チャールズ・ミンガス@ブレーメン1964 (Radio Bremen, 2020) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

チャールズ・ミンガス@ブレーメン1964 (Radio Bremen, 2020)
チャールズ・ミンガス Charles Mingus - チャールズ・ミンガス@ブレーメン1964 Charles Mingus @ Bremen 1964 (Radio Bremen, 2020) 

Originally Released by Unique Jazz U♩23 (1LP) as "Live In Europe!", 1979
Expanded CD Released by Jazz Lips JL 774 (2CD) as "The Complete Bremen Concert", 2010
Expanded CD Reissued by Sunnyside / Radio Bremen SSC 1570 (4CD) as "Charles Mingus @ Bremen 1964 & 1975", 2020
All Composed by Charles Mingus except as indicated.
(Tracklist)
(Disc 1)
1-1. Hope So Eric - 26:05
1-2. Fables Of Faubus - 33:24
(Disc 2)
2-1. Piano Solo (Jaki Byard) - 4:44
2-2. Sophisticated Lady (Duke Ellington) - 3:46
2-3. Parkeriana - 21:45
2-4. Meditations On Integration - 25:02
[ Charles Mingus Sextet ]
Charles Mingus - bass
Eric Dolphy - alto Saxophone, bass clarinet, flute
Johnny Coles - trumpet
Clifford Jordan - tenor saxophone
Jaki Byard - piano
Dannie Richmond - drums
 もともとこのラジオ放送用ライヴを収録していた西ドイツの放送局「Radio Bremen」から2020年に1975年のミンガス・クインテットのライヴ収録ともども4枚組CDでリリースされた本作は、最上級のフル・コンサート録音と最新リマスター、何よりも原盤の版権を所有するラジオ・ブレーメンからのリリースという点で、ミンガス生前リリースの『Town Hall Concert』(Jazz Workshop, 1964)、『The Great Concert of Charles Mingus』(America 30, 1971)、ミンガス最晩年に許可された『In Europe Vol.I & Vol.II』(Enja, 1979/1981)、ミンガスの遺族による『Revenge!』(Revenge, 1996)、コンサート主宰者の大学が秘蔵していた『Cornell 1964』(Blue Note, 2007)と並ぶ、エリック・ドルフィー(1928-1964)をフィーチャーしたチャールズ・ミンガス(1922-1979)の1964年3月~4月セクステット~クインテットの新たな公式ライヴ・アルバムに数えられるものでしょう。4枚組CD『Charles Mingus @ Bremen 1964 & 1975』ではディスク3・4に1975年7月9日の'70年代ミンガス・クインテットのラジオ・ブレーメン収録ライヴがカップリングされており、これもミンガス没後にトリビュート・ビッグバンドの「Mingus Dynasty」のリーダーとなるジャック・ウォーラス(トランペット)、ミンガス没後に新ベーシストを迎えてミンガスの音楽を継承するアダムズ=プーレン・カルテットのメンバーとなるジョージ・アダムズ(テナーサックス)、ドン・プーレン(ピアノ)、ダニー・リッチモンド(ドラムス)が揃った素晴らしい'70年代ミンガス・クインテットのライヴですが、この紹介は1964年のドルフィー入りミンガス・セクステットのライヴを追っているので1975年分はまたの機会とします。エリック・ドルフィー参加のチャールズ・ミンガス・セクステット~クインテットのライヴ日程は現在アメリカ本国でのゲネプロ2公演、ヨーロッパ・ツアー12公演が確認されていますので、以前も紹介しましたが、今回も改めてリストを掲げておきましょう。

[ Charles Mingus 1964 Sextet/Quintet Sessiongraphy ]
1. Charles Mingus Sextet - Cornell University, Ithaca, NY, Mar. 18, 1964→"Cornell 1964" :  

2. Charles Mingus Sextet - Town Hall, NYC, Apr. 4, 1964→"Town Hall Concert" :  

8. Charles Mingus Sextet - Bremen, W. Germany, Apr. 16, 1964→"Bremen 1964"
9. Charles Mingus Sextet - Salle Wagram, Paris, France, Apr. 17, 1964→"Revenge!"
10. Charles Mingus Quintet - Theatre Des Champs-Elysees, Paris, France, Apr. 18, 1964→"The Great Concert Of Charles Mingus"
11. Charles Mingus Quintet - Palais Des Congres, Liege, Belgium, Apr. 19, 1964 :  

