ザ・ヤードバーズ - サイケデリックのエース (Columbia, 1966) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ザ・ヤードバーズ - サイケデリックのエース (Columbia, 1966)
ザ・ヤードバーズ The Yardbirds - サイケデリックのエース Yardbirds (Roger the Engineer) (Columbia, 1966) + 2 Bonus Tracks :  

Recorded at Advision Studios, London, April - June 1966, *July - October 1966
Released by Columbia Records, UK, Columbia SCX6063, July 15, 1966, *October 21, 1966 (Single Side A/B)
Also Released by Epic Records, US, BN 26210 as "Over Under Sideways Down", August 1966
Produced by Paul Samwell-Smith & Simon Napier-Bell
All songs written by Chris Dreja, Jim McCarty, Jeff Beck, Keith Relf, and Paul Samwell-Smith
(Side 1)
A1. ロスト・ウイメン Lost Women - 3:16
A2. オーバー・アンダー・サイドウェイズ・ダウン Over Under Sideways Down - 2:24
A3. いつも一人ぼっち The Nazz Are Blue - 3:04
A4. 空しい人生 I Can't Make Your Way - 2:26
A5. 恋の傷あと Rack My Mind - 3:15
A6. フェアウェル Farewell - 1:29
7. 幻の十年 Happenings Ten Years Time Ago - 2:57 *CD Bonus Track, Single Side A
(Side 2)
8. サイコ・デイジーズ Psycho Daisies - 1:49 *CD Bonus Track, Single Side B
B1. ホット・ハウス Hot House of Omagararshid - 2:39
B2. ジェフのブキ Jeff's Boogie - 2:25
B3. 悲しきさだめ He's Always There - 2:15
B4. さすらう心 Turn into Earth - 3:06
B5. 君のためなら What Do You Want - 3:22
B6. 愛がなければ Ever Since the World Began - 2:09
[ The Yardbirds ]
Keith Relf - lead vocals (except A3 & "Psycho Daisies"), harmonica
Jeff Beck - lead guitar, lead vocals on A3 & "Psycho Daisies", bass guitar (A2 only)
Chris Dreja - rhythm guitar, backing vocals, piano, bass guitar ("Psycho Daisies" only)
Paul Samwell-Smith - bass guitar (all but A2 & CD Bonus Tracks), backing vocals
Jim McCarty - drums, backing vocals, percussion
Jimmy Page - lead guitar (CD Bonus Tracks only)
John Paul Jones - bass guitar ("Happenings Ten Years Time Ago" only) 

(Original Columbia "The Yardbirds (Roger the Engineer)" LP Liner Cover & Side 1 Label)
 ヤードバーズがやってのけたロック史上の最大瞬間風速的アルバムこそがデビュー作『Five Live Yardbirds』と本作です。イギリス本国発売1966年7月15日(全英#20位)、アメリカ盤はA3, A5を割愛し曲順を組み替えた10曲仕様で、アルバム先行シングル曲A2(英5月#10位、米6月#13位)を表題曲にした『Over Under Sideways Down』(全米#52位)としてコロンビア傘下のエピック・レコーズから8月に発売されました。本作制作完了後にバンド創設以来の音楽的リーダーでベーシストのポール・サミュエル=スミスが脱退してプロデューサーに転向し、セッション・ギタリストとして'60年代中期のブリティッシュ・ロック界で活躍していたジミー・ペイジが新ベーシストとして加入しますが、すぐにペイジは本来のギタリストになり、以降はギタリストだったクリス・ドレアがベースに回ることになりました。最初の日本発売時の邦題は『サイケデリックのエース』、再発売以降アナログLP時代には『ヤードバーズ・フィーチャリング・ジェフ・ベック』または『ジェフ・ベック・アンド・ヤードバーズ』、CD化以降『ロジャー・ジ・エンジニア』と点々と邦題が変えられてきた本作の現行CDには、ジェフ・ベック&ジミー・ペイジ同時在籍時の2リード・ギター編成の唯一のシングル「幻の10年 c/w サイコ・デイジーズ」('66年10月発売、全英#43位・全米#30位)AB面の追加収録が標準仕様になっています。本作はヤードバーズ初の全曲オリジナル曲、かつスタジオ録音のオリジナル・アルバムで、そっけなくバンド名をタイトルとしたため(ただし"The"はなし)、'90年代以降のリマスターCD化では国際的にドレヤが描いたジャケットに記された「Roger the Engineer」が通り名となりました。メンバー自身によるイラストをジャケットにするのは翌'67年1月発売の『Between the Buttons』裏ジャケットでストーンズが真似ており、チャーリー・ワッツがドレヤそっくりのイラストを寄せています。本作の1966年7月(アメリカ8月)発売がいかに驚異的かというと、他の有力アーティストの同時代の最新アルバム発表年月を見るとわかります。●はイギリス、◎はアメリカのバンド(アーティスト)です。

