いきなり牛タン自動販売機! | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

 筆者が住む郊外の小さな町は市役所が不便なところにあって、図書館もその向かいに移ったのでやはり不便なことこの上ありません。地図上の直線距離にすればそれほど遠くはありませんが、自然公園をまるまる一つ抜けた位置なので公園を突っ切っても山ひとつを越え、迂回した県道を通れば丘を三つ上り下りしてようやくたどり着くので、健康にはいいかもしれませんが自家用車もなく徒歩で行くしかない病気の身にはこたえます。筆者が小中学生の頃には図書館は通学路の途中にありましたし、小中学校のおこづかいではそうそう本など買えませんので読書は学校の図書室の本と図書館が頼りでした。高校生の頃は隣町の高校に通っていたので高校の図書室と駅ビルに併設された隣町の図書館(通学・通勤者なら別の町の住民でも貸し出し可)を利用しました。大学に進学すると、さすが大学ともなれば図書室の規模は比較になりませんし、専門書は図書館を利用する、夜学に通ってアルバイトで自活していたので重要な基本図書は高田馬場や神田の古書店街を巡って買う、とごく学生らしいことをしていました。病気療養中の身になってから郷里の町に戻って来ましたが、図書館や市役所は不便な地区に移転しているし、何度か図書館を利用しようとしてみたらそのたび静寂閉鎖空間にパニック発作を引き起こしそうになり、こりゃもう図書館は自分には無理だと手持ちの蔵書や新たに買った本だけをじっくり読む、と切り替えました。図書館で借りて済ませるのがいいのは新刊小説などの娯楽書ですが、そういうものにはもう関心がありません。読書の中心が小説ではなくなっていますし、読み返したい小説や読みそこねていた小説は、だいたい手許に揃っています。不惑の歳などとっくに過ぎているので、時事評論などを読むよりは古典を読み返します。いい歳をして新作深夜アニメを楽しんでいる筆者ですが、こと読書に関しては歴史の篩に残った古人と、本当に信用できる文人のみに学んで悔いはありません。

 ところで筆者は障害者なので図書館には用がなくても定期的に市役所に手続き上の用があり、それほど不便な場所にありながら役所への用は済まさずにはいられません。不承不承とはいえ便利だったのは、市役所と図書館の隣にお米の自動販売機があり、これが価格も低廉ならば、品質も上等というお値打ち物でした。品切れの時も多かったくらいでしたから個人経営飲食店による購入も多かっただろう、それも納得という直販米自販機でしたから市役所の用のついでにリュックサックを背負って利用していましたが、数年前に無くなってしまい、その後は地元農家の野菜直販所になっていました。筆者はお米はその自販機が頼りだったのでしばらく困っていましたが、特売日に注意すれば徒歩圏内のスーパー、ドラッグストアでもほぼ同価格・同ランクのお米が買えるのでそれでまかない、常設自販機があった時は便利だったなと記憶も薄れかかっていました。またCOVID-19下の対応変化で市役所への定期手続きが電話連絡に簡略化されたこともあり、特に役所への更新手続き→併せてお米を買って帰る、というそれまで数年間続けたルーティンも忘れつつありました。

 そうして先日どうしても直接担当窓口に出向いて手続きしなけれぼならない用事で久しぶりに市役所に行き、帰り道にかつてお米の自動販売機、その後野菜の直販所になっていた道ばたを通ると、牛タンの自動販売機がどかんと据えてあったという次第です。いや、自動販売機に堂々表示してある通り、仙台に仙台和牛の精肉自動販売機があるならわかります。観光旅行で仙台をドライブした観光客が土産に買っていくかもしれません。しかしこんな神奈川県の郊外の町の町はずれの市役所と図書館しかないようなところで、牛タン漬けかハラミ漬け、プルコギを買おうという客が見こめるのでしょうか。そりゃまあ市役所や図書館は大勢の人が訪れるでしょうが、役所に用事があったからついでに牛タン漬けを買おう、図書館で本を借りたからハラミ漬けを買って帰ろうという利用者が、車で来て大した荷物ではないとしても生肉を買っていくか疑問です。まだ紙コップ式のコーヒーやハンバーガーの自販機ならわかる、ぎりぎりレトルトパウチの調理済みハンバーグや鶏腿肉ならまだしも、精肉の自販機となるとタレ漬けこみとはいえ(冷凍かもしれませんが)生ものです。昔確か虚子門下生の俳人のエッセイで、富安風生か阿波野青畝あたりの穏健な俳人だったと思いますが、自分の句碑がゆかりの地に建てられた、気象情報でその地方が雨の日は「ああ、自分の詠んだ句が雨に降られているんだなあ」と気になる、と懐述した微笑ましい一文を読んだことがありますが、ふとあの牛タン自動販売機も今も立ち続けているんだろうなあ、と思ったりします。気温が14℃の昼も、マイナス5℃の夜も。それにしても自動販売機で売るには高いぞ、150g2000円のプレミアム牛タンなんか100g1340円じゃないかと、普段豚コマ100g98円、鶏ムネ肉100g48円を買っているような筆者にはまるで無縁としか言いようがありませんが。