ロック史上初の「海賊盤」! | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

The Rolling Stones - Live′r Than They'll Ever Be (Lurch Records, 1969.12)

The Rolling Stones - Live′r Than They'll Ever Be (Lurch Records, 1969.12) :  

Recorded Live at Oakland, Alameda County Coliseum Arena, Oakland, California, United States, November 9, 1969
Recorded by "Dub" Taylor from Trademark of Quality using a Sennheiser shotgun microphone and a Uher "Report 4000" reel-to-reel tape recorder.
Originally Released by Lurch Records, December 1969
All songs written by Jagger/Richards, except where noted
(Original Lurch Records, Side A)
A1. Carol (Chuck Berry) - 3:44
A2. Gimme Shelter - 4:18
A3. Sympathy for the Devil - 6:23
A4. I'm Free - 5:07
A5. Live with Me - 3:33
(Original Lurch Records, Side B)
B1. Love in Vain (Robert Johnson) - 5:24
B2. Midnight Rambler - 7:40
B3. Little Queenie (Berry) - 4:13
B4. Honky Tonk Women - 4:04
B5. Street Fighting Man - 4:10
◎November 9, 1969 Setlist
(1st Early Show)
1-1. Band introduction - 1:36
1-2. Jumpin' Jack Flash - 4:51
1-3. Prodigal Son (Robert Wilkins) - 4:03
1-4. You Gotta Move (Fred McDowell and Reverend Gary Davis) - 3:18
1-5. Carol (Chuck Berry) - 3:33
1-6. Sympathy for the Devil - 6:55
1-7. Stray Cat Blues - 4:18
1-8. Love in Vain (Robert Johnson) - 5:13
1-9. I'm Free - 5:08
1-10. Under My Thumb - 3:15
1-11. Midnight Rambler - 8:17
1-12. Live with Me - 4:00
1-13. Little Queenie (Berry) - 3:56
1-14. (I Can't Get No) Satisfaction - 6:56
1-15. Honky Tonk Women - 4:17
1-16. Street Fighting Man - 4:03
(2nd Late Show)
2-1. Jumpin' Jack Flash - 4:05
2-2. Carol (Berry) - 3:44
2-3. Sympathy for the Devil - 6:23
2-4. Stray Cat Blues - 4:13
2-5. Prodigal Son (Wilkins) - 3:59
2-6. You Gotta Move (McDowell and Davis) - 3:12
2-7. Love in Vain (Johnson) - 5:24
2-8. I'm Free - 5:07
2-9. Under My Thumb - 3:23
2-10. Midnight Rambler - 7:40
2-11. Live with Me - 3:33
2-12. Gimme Shelter - 4:18
2-13. Little Queenie (Berry) - 4:13
2-14. (I Can't Get No) Satisfaction - 6:04
2-15. Honky Tonk Women - 4:04
2-16. Street Fighting Man - 4:10
[ The Rolling Stones ]
Mick Jagger - lead vocals, harmonica
Keith Richards - lead guitar and rhythm guitar, backing vocals
Mick Taylor - lead and rhythm guitar, slide guitar
Bill Wyman - bass guitar
Charlie Watts - drums and percussion
«Additional musicians»
Ian Stewart - piano  

 1969年12月にリリースされたローリング・ストーンズのこのアルバムは、本作に先立つボブ・ディランの『Great White Wonder』(1969年7月リリース)、本作の翌月のビートルズの『Kum Back』(1970年1月リリース)と並び、ロック史上初の本格的な「海賊盤」として名高いものです。一般的な海賊盤の存在自体はそれまでもヒット・アーティストのレコードの違法コピー盤として流通していましたが、クラシック音楽やジャズでは独自のコンサート盗み録りやラジオ中継のレコード化、未発表録音の流出アルバム化が非合法に行われていました。ビートルズやストーンズも大ヒット・アーティストですから公式アルバムの違法コピー盤が廉価盤などで出回っていましたが、ディラン、ストーンズ、ビートルズのこの3作がロック史上初の本格的「海賊盤」と目されるのは、それまでの違法コピー盤と違い、まったくの新作と言える内容だったからです。ディランの『Great White Wonder』は1967年録音のザ・バンドとの新曲のリハーサル音源集で、ディラン&ザ・バンドが公式アルバム『The Basement Tapes』としてリリースする1975年、また『The Bootleg Series Vol. 11: The Basement Tapes Complete』として2014年に完全版に集成されるまでディラン最大のミッシング・リンクとされていた未発表録音集でした。ビートルズの『Kum Back』は1969年1月の「Get Back Sessions」集で、1970年5月に公式発表されたアルバム『Let It Be』を先取りし、かつ『Let It Be』とは別テイクの幻の未完成アルバムでした。そしてローリング・ストーンズの本作は、1969年6月に脱退、7月に急逝したブライアン・ジョーンズに代わってミック・テイラー加入後の『Let It Bleed』(1969年12月リリース)に併せて新生ストーンズとして行われた全米ツアーから、11月9日のカリフォルニアでのライヴを翌月にはもうレコード化した、最新のストーンズのライヴ演奏をスタジオでの加工なしに聴ける内容として爆発的な反響を呼び、数々のレーベルからコピー盤が出回り、見本盤用白ジャケットにスタンプを押しただけの粗末なジャケットと非合法流通にもかかわらずトータル50万枚以上(公式ならアルバム・チャート1位、ゴールド・ディスク認定)のセールスを上げたアルバムになりました。この日のライヴはアーリー・ショー(ファースト・ショー)、レイト・ショー(セカンド・ショー)と二回行われ、複数の録音者がいたために、その後の版ではメーカーによって曲目、編集の違いがありますが、この大ヒットした海賊盤『Live′r Than They'll Ever Be』を駆逐するためにストーンズ側が急遽リリースしたのが公式ライヴ・アルバム『Get Yer Ya-Ya's Out!』(1970年9月リリース)です。