●The Beatles "Rubber Soul" December 1965/UK, US. "Revolver" August 8, 1966/UK, US. "Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band" June 1, 1967/UK, US.
●The Rolling Stones "Aftermath" April 1966/UK, June 1966/US, "Between the Buttons" January 1967/UK, US.
●The Animals "Animalisms" June 1966/UK, "Animalization" August 1966/US, "Animalism" November 1966/US.
●The Kinks "The Kink Kontroversy" February 1966/UK, "Face To Face" November 1966/UK.
●Manfred Mann "Mann Made" October 1965/UK, November 1965/US. "Pretty Flamingo" July 1966/US, "As Is" October 1966/UK.
●The Pretty Things "Get the Picture?" December 1965/UK, "Emotions" April 1967/UK.
●Them "Them Again" January 1966/UK, April 1966/US.
●The Spencer Davis Group "Second Album" January 1966/UK, "Autumn' 66" August 1966/UK.
●The Graham Bond Organisation "The Sound of 65" March 1965/UK, "There's A Bond Between Us" November 1965/UK.
●The Who "My Generation" December 1965/UK, "The Who Sings My Generation" April 1966/US, "A Quick One" December 1966/UK.
●Small Faces "Small Faces (Decca)" May 1966/UK, "From the Beginning" June 1967/UK, "Small Faces (Immediate)" June 1967/UK.
◎Bob Dylan "Blonde on Blonde" May 1966/US, "John Wesley Harding" December 1967/US.
◎The Beach Boys "Pet Sounds" May 1966/US, "Smiley Smile" September 1967/US.
◎The Byrds "Fifth Dimension"July 18, 1966/US, "Younger Than Yesterday" February 1967/US.
◎The Lovin' Spoonful "Daydream" May 1966/US, "The Hums of The Lovin' Spoonful" January 1967/US.
◎The Paul Butterfield Blues Band "The Paul Butterfield Blues Band" October 1965/US, "Eart-West" August 1966/US.
◎The Blues Project "Live at the Cafe Au Go Go" March 1966/US, "Projections" November 1966/US.
◎The Young Rascals "The Young Rascals" April 1966/US, "Collections" December 1966/US.
◎Love "Love" April 1966/US, "Da Capo" January 1967/US.
◎Frank Zappa & The Mothers of Invention "Freak Out !" August 1966/US, "Absolutely Free" April 1967/US.
◎Jefferson Airplane "Takes Off" August 1966/US, "Surrealistic Pillow" February 1967/US.
◎The Doors "The Doors" January 1967/US.
◎The Velvet Underground "The Velvet Underground and Nico" March 1967/US.

 煩瑣になりましたが特に注目すべき英11バンド、米12バンド(アーティスト)を上げました。本作直後のシングル「幻の十年」を最後にジェフ・ベックがソロ活動のため脱退し、レルフ、ペイジ、ドレヤ、マッカーティの4人編成になったヤードバーズはクリーム、ジミ・ヘンドリックスら新進アーティストらの登場でイギリス本国での人気が急激に凋落し、アメリカ盤のみの発売になったスタジオ・アルバム『Little Games』を1967年7月に発表し、まだそこそこ人気のあったアメリカやヨーロッパを細々とツアーしながら売れないシングルを数枚残して、1968年8月にはペイジ以外のメンバーは全員脱退してしまいます。ペイジは新メンバー3人を加えてスケジュール消化のため同年10月までニュー・ヤードバーズ名義で活動ののち、そのメンバーのままで翌11月にレッド・ツェッペリンと改名して再デビューします。引っ張りだこのセッションマンだったペイジはもともとエリック・クラプトンの脱退時にヤードバーズ加入を打診されていたのですが、給料制のバンドよりセッション活動の方が稼げるので代わりに友人のベックを推薦したいきさつがありました。ベック加入後にヤードバーズも本格的にブレイクし、ベックの契約満了間際かつサミュエル=スミス脱退時にペイジがヤードバーズに加入したのは、これからはバンドの方が儲かる時代が来たと時流を読んだからでした。ヤードバーズ自体はクリームやジミ・ヘンドリックスなど有力な新人の登場に押されたこともあり、ペイジ単独ギターになってからは商業的にはジリ貧になっていきましたが、それでもペイジ時代はエリック・クラプトン時代やジェフ・ベック時代よりも長続きし、ペイジはすでにヤードバーズ解散後の構想を練っていました。解散後の1971年9月にアメリカのエピック・レコーズからペイジのツェッペリン人気を当てこんで突然発売された発掘ライヴ・アルバム『Live Yardbirds Featuring Jimmy Page』はペイジのクレームにより即座に回収・廃盤になりましたが、同作を聴くとペイジ時代のヤードバーズのライヴ・レパートリーはすでにツェッペリンのデビュー作の原型になっていたことがわかります。

