ザ・ヤードバーズ - ファイヴ・ライヴ・ヤードバーズ (Columbia, 1964) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ザ・ヤードバーズ - ファイヴ・ライヴ・ヤードバーズ (Columbia, 1964)エリック・クラプトン&ザ・ヤードバーズ The Yardbirds - アット・ザ・マーキー・クラブ Five Live Yardbirds (Columbia, 1964) :  

Recorded at the Marquee Club in London, March 20, 1964
Released by Columbia Records Columbia SX1677, UK, December 31, 1964
Produced by Giorgio Gomelsky
(Side 1)
A1. Too Much Monkey Business (Chuck Berry) - 3:52
A2. I Got Love If You Want It (James Moore a.k.a. Slim Harpo) - 2:40
A3. Smokestack Lightnin' (Howlin' Wolf) - 5:35
A4. Good Morning Little Schoolgirl (Don Level, Bob Love) - 2:42
A5. Respectable (O'Kelly Isley, Ronald Isley, Rudolph Isley) - 5:35
(Side 2)
B1. Five Long Years (Eddie Boyd) - 5:18
B2. Pretty Girl (Ellas McDaniel a.k.a. Bo Diddley) - 3:04
B3. Louise (John Lee Hooker) - 3:43
B4. I'm a Man (E.McDaniel) - 4:33
B5. Here 'Tis (E.McDaniel) - 5:10
[ The Yardbirds ]
Eric "Slowhand" Clapton - lead guitar, co-lead vocals on "Good Morning Little Schoolgirl"
Chris Dreja - rhythm guitar
Jim McCarty - drums
Keith Relf - lead vocals (except on "Good Morning Little Schoolgirl"), harmonica, maracas
Paul "Sam" Samwell-Smith - bass guitar, co-lead vocals on "Good Morning Little Schoolgirl"
(Original Columbia "Five Live Yardbirds" LP Liner Cover & Side 1 Label)
 ロックという音楽ジャンルの中でもいくつかロック史上のビッグ・バンと言えるアルバムがありますが、エリック・クラプトン在籍時にしてクラプトンにとってもザ・ヤードバーズにとってもいきなりライヴ盤デビュー・アルバムの本作は、モダン・ジャズではアート・ブレイキー・クインテットのライヴ・アルバム『バードランドの夜』('54年2月録音)に相当する、時流を抜いて新しいスタイルを打ち出したアルバムです。『バードランドの夜』では俊英トランペッター、クリフォード・ブラウンのプレイがバンドを牽引してハード・バップと呼ばれることになる次世代のジャズの主流スタイルを提示しましたが、ヤードバーズは新鋭ギタリスト、エリック・クラプトンの突出した演奏(本作の時点ですでに司会者に「エリック・スローハンド・クラプトン」と紹介されてます)と、音楽的リーダーのベーシスト、ポール・サミュエル=スミスのリーダーシップで、従来のギター・バンドの概念を拡大したバンドでした。ビートルズがメジャー・デビュー前の皮ジャンパーにリーゼントのファッションから一転して揃いのスーツでデビューしたのはニューヨークのジャズマンのイメージを借りたものとは今ではどちらが先かわからないくらい浸透していますが、ヤードバード、またはバードとはハード・バップの前世代に当たるビ・バップの天才アルトサックス奏者、チャーリー・パーカーのニックネームで、ジャズクラブのバードランドもパーカーに由来します。ヤードバーズははっきりジャズマンのイメージを踏襲したことを表明していたということです。

 ビートルズ、ストーンズ、アニマルズ、キンクスにはやや遅れてデビューしたヤードバーズでしたが、ストーンズやアニマルズと較べてもアメリカのブルースやロックンロールへの素養は劣らない音楽マニアのグループでした。それはカヴァー曲ばかりで固めたこのデビュー・アルバムの選曲にもよく表れていますが、アニマルズのオルガン奏者アラン・プライスを除けばスター・プレイヤーらしい器楽奏者の存在がいなかったイギリスのビート・グループの中からエリック・クラプトンが登場してきた衝撃はものすごかったようです。クラプトンは当時絶頂期のB・B・キングを始めとしてモダン・ブルースのリード・ギター奏法を身につけてデビューしてきましたが、ビート・グループの大半はチャック・ベリー・スタイルのロックンロール・ギターしか知らなかったためクラプトンの登場からモダン・ブルースとビート・グループ・スタイルの折衷が始まり、イギリスならではのブルース・ロックが生まれました。アメリカでも同時期には白人によるブルース・ロックが起こりましたが、黒人ブルースとの距離感やカントリー、フォークなどの複合的影響によってイギリスとアメリカではブルース・ロックと言ってもまるで異なる音楽になったのです。しかしアメリカのミュージシャンにとってもヤードバーズからの逆影響は甚大で、ヤードバーズはクラプトン脱退後にジェフ・ベック、ベック脱退後にジミー・ペイジをリード・ギタリストに、アメリカの若手バンドにとってビートルズ、ストーンズに次いで規範となるバンドであり続けました。

