ビートルズを食った前座バンド~ザ・リメインズ | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ザ・リメインズ - ザ・リメインズ (Epic, 1966)
ザ・リメインズ The Remains - ドント・ルック・バック Don't Look Back (Billy Vera) (Epic, 1966) :  

Recorded in New York City, July 25, 1966
Released by Epic Records 10060 ('7, 45prm)
from the album "The Remains", Epic BN 26214, September 1966
Produced by Ted Cooper
[ The Remains ]
Barry Tashian - vocals, guitar
Bill Briggs - keyboards
Vern Miller - bass
Chip Damiani - drums
Compilation from 1966 Capitol Records audition Demos
Released by Sundazed Music SC 6069 (CD), LP 5015 (LP), 1996

 マサチューセッツ州のボストン大学で1964年に結成され、一躍ニューイングランド随一のライヴ・バンドとして高い人気と実力を誇ったバンドがこのザ・リメインズです。東洋系ハーフのリーダー、バリー・タシアンのタフなヴォーカルとシャープなギター、タシアンを支えるキーボード・トリオの歯切れ良く一体感に富んだグルーヴ感ですぐにブリティッシュ・インヴェンジョンの一流バンドに劣らない風格を身につけたリメインズは、翌1965年にはCBSコロンビア傘下のエピック・レコーズからタシアンのオリジナル曲「Why Do I Cry」でメジャー・デビュー、同年にはベーシスト、ヴァーン・ミラーのオリジナル曲のセカンド・シングル「I Can't Get Away from You」をリリースし、1966年にはサード・シングルでボ・ディドリーのカヴァー「Diddy Wah Diddy」をリリース、ビートルズの1966年のアメリカ・ツアーでは東部公演で前座を勤め、この世界ツアーを最後にツアーを引退するメイン・アクトのビートルズを食うパフォーマンスを見せました。唯一のアルバム『ザ・リメインズ (The Remains)』はその直後の1966年9月にリリースされましたが、ボストンを拠点にローカルな活動に徹していたリメインズのシングル、アルバムは残念ながら全国的な人気には結びつかず、リメインズは唯一のアルバムとアルバムからのシングル・カット曲「ドント・ルック・バック (Don't Look Back)」を最後にエピックからの契約を切られてしまいます。1966年には西海岸からヒッピー・ムーヴメントに支えられたフォーク・ロック~サイケデリック・ロックのバンドが次々とデビューし人気を博し始めていた頃で、リメインズのような1964年~1965年スタイルのビート・グループは時代遅れになりつつありました。リメインズはキャピトル・レコーズとの契約のためにオーディション・デモ・アルバムを作成しましたが、キャピトルもクイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスやマッド・リヴァーら西海岸の新人グループに目を向けておりキャピトルへの売りこみは功を奏せず、レコード契約を失ったリメインズはリーダーのタシアンが独立してルーツ・ミュージックの聖地ナッシュヴィルでソロ・アーティストになることになり、そのまま解散してしまいます。ビートルズ1964年のワシントン公演でビートルズを食った、ワシントン州タコマを拠点としたザ・ソニックスもそうですが、ローカル・バンドが地元と近隣の州までは頻繁にライヴを行い人気と実力を誇るも、全米規模で人気を得るほどアメリカ各地をツアーして回るのは当時の音楽シーンの事情では難しく、その点最大の音楽(映画、テレビ番組、ラジオ番組、レコード)生産地ロサンゼルス~ハリウッドからデビューできたサンフランシスコやロサンゼルスの後発バンドは全国的なラジオ・オンエアやレコードのプロモート上でも有利でした。ザ・ドアーズのように全アルバムを全米トップ10入りのゴールド・ディスク、さらに3曲の全米No.1ヒットを持つバンドなど例外中の例外なのです。ニューヨークを本拠にしたバンドですら、 一発屋に終わらず継続した活動をし、No.1ヒットを持っているのはラヴィン・スプーンフルとヤング・ラスカルズくらいでした。