 それはさておき上記のリストを見較べると、アメリカのバンドの方がイギリスのバンドより断然進んでいたのは明らかで、特にシカゴの黒人モダン・ブルース界から登場したユダヤ系白人ブルース・バンドのポール・バタフィールド・ブルース・バンドは、ニューヨークのユダヤ系白人ブルース・バンドのブルース・プロジェクトと並んでもっとも先進的なグループでした。この2バンドからの選抜メンバーがディランの『Highway 61 Revisited』と『Blonde on Blonde』のバック・バンドになり、ディランのプロデューサーだったトム・ウィルソン(サン・ラ、セシル・テイラー、サイモン&ガーファンクルをデビューさせた実績がありました)が手がけたのが『Animalisms』以降のアニマルズであり、フランク・ザッパ&マザーズとヴェルヴェット・アンダーグラウンドでもありました。イギリスではこれほどジャズ、フォーク、ブルースアヴァンギャルド音楽とロック、ポップスが高い密度で混交してはいなかったので、ブリティッシュ・ロックは最新のアメリカン・ロックを追従しながら独自のスタイルを築いていくことになります。それはザ・バーズの傑作『Fifth Dimension』とほとんど同時発売された本作を比較すると歴然とします。それでも本作は同時代の英米ロックでもっとも突出したアルバムのひとつであり、ザ・バースとともに発売時点から少なくとも半年は、ビートルズやストーンズの最新作さえも抜き去った先鋭的な作品でした。

 そのように本作は脱ビート・グループ期初期のブリティッシュ・ロックを代表する傑作ですが、収録曲ごとにカラーが異なり、ヤードバーズ創設以来のドレヤのガチャガチャしたリズム・ギターもガレージ・ロック風(ヤードバーズの影響力の強さは、抜群の歴代リード・ギタリストはもとより、ドレヤとドラムスのマッカーティーの乱暴なビートをサミュエル=スミスのテクニカルなベースがリードしていくリズム・アレンジにもありました)で悪くないのですが、よりベックのギターを前面に押し出したアレンジで一貫していたらさらに良いアルバムになっていたとも思えます。ブルース曲とストレートなロック曲、サイケデリック・ロックに足をかけた曲、陰鬱な教会旋法の曲、ポップ曲と多彩な楽曲が並びますが、ビートルズには常にあり、ストーンズでは時おり危うかった音楽的なバランス感覚が、ヤードバーズの本作では音楽性が多彩な分だけ統一感を欠いており、アルバムとしてはこれを最後に、突出したギタリストのジェフ・ベックが自分のバンドを立ち上げるために脱退したのもうなずけます。ジェフ・ベック・グループはヴォーカルにロッド・スチュワート、キーボードにニッキー・ホプキンス、ベースにロン・ウッド、ドラマーにミック・ウォーラー~トニー・ニューマンを迎えたスーパー・グループでした。一方本作のヤードバーズに宿り木が継ぐように、またはヤドカリのように入りこんだのがジミー・ペイジなので、ベック脱退・ペイジ主導のヤードバーズの次作『Little Games』はサイケ・ポップとハード・ロックに的を絞った面白いアルバムになりました。ペイジ時代の不発シングル群も同様に1作ごとに斬新なサウンドを打ち出したものでした。今回十分に触れられなかった本作の分も含めて、次回はクラプトン時代の『Five Live~』やベック時代の本作に較べて、ジミー・ペイジ時代の過小評価されがちなアルバム『Little Games』をご紹介します。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)