X - ロサンゼルス (Slash, 1980) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

X - ロサンゼルス Los Angeles (Slash, 1980)
X - ロサンゼルス Los Angeles (Slash, 1980)  

Released by Slash Records SR-104, April 26, 1980
UK Indie Album Chart #14
Produced by Ray Manzarek
All tracks written by John Doe and Exene Cervenka except as indicated.
(Side 1)
A1. Your Phone's Off the Hook, But You're Not - 2:25
A2. Johnny Hit and Run Paulene - 2:50
A3. Soul Kitchen (John Densmore, Robbie Krieger, Ray Manzarek; Jim Morrison) - 2:25
A4. Nausea - 3:40
A5. Sugarlight - 2:28
(Side 2)
B1. Los Angeles - 2:25
B2. Sex and Dying in High Society - 2:15
B3. The Unheard Music - 4:49
B4. The World's a Mess; It's in My Kiss - 4:43
[ X ]
John Doe - bass, lead vocals
Exene - vocals
Billy Zoom - guitar
D.J. Bonebrake - drums
(Additional personnel)
Ray Manzarek - organ, production
(Original Slash "Los Angeles" LP Liner Cover & Side 1 Label)
 今回採り上げるロックバンド、またアルバムはアメリカ本国では'80年代ロックを代表する画期的作品、古典的傑作と見なされながら、日本ではほとんど聴かれていない、そもそも日本盤すら一度も出ていない、知る人ぞ知る、知らない人はまったく知らない逸品です。ポピュラー文化では彼此の評価が極端に異なる現象がさまざまなジャンルに見られますが、20世紀のアメリカは軍事・産業大国だった以上に文化大国として世界を席巻していました。映画、ポピュラー音楽、舞台劇など現代のポピュラー文化の発祥はほとんど20世紀前半にアメリカで確立されたものが現在でも文化的規範として流通していると言ってよく、アメリカが共産圏諸国を圧倒しヨーロッパ諸国をも尻に敷いたのはまさに文化の力でした。ただしあまりに生産性が高くローカルなものから全国的なものまでが競いあった状態になったために、アメリカ本国での評価と諸外国での認知に極端な差がついてしまった例も多くあります。たとえばヨーロッパ諸国や日本では映画は映画監督の個性的な創作として作家主義的評価をされましたが、アメリカでは映画は総合的なプロダクション作品として価値を測られます。

 アメリカのポピュラー音楽は何より本国での功績が評価の基準になりますから、諸外国ではほとんど認知されていなくても国内のジャーナリズムから高い評価を得ればアメリカ独自のポピュラー・クラシックに位置づけられる、という待遇がされます。その反面諸外国での反響がどんなに高くてもアメリカ国内で受けないものは輸出商品としての価値しかないので、ヨーロッパ諸国や日本でどれだけ'50年代~'60年代の黒人ジャズの人気が高かろうと、アメリカを代表するジャズはデイヴ・ブルーベックとMJQでした。ブルー・ノートやプレスティッジ、リヴァーサイドら黒人ジャズ・レーベルのジャズはマニアと輸出用のためのインディー作品に過ぎません。一方国内ジャーナリズムで高い評価を勝ち得れば、国際的な話題にはならないインディー作品でもメジャーを圧する評判を呼び、アメリカ国内でのみ高い評価が定着する場合もあります。ロサンゼルスのインディー・レーベル、スラッシュからリリースされたXのデビュー・アルバムである本作は、まさにその典型といえるアルバムです。また日本の同名バンドがアメリカ進出に当たってわざわざ「-JAPN」と追加改名したのも、すでにこのXが存在していたからで、当初アメリカのロック・ジャーナリズムには「偉大なバンドと同名を名乗る無知で図々しいバンド」と大きな反感を買ったほどでした(これが逆に「X-LA」だったら、服のサイズみたいでこそあれ、ロサンゼルス・Xのかっこよさにやはり軍配が上がったでしょう)。

 Xは1977年に別々のローカル・バンドで活動していたベース&ヴォーカルのジョン・ノマンセン・ドゥシャック(John Nommensen Duchac, 1953-)とギターのビリー・ズーム(Billy Zoom, 1948-)にドラマーのD・J・ボーンブレイク(D.J. Bonebrake, 1955-)が加わり「ラモーンズ+ロカビリー」というアイディアのパンク・バンドを試行していたところ、ジョンが詩の朗読会でナンパしてきた女性ヴォーカルのエクシーン・セレヴェンカ(Exene Cervenka, 1956-)をメンバーに加えて正式に発足したロサンゼルスのバンドです。エクシーンのスージー・スー似のヴォーカル、ジョン・ドゥシャック改めジョン・ドゥ(もちろん1941年の映画『群衆』Meet John Doeから。1945年の映画『緋色の街』Scarlet Streetの主人公から芸名を取ったクリストファー・クロスと同じです)のジム・モリソン似の容貌とヴォーカルという男女ツイン・ヴォーカルに、ロカビリー風パンク・ロックというアイディアが受けて、一躍ロサンゼルス・アンダーグラウンド・シーンの人気バンドになりました。先行して類似したアイディアで成功していたバンドにB-52'sがおりましたが、中西部のローカル・パーティー・バンド的なB-52'sのキッチュなポップ・アート的存在感に対して、Xは大都市ロサンゼルスの退廃的なストリート・バンド的なムードがありました。地元のインディー・レーベル、スラッシュからのデビュー・アルバムはドアーズのリーダーだったレイ・マンザレク(1939-2013)がプロデューサーに転向して手がけた作品で、バンドの素のままを捉えた好プロデュースが成功した素晴らしいアルバムになりました。マンザレクは数曲得意のオルガンでも参加しており、B4「The World's a Mess: It's in My Kiss」でのオルガン・ソロなどはあの暗いサウンドのドアーズのマンザレクが弾いていると思うと、若々しいバンドの勢いにドアーズへの未練を断ち切った、まったくスタイルを変えた名演に嬉しくなります。ドアーズの重厚な代表曲を、スリーピースだけの軽やかなアップテンポで、ぶっきら棒かつシニカルにカヴァーしたA3「Soul Kitchen」など、カヴァーしたXも大胆不敵ならこれを許したマンザレクも大したものです。その上Xはステージ映えのするメンバーが揃っていたのもアンダーグラウンドでの人気を高めていました。ザ・ドアーズのオリジナル・ヴァージョンの「Soul Kitchen」とともに、バンドの魅力をじかに伝えるライヴ映像をご覧ください。
◎The Doors - Soul Kitchen (Elektra, from the album "The Doors", 1967) :  