 リメインズの再評価は「ドント・ルック・バック」がレニー・ケイ編の'60年代ガレージ・ロック・バンド(ガレージ・ロック~ガレージ・パンク、ガレージ・サイケというと鬼の首でも取ったようなマニアの定義合戦がありますが、そうした面はリスナー個々の受けとめ方でいいでしょう)の画期的コンピレーション『Nuggets: Original Artyfacts from the First Psychedelic Era, 1965 - 1968』(Elektra, 1972)に収録されたことから始まり、ブルース・スプリングスティーンのプロデューサーになる有力音楽批評家のジョン・ランドーや、やはりマサチューセッツ州出身のJ・ガイルズ・バンドのピーター・ウルフ(「リメインズはボストンのロック・シーンのリーダー的存在だった」)らによる回想と激賞によって改めて'60年代アメリカ最高のビート・グループの一つ、と再認識されることになりました。1990年にはロバート・プラントがシングルB面で同曲をカヴァーしています。実は人気曲「ドント・ルック・バック」はリメインズの楽曲としては異色で、タシアンを中心とした自作曲とR&B、古典的ロックンロール曲のカヴァーをレパートリーにしていたリメインズが、アルバム録音に当たって「外部ライターの良い未発表曲があるからやろう」とプロデューサーの提案によって採りあげた曲でした。シャープで素晴らしい演奏ですが、よく聴くとヴォーカル・ブレイク部分からの鋭角的なギター・カッティングがややテンポが速めで、次のワン・コーラス中にテンポを戻している様子が聴き取れます。あくまでこの曲はついでに採りあげられた曲であることが感じられ、アルバム全篇をご紹介できないのが残念ですが、リメインズ唯一のアルバムはビートルズとゾンビーズを足してさらにソリッドにし、ミック・ジャガー的なタシアンのヴォーカルによって黒っぽさを強調したものです。参考作に引いた、1996年に復刻レーベル、サンデイズドから発掘リリースされた1966年のキャピトル・レコーズへのオーディション・デモ・アルバム『A Session with The Remains』で聴ける作風が本来のリメインズで、エピック・レコーズからの唯一のアルバム『The Remains』も「ドント・ルック・バック」以外はこの作風です。ジョン・ランドーやピーター・ウルフのリメインズへの讃辞も、いわばアメリカ流ストーンズ、ヤードバーズ、アニマルズだったリメインズのルーツ・ロック的本質に向けられたものでしょう。そこにCBSコロンビア傘下のエピック・レコーズの保守性と、もともとロックンロールの発祥国アメリカのリメインズの意地がありました。1966年は英米ロックの潮流は過渡期で、それまでの「半分はオリジナル曲、半分は有名曲(または渋い曲)のカヴァー」というアルバム作りが急速に「全曲オリジナル曲」に転換しつつあった年でした。ストーンズ(『Aftermath』1966年4月)、ヤードバーズ(『Roger The Engineer』1966年7月)もこの年初めての全曲オリジナル曲のアルバムをリリースしています。ビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』(1966年5月)は革新的すぎてアメリカでは不評で(イギリスでは大評判になりました)、ビートルズの『Revolver』(1966年8月)とモンキーズの『The Monkees』(1966年9月)がすべてをさらってしまいます。また1966年10月にはブルース・マグーズの『Psychedelic Lollipop』、ザ・13thフロア・エレヴェイターズの『The Psychedelic Sounds of The 13th Floor Elevators』、ザ・ディープの『Psychedelic Moods』と、アルバム名に「サイケデリック」を謳ったバンドが一斉にデビュー・アルバムを発表しています。リメインズは本当に惜しまれる存在で、せめて活動時期があと1年早ければもっと実績を残せたバンドです。1966年夏のNo.1ヒットと言えばラヴィン・スプーンフルのスリリングなビート・ナンバー「Summer In The City」ですが、続いてトップ10入りでもおかしくない、ニュー・ウェイヴより12年早すぎたパワー・ビート・ポップの傑作シングル「ドント・ルック・バック」はチャート・インすらせず、あと1年早いタイミングでこの曲を出し、バンドもこの曲の路線のオリジナル曲で固めたアルバムを出せたら、ロサンゼルスのラヴのように逆輸入でイギリスで人気バンドになれたかもしれません。ロバート・プラントもカヴァーした名曲、「ドント・ルック・バック」をぜひお聴きください。
Robert Plant - Don't Look Back (from the album "Manic Nirvana", 1990 Remasterd Bonus Track)