ビートルズを食った前座バンド~ザ・ソニックス | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ザ・ソニックス - ヒア・アー・ザ・ソニックス!!! (Etiquette, 1965)
ザ・ソニックス The Sonics - ヒア・アー・ザ・ソニックス!!! Here Are The Sonics!!! (Etiquette, 1965) :  

Released by Etiquette Records ET-LP-02 (mono),  ET-LPS-024 (stereo), March 1965
Produced by Buck Ornsby, Kent Morrill
(Side A)
A1. The Witch (Gerry Roslie) - 2:41
A2. Do You Love Me (Berry Gordy, Jr.) - 2:19
A3. Roll Over Beethoven (Chuck Berry) - 2:49
A4. Boss Hoss (Gerry Roslie) - 2:24
A5. Dirty Robber (The Fabulous Wailers cover) (John Greek, Kent Morrill, Rick Dangel) - 2:03
A6. Have Love Will Travel (Richard Berry) - 2:04
(Side B)
B1. Psycho (Gerry Roslie) - 2:18
B2. Money (That's What I Want) (Gordy, Jr., Janie Bradford) - 2:01
B3. Walking the Dog (Rufus Thomas) - 2:46
B4. Night Time Is the Right Time (Lew Herman) - 2:58
B5. Strychnine (Gerry Roslie) - 2:13
B6. Good Golly Miss Molly (John Marascalco, Robert Blackwell) - 2:09
(CD Bonus Tracks)
13. Keep A-Knockin' (Perry Bradford) - 1:56
14. Don't Believe in Christmas (patterned after "Too Much Monkey Business" by Chuck Berry) (Gerry Roslie) - 1:47
15. Santa Claus (contains elements from "Farmer John" by The Premiers) (The Sonics) - 2:52
16. The Village Idiot (cover of "Jingle Bells") - 2:39
[ The Sonics ]
Gerry Roslie - lead vocals, organ, piano
Rob Lind - saxophone, vocals, harmonica
Larry Parypa - lead guitar, vocals
Andy Parypa - bass guitar
Bob Bennett -  drums

 ビートルズのアメリカでのブレイクは1963年12月発売のキャピトル盤シングル「抱きしめたい (I Want To Hold Your Hand)」(1964年2月1日~3月20日No.1)で、さらに「シー・ラブズ・ユー (She Loves You)」(1964年3月21日~28日No.1)、「キャント・バイ・ミー・ラブ (Can't Buy Me Love)」(1964年4月4日~5月8日No.1)、「ラブ・ミー・ドゥー (Love Me Do)」(1964年5月30日No.1)、「ハード・デイズ・ナイト (A Hard Day's Night)」(1964年8月1日~8日No.1)、「アイ・フィール・ファイン (1964年12月26日~1965年1月15日No.1)」と1964年だけで6曲もの全米No.1ヒットを放っていますが、ビートルズ1964年のアメリカ・ツアーで前座に出演してビートルズを食ってしまったというバンドがいます。それが1964年11月にデビュー・シングル「The Witch」の発表以前からワシントン州を拠点に活動していたローカル・バンド、ザ・ソニックスで、もともとはワシントン州ブレマートンでまだ十代だったギタリスト、ラリー・パライパが友人を誘って、サックスをフィーチャーした学生のダンス・パーティーご用達に組んだ、ヴェンチャーズやサファリーズのようなインストルメンタル・バンドでした。やがてソニックスは1963年に「サーフィンUSA (Surfin' U.S.A.)」のNo.1ヒットを放った西海岸のビーチ・ボーイズやイギリスのロック動向に刺戟を受け、1963年にはワシントン州タコマでヴォーカル&インストルメンタル・グループとして編成を仕切り直し(公式にはこの年結成)、本拠地タコマを中心としたワシントン州で人気バンドになります。そしてビートルズのワシントン公演では地元バンドとして前座に起用され、熱狂的なパフォーマンスでメイン・アクトのビートルズを食うステージをくり広げたという伝説を残しました。
 1965年3月に地元ワシントン州のマイナー・レーベル、エチケット・レコーズからリリースされたファースト・アルバム『Here Are The Sonics!!!』、また1966年2月に発表されたセカンド・アルバム『Boom』の2作は、ビートルズやローリング・ストーンズよりも荒々しいソニックスの爆発的な演奏をパッケージした傑作アルバムで、ヴォーカリストのジェリー・ロズリーのオリジナル曲でシングル曲「The Witch」「Psycho」や「Strychnine」はよくあるR&B曲の改作と言っていいものですが、凶暴な演奏(特にドラムスの音圧は恐ろしいほどです)とどやしつけるようなヴォーカルで今日ガレージ・ロック、元祖パンク、元祖メタルの古典と見做されているものです。ビートルズやストーンズと共通するR&B曲のカヴァーも多く含みますが、もともとロックンロール発祥国アメリカのソニックスの場合は白人的解釈によって和らげられた要素はほとんどなく、粗野で熱量だけをぶちまけたような演奏によって、録音から60年以上経った現在でも焼けくそな発狂ノイズの塊に響きます。バンドは初期2作で燃えつきたと言ってよく、メンバー総入れ替えのサード『Introducing the Sonics』(Jerden, 1967)、再結成作『Sinderella』(Bomp, 1980)、『This is the Sonics』(Revox, 2015) (#21 Billboard Heatseekers; #25 Billboard Tastemakers)はなくもがなですが、オリジナル・メンバーによる初期2作は2作で一組と言っていい、ラモーンズもダムドもセックス・ピストルズもクラッシュもぶっ飛ぶ、MC5やストゥージズに匹敵する破壊力抜群の傑作です。1枚となれば2005年の全米ベストセラーになったレコード・ガイドブック『死ぬまでに聴くべき1001枚のアルバム (1001 Albums You Must Hear Before You Die)』にも選出されたこの『Here Are The Sonics!!!』でしょう。ソニックスとビートルズとストーンズが爆音で勝負すればたぶんソニックスが勝ちます。ケンカならなおさらです(エリック・バードンなら勝つかもしれませんが)。アメリカ公演でビートルズを食った前座バンドにはさらに伝説のビート・バンド、ザ・リメインズが上げられますが、それはまたの機会にご紹介します。