては輸入加工再輸出国イギリスのビートルズ出現以降の優位に対してはコンプレックスに近い感情もあったでしょう。パンク・ロックにしても、ポップ・アート的なガレージ・ロックとしてニューヨークで発生したものに、イギリスの音楽業界人が目をつけて尖鋭化させたもので、それがイギリスではパンクとは既成ロックの否定という尾鰭がついたのでは、本末転倒というものです。
アメリカのパンクには既成ロックの否定どころかロックンロールのルーツ回帰、ロックンロール・リバイバルという側面も大きかったのです。ラモーンズがそうですしブロンディやB-52's、ディーヴォですらもそうでした。スーサイドやクロームのような極端に過激なサウンドのバンドにすらその側面がありました。商業都市ロサンゼルスのバンドには、東海岸ニューヨークのバンドのアート指向や、同じ西海岸でもサンフランシスコのようなエスケイピズム的=ユートピア的コミュニティー指向でもなく、むしろ北部の過酷な工業都市シカゴに近い、観客に徹底的にアピールしようとするプロフェッショナリズムがありましたから、女性ヴォーカルのエクシーンを迎えなければ親好のあったクロームのような過激なサウンド指向に行っていたかもしれないバンドは、「ラモーンズ・ミーツ・ロカビリー」というアイディアから「ロカビリー風のスージー&ザ・バンシーズ、またはよりパンクなB-52's」に近い、しかもカラッとした楽曲を持ち味とするバンドになりました。また男女ツイン・ヴォーカルでルックスの良い、華のあるバンドだったのもライヴ・バンドとしての人気を高めていました。
◎X - Beyond And Back (live 1980 PV from the film "Urgh! A Music War", 1981) :
本作の代表曲「Beyond and Back」は1997年発売のCD2枚組レトロスペクティヴ・アンソロジーの表題曲にもなった名曲ですが、前作の代表曲でストリートのチンピラカップルの痴話喧嘩を笑い飛ばした名曲「Johnny Hit and Run Paulene」とほとんど同じ曲想の曲です。前記の通り一部の曲でレイ・マンザレクがオルガンで客演していたデビュー作に対して、本作は完全に3ピースのギターバンドのサウンドで、曲はよりシンプルに、かつ短い曲ばかりでまとめています。メジャーのエレクトラ移籍第1作になる次作ではバンドの音はヘヴィでダークでゴシック的な(つまりザ・ドアーズ的な)方向に向かうので、その方向でサード・アルバムの代表曲のかっこいい曲も生まれます。
◎X - Hungry Wolf (from the album "Under the Big Black Sun", Warner, 1982) :
しかしXのスラッシュ時代の初期2作は一対として、見事に簡潔なスタイルをデビューから披露してみせたものでしょう。2001年版の現行CD(Rhino盤)は2作それぞれにレトロ・アンソロジーで発掘されたレア・テイクをボーナス収録して単独発売していますが、ロングセラーを続けている1988年の初CD化版(Slash盤)は2作をカップリングした2in1仕様でお徳用です。レア・テイクやサード以降の代表曲まで聴きたければ2枚組アンソロジー『Beyond and Back ; The X Anthology』、またはより年代順に整理された『X The Best: Make The Music Go Bang!』で網羅できます。いまだに日本盤未CD化のXですが、サード・アルバム以降のアナログLP時代のエレクトラ盤発売も、'80年代当時の日本ではほとんど(まったく)話題になりませんでした。さて、今日の日本のリスナーはXをどう聴くのでしょうか。
(旧記事を手直しし、再掲載しました。)