 ヤードバーズはLPリリースには恵まれず(ヤードバードに限らず、ビートルズやストーンズを例外として'60年代のイギリスのビート・グループはシングル・リリースが中心でした)、またアイドル性のあるグループとも見なされなかったため、バンド活動中に日本盤の出たアルバムはジェフ・ベック在籍時の『サイケデリックのエース (The Yardbirds)』だけでした。アメリカ編集のシングル編集盤を除くとヤードバーズの純粋なオリジナル・アルバムはクラプトン在籍時の本作、ベック在籍時の『サイケデリックのエース』、アメリカ盤でしかリリースされなかったジミー・ペイジ在籍時の『Little Games』の3作しかありません。クラプトン在籍時にはアメリカ人ブルースマンの単身イギリス公演のバック・バンドを勤めたライヴ盤『Sonny Boy Williamson & The Yardbirds』がありますが、あくまでバック・バンドとしてのライヴ・アルバムです。本作のようにカヴァー曲をやりたい放題のアレンジでぶっ飛ばしているアルバムではありません。本作はチャック・ベリーのロックンロールで始まりハウリン・ウルフのA3を通ってアイズレー・ブラザースのR&B曲で締めるA面も優れますが、ジョン・リー・フッカーのB3を挟んでボ・ディドリーのB2、B4、B5とたたみかけるB面の熱気は素晴らしく、特にB4はA3と並ぶ本作の白眉で、ヤードバーズのこのヴァージョンによってブルース・ロックのスタンダードになり、サイケデリック・ロックに発展するジャムセッション曲になったのです。

 本作でクラプトンがやったことはクラプトンがいなくてもジェフ・ベックがやったと思いますが、ギター・バンドのロック・ギターの概念を一新させたものでした。ここで聴ける淀みなくどこまでも伸びていくフレーズは従来のロックンロールのリズム・リフとリズム・リックの組み合わせからは生まれてこないもので、エレクトリック・ギターによるジャズのリード・ギター奏法の開祖チャーリー・クリスチャンからモダン・ブルースのギタリストに流れ込んでいたものですが、それが白人ロックのストレートなビート感覚に乗って初めて革新性が注目されたので、ブルースのリズム感覚の中ではアンサンブルの裏に埋もれていたのです。それもイギリス人がやらなくてもマイク・ブルームフィールドが始めていたことですし、ヤードバーズはバンドとしての総合点はあまり評判のかんばしくないバンドでもありました。ヴォーカルは上手くないしビートはドタバタしているし、ブルースというにはロックだし、ロックというにはブルースだしというのが定評でした。逐一もっともですが、本作収録の1964年3月はビートルズがやっとアメリカでブレイクした直後で7月発売の『A Hard Day's Night』の制作中、ストーンズすら本格的なブレイク前にヤードバーズがライヴでこれだけ爆発的な演奏をしていたのは驚異的で、クラプトンが一流プレイヤーになるのはヤードバーズ脱退後のブルース・ブレイカーズ加入からというのが定説ですが、限界まで追い詰められたような白熱のプレイはプロ・デビューそこそこの本作に勝るものはないのではないかと聴いているうちは思えてきます(後年の名演は数限りありませんが)。少なくともクラプトンとヤードバーズが'60年代ロックのイノヴェーターだった証拠を示す大名盤がこれです。日本初発売は1972年、『エリック・クラプトン&ヤードバーズ/アット・ザ・マーキー・クラブ』というしょぼい邦題になったのはそのためですが、この音、このジャケット(日本盤はクリーム時代のクラプトンの写真でしたが)は今でこそかっこいいのではないでしょうか。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)