13. Charles Mingus Quintet - Wuppertal Townhall, Wuppertal, W. Germany, Apr. 26, 1964→"Mingus In Europe Vol.I~Vol.II"
14. Charles Mingus Quintet - Mozart-Saal/Liederhalle, Stuttgart, W. Germany, Apr. 28, 1964→"Mingus In Stuttgart, April 28, 1964 Concert"

 ジョニー・コールズ(トランペット、1926-1997)、エリック・ドルフィー(アルトサックス、フルート、バス・クラリネット)、クリフォード・ジョーダン(テナーサックス、1931-1993)、ジャッキー・バイヤード(ピアノ、1922-1999)、ミンガス、ダニー・リッチモンド(ドラムス、1931-1988)からなる1964年4月のミンガス・セクステットのツアー日程現在判明する限りは上記の通りで、うちコールズはヨーロッパ公演7公演目の4月17日パリ公演で胃潰瘍の悪化で倒れて手術のために緊急帰国し、パリ公演2日目の18日(従来のデータでは19日でしたが、19日のベルギー公演が判明したため、現在では18日に修正されています)からの残り5公演はコールズ抜きのクインテット編成で続行されます。前回ご紹介したヨーロッパ公演4日目、4月13日のストックホルム(スウェーデン)公演の翌日、14日にはコペンハーゲン(デンマーク)公演が行われていますが、LP時代にラジオ放送からのエアチェック・テープ、また客席録音が確認されただけで、今後ラジオ局マスターが発掘されればともかく、現在は廃盤かつ稀少なアナログLPでしか出回っていません。データも信用おけないものですが、14日のコペンハーゲン公演の曲目は、
・Orange Was The Color Of Her Dress
・Meditations
・A.T.F.W.U.S.A.
・Fables Of Faubus
 --の4曲が海賊盤LP『Charles Mingus Sextet Live In Copenhagen 1964』(Landscape (F) LS2-905)または海賊盤CD『Charles Mingus - Astral Weeks』(Moon (It) MCD 016-2)に収録されており、
・So Long Eric
 --1曲が客席録音で残されているようです。筆者はこの海賊盤を聴いていませんが(YouTubeにもアップされていません)、4月13日のストックホルム公演が体調不良のドルフィーになるべく負担をかけまいとするアレンジで演奏されていたことからも、おそらくエアチェック録音か客席録音による14日のコペンハーゲンも芳しくない演奏が推測されます。しかし一日を置いた16日のブレーメン公演は、翌17日のパリ公演中に倒れて緊急搬送・緊急帰国手術を受けることになるコールズの体調不良をまったく予期させない見事な演奏で、まるで最新録音のようなラジオ・ブレーメンの新規リマスター(ドラムスのみステレオ、管楽器とピアノ、ベースはモノラル・ミックスされています)によって、これまで公式リリースとされてきた、録音月日順に上げれば『Cornell 1964』(Blue Note, 2007)、『Town Hall Concert』(Jazz Workshop, 1964)、『Revenge!』(Revenge, 1996)、『The Great Concert of Charles Mingus』(America 30, 1971)、『In Europe Vol.I & Vol.II』(Enja, 1979/1981)の五作や、優良インディー盤『In Amsterdam 1964』(Ulysses / DIW, 1989)、定番ライヴ映像『Oslo, 1964』に較べても遜色ないどころか、コールズ急病離脱直前のセクステットのライヴ音源としても録音の良さ、演奏の充実でも1964年ミンガス・セクステット最高と言っていいライヴです。このブレーメン公演ではミンガスが観客に「俺たちの音楽を理解できない奴は帰れ!」と説教したと伝えられますが(これはミンガスの口癖で、アメリカ本国でジャズ・クラブからミンガスが閉め出されてライヴ活動ができなくなった原因でもありました)、このブレーメン公演では反語的な意味で観客へのリップサーヴィス(聴きに来ている観客はミンガスを理解している)として受けとられ、バンド、観客ともノリノリのライヴにつながったものと思われます。