 ただし公式ライヴ盤『Get Yer Ya-Ya's Out!』は複数のコンサートからベスト・テイクを選び、さらにスタジオ作業によるオーヴァーダビングで作品性の高いアルバムに仕上げられたものでした。同様のことがビートルズの『Let It Be』やボブ・ディラン&ザ・バンドの公式盤『The Basement Tapes』についても言えるので、無加工のセッション・テイクやライヴをそのまた収めた『Great White Wonder』『Kum Back』『Live′r Than They'll Ever Be』は今なお独自の価値を誇ります。のちのピンク・フロイド『Winter Tour 1974』、レッド・ツェッペリン『Destroyer』なども公式盤だけではわからない、無加工のライヴ録音ならではの海賊盤ライヴの名盤になりますが、ストーンズの場合もどう聴いても『Get Yer Ya-Ya's Out!』よりこの『Live′r Than They'll Ever Be』の方が上です。『Get Yer Ya-Ya's Out!』もライヴの名盤なので必ずしも海賊盤の方が上、とばかりは言えないのですが、この1969年11月9日のオークランドでのコンサートのストーンズはキース・リチャーズのギターと加入5か月目のミック・テイラーのギターのアンサンブルが試行段階にありスリリングで、ストーンズのリズムの核はキースのギターとチャーリー・ワッツのドラムスですが、この時点ではテイラーのギターとの絡みがまだ確立していない分キースの演奏にムラがあるためにミック・ジャガーのヴォーカルがいつもにも増して強いリズム・アクセントでバンドを牽引しているのがわかります。それはまったくすっぴんの海賊盤『Live′r Than They'll Ever Be』だからこそ顕著で、ベスト・テイクをリミックスし、ギターやヴォーカルをオーヴァーダビングで修正してある公式盤『Get Yer Ya-Ya's Out!』では完成度が高くなった分失われてしまった要素です。また本作は無加工の海賊盤ライヴがいかに強力に実際のコンサートの臨場感を伝えるものかを、ミック・テイラーが加入して初の全米ツアーでストーンズの変貌に注目していた批評家、リスナーに知らしめるものになり、本作のリリースは音楽誌や新聞記事などでも取り上げられる事件となりました。ザ・フーのように公式ライヴ盤にもかかわらず本作のジャケット(見本盤用無地ジャケットにスタンプを捺しただけ)を模したジャケット・デザインでリリースされた『Live at Leeds』(1970年2月録音、3月発売)、ずっと後ですがやはり本作のジャケットを模したエアロスミスの公式ライヴ盤『Live! Bootleg』(1978年リリース)なども現れたくらいです。ローリング・ストーン誌では有力批評家グリル・マーカスが本作を絶讃するアルバム評を書き、ロック好きで知られるドイツの映画監督ヴィム・ヴェンダースは2001年のインタヴューで本作をストーンズの最高傑作に上げています。

 また本作は海賊盤という性質上次々と別レーベルからのコピー盤がリリースされ、『Live′r Than They'll Ever Be』というタイトルは残したままアーリー・ショウのみの完全版、レイト・ショウのみの完全版、二回のショウから演奏曲全16曲を組み合わせた版、とさまざまな内容で出回ることになりました。発売から1年の1970年末までにアメリカ国内で25万枚、アメリカ国外で15万枚のセールスが確認され、現在にいたるまでのロックの海賊盤の基礎となったのがローリング・ストーンズの本作であり、次いでボブ・ディランの『Great White Wonder』、ビートルズの『Kum Back』だったというのはアーティスト・パワーからもごく順当で、ジョン・レノンは海賊盤の興隆を「海賊盤も出ないアーティストは二流だぜ!」と一笑に伏したといいます。またストーンズはギターやヴォーカルを差し替え編集した公式ライヴ盤『Get Yer Ya-Ya's Out!』を制作することで、テイラー加入後のサウンド・スタイルの確立を一気に加速できたとも言えるので、次作のスタジオ盤『Sticky Fingers』の飛躍的な充実はこの海賊盤ライヴがきっかけになったとも目せます。音楽的にも本作はストーンズが'70年代に対応するサウンドを身につけた瞬間をとらえた重要作であり、'70年代以降ストーンズは海賊盤を牽制するように節目ごとに積極的に優れたライヴ盤をリリースするようになります。その意味でも本作と『Get Yer Ya-Ya's Out!』は、ローリング・ストーンズといういちバンドのアルバムにとどまらず、ロック史上の分水嶺というべき重要な役割を果たしたアルバムでもあるのです。