 本作はチャート上ではアメリカではトップ200入りに届かず、イギリスのインディー・チャート14位が最高でしたが、ロサンゼルスのアンダーグラウンド・パンク・シーンの存在を知らしめた本作は、当時のヴィレッジ・ヴォイス紙の年間ジャズ・ロック・ポップス総合アルバム投票で16位(同年の1位はクラッシュの『London Calling』でした)に、また2003年のローリング・ストーン誌のオールタイム・ベストアルバム500選では286位に選ばれています。現在の英語圏の主要音楽ジャーナリズムでの評価も非常に高いものです。

●X - Los Angeles (Slash, 1980)
◎AllMusic [ ★★★★★ ]
◎Christgau's Record Guide [ A- ]
◎Entertainment Weekly [ A ]
◎The Rolling Stone Album Guide [ ★★★★☆ ]
◎Spin Alternative Record Guide [ 9/10 ]
◎Uncut [ ★★★★★ ]

 また1989年のローリング・ストーン誌の「80年代のベスト・アルバム100」では24位、ピッチフォーク・メデァアの「80年代のトップ・アルバム100」では91位にランキングされ、アルバム・タイトル曲は2009年度発表の「ロックの殿堂ベスト500曲」に選出されています。2012年のスラント・マガジン誌の「1980年代ベスト・アルバム」でも依然98位と1980年代のロックの定番アルバムになっています。また本作の収録曲はアメリカでは映画、テレビシリーズにも頻繁に使用されて長い人気を保っています。日本では唯一お茶の間レベルで聴かれたのは、1989年の映画『メジャーリーグ』で使用されたトロッグス1966年の全米No.1・全英No.2の大ヒット曲「Wild Thing」の1984年のシングル・カヴァーが大仁田厚の入場曲に使われただけの知名度しかないバンドですが、スタジオ・アルバム7枚、ライヴ・アルバム3枚をリリースし、1987年に一旦解散した後グランジやオルタナ・カントリー派からの再評価で1993-1995、1997-2007と再結成を重ね、2008年以降はエクシーン・サーヴェンカの筋萎縮症(ASL)との闘病とともに不定期にライヴを行っており、2019年には新作レコーディングも発表されました。デビュー作から一旦解散する間でのオリジナルXのスタジオ録音アルバムは、
 
1980 ; Los Angeles (Slash, Produced by Ray Manzarek) 全英インディー14位
1981 ; Wild Gift (Slash, Produced by Ray Manzarek) 全米ビルボード165位
1982 ; Under the Big Black Sun (Warner/Elektra, Produced by Ray Manzarek) 全米ビルボード76位
1983 ; More Fun in the New World (Warner/Elektra, Produced by Ray Manzarek) 全米ビルボード86位
1985 ; Ain't Love Grand! (Warner/Elektra, Produced by Michael Wagener) 全米ビルボード89位
1987 ; See How We Are (Warner/Elektra, Produced by Alvin Clark) 全米ビルボード107位
 
 で、'85年の『Ain't Love Grand!』ではパワー・ポップ、変名バンドThe Knitters名義で1985年にオルタナ・カントリーのアルバムをリリースしたあとの'87年作品『See How We Are』ではThe Knittersで試した作風をそのまま反映したオルタナ・カントリー化が見られます。インディーのスラッシュ盤2枚、メジャーのエレクトラ盤のマンザレクのプロデュースが続いた2枚の初期4作までは名作として知られ、デビュー作の本作に続くセカンド・アルバム『ワイルド・ギフト(Wild Gift)』はL. A. パンクの歴史的名盤として本作以上の評価を受けているアルバムです。Xをこれからお聴きになる方には、ワーナーからCD再発売されロングセラーになった『Los Angeles / Wild Gift』の2in1CD、1997年にワーナー/エレクトラから発売された1979年から1997年までの代表曲、レア・トラック、未発表スタジオ&ライヴ・テイクの集大成の2枚組決定版コンピレーションCD『Beyond and Back : The X Anthology』、またはより年代順に整理された『X The Best: Make The Music Go Bang!』がお薦めです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)