 本作はアナログLP時代の1979年にハーフ・オフィシャル・レーベルのUnique Jazzから、コンサートから3曲のみ抜粋した、
A1. Meditations
B1. Meditations (continued)
B2. ATFWUSA
B3. Sophisticated Lady
 --として1枚物LPでリリースされ、また2010年には初めてコンサート完全版としてJazz Lipsレーベルから2枚組CD『The Complete Bremen Concert』がリリースされましたが(試聴リンクも同作によるものです)、そこでは曲順は、
(Disc 1)
1-1. A.T.F.W (Art Tatum-Fats Waller) - 4:51
1-2. Sophisticated Lady - 4:09
1-3. So Long Eric - 26:49
1-4. Parkeriana - 21:49
(Disc 2)
2-1. Meditations On Integration - 25:28
2-2. Fables Of Faubus - 34:03

 --となっていました。Jazz Lips盤はようやくコンサート完全版をラジオ・ブレーメンのマスターテープまで突きとめたと言ってよく、ようやく素晴らしいオリジナル・マスターにたどり着いたと思えたものでしたが、本家本元のラジオ・ブレーメンによる2020年版リリースで遂に二部構成・一時間ずつの2セットの演奏曲目・曲順が確定されたのは大きな意義があります。「Hope So Eric」は「So Long Eric」、「Piano Solo」は「A.T.F.W.Y.O.U.」と同曲ですが、このライヴの時点ではアルバム未収録の新曲だったので、ラジオ局には仮のワーキング・タイトルがデータに残されていたのでしょう。本作によって定本化された、
(Disc 1)
1-1. Hope So Eric (aka So Long Eric) - 26:05
1-2. Fables Of Faubus - 33:24
(Disc 2)
2-1. Piano Solo (aka A.T.F.W.Y.O.U.) (Jaki Byard) - 4:44
2-2. Sophisticated Lady (Duke Ellington) - 3:46
2-3. Parkeriana (Charles Mingus) (aka Ow!) (Dizzy Gillespie) - 21:45
2-4. Meditations On Integration - 25:02
 -ーのコンサートの二部構成と曲順は大いに納得がいくもので、『Cornell 1964』とともに21世紀までかかったのと相応の精確な復原を感じされられます。また4月12日のオスロ公演から13日の二回のストックホルム公演まで調子の悪さを感じさせたドルフィーが、ここでは初日のアムステルダム公演以上の熱演を聴かせてくれるもの聴きどころで、とても翌日に倒れるとは思えないコールズ絶好調のプレイともども、ヨーロッパ・ツアー全12公演のちょうど半分、6公演目にして、セクステット最高の瞬間が2時間以上に渡ってたっぷり聴けるライヴです。またツアー二日目のオスロ公演映像がこのツアーでは定番映像になっていますが、ツアー序盤のはっきりしたビ・バップ~ハード・バップ的ソロ回しから、構成的にはソロ回しであっても実質的には頻繁なリズム・チェンジを織りこんだ集団同時即興演奏化が長尺曲の「So Long Eric」「Parkeriana」、特に「Fables Of Faubus」や「Meditations」では顕著になっており、ミンガスの指向する小編成グループによるビッグバンド・アレンジ化がほぼ完成形に近づいています。これは'64年当時のフリー・ジャズやブルー・ノートの新主流派とも異なるアプローチで、サン・ラ・アーケストラやセシル・テイラー・ユニットよりは穏健ですが、ミンガスの場合は楽曲そのものがキャッチーで訴求力に富むためにサン・ラやテイラーほど解体的にはならないので、楽曲の良さ、ソロイストの雄弁さと集団同時即興演奏のバランスの良さがミンガスをサン・ラやテイラーよりずっとミンガスを広いリスナーに訴えるアーティストにしています。しかしビートルズが世界的にブレイクした1964年は同時に未曾有のジャズ不況の始まりとなり、以降のミンガスは'70年代のジャズ再評価まで苦渋を舐めることになります。その意味でもこの'64年4月ツアー、6月末のドルフィーの急逝は伝説的な事件となったのです。