日本のパンク・ロック!(7) 午前四時『Live Bootleg』(昭和56年/1981年) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

午前四時 - Live Bootleg (Telegraph, 1981)

午前四時 - ト・ビ・ラ (from the album "Live Bootleg", Telegraph, 1981) :  

午前四時 - ト・ビ・ラ (スタジオ・ヴァージョン) (from the album "Live Bootleg", 徳間ジャパン, 1998) :  

午前四時 - それがおまえにいちばん (from the album "Live Bootleg", Telegraph, 1981) :  

午前四時 - それがおまえにいちばん (スタジオ・ヴァージョン) (from the album "Live Bootleg", 徳間ジャパン, 1998) :  


 昭和55年(1980年)4月頃に川田良(ギター)、井出裕行(イデ、ベース)、ヒロ(ドラムス)、 高橋均(キン、ヴォーカル)の四人によって結成、半年目でインディー・レーベルのジャンク・コネクションの自主制作レコーディング中に意見が対立し、キンは脱退。灰野敬二をヴォーカルに迎えるも結成から一年未満で解散。アルバムは解散後に午前四時を「1980年最高のバンド」と惚れこんでいた地引雄一氏主宰のインディー・レーベル、テレグラフから1980年8月に渋谷屋根裏・昼の部をリスナーが客席録音していた6曲入り10インチLP『Live Bootleg』のみになりましたが、1998年に同作が初CD化された際に「ト・ビ・ラ」「それがおまえにいちばん」の2曲のスタジオ・ヴァージョンが発掘され、また2008年の再CD化ではさらにキン在籍時末期の1980年10月12日の新宿ロフトでの新発見ライヴ8曲(うち3曲『Live Bootleg』未収録の未発表曲)が追加収録されました。あまりに活動期間が短く、ライヴの本数も少なかったため、午前四時の名前が噂に上がった頃にはすでにキンは脱退しており、ヴォーカルが灰野敬二に変わったあとも数本のライヴのみですぐに解散してしまい、『Live Bootleg』のリリースによって初めて知られるようになった閃光のようなバンドが午前四時でした。たった6曲、全篇30分足らずのライヴ盤『Live Bootleg』は写真家が本業の地引氏によるジャケット、30分足らずにもかかわらず濃密な内容で当時のインディー・シーンの名盤になり、午前四時脱退後まったく消息を絶ったヴォーカルのキン、元セックスでのちにイデとともにジャングルズ、伊藤耕(1955年生、2017年獄中死)とともにフールズを結成するギタリストの川田良(1955年生、2014年逝去)の在籍バンドとして伝説的な存在になり、今でも語り継がれているバンドです。

 アルバム全篇がハイライトなので全篇がYouTubeにアップされておらず残念ですが、7/8拍子のアルバム冒頭曲「ト・ビ・ラ」は午前四時の代表曲で、ラフなチューニングからMCもなしに突然スネアロールと鋭角的なギター・リフから始まる衝撃的なイントロだけで戦慄が走ります。これに匹敵するイントロはエリック・ドルフィーの『Last Date』(Fontana, 1964)の冒頭曲「Epistrophy」の無伴奏バス・クラリネットにハン・ベニンクの鋭いスネア一発くらいしか思いつかないほとで、午前四時のアレンジや演奏力はコピーするだけなら高校生の学生バンドでも真似られるようなものですが、この緊張感とバンド一体となったグルーヴはコピー演奏で再現できるものではありません。やはりスタジオ・ヴァージョンが残されている「それがおまえにいちばん」は短調スリー・コードの、午前四時の曲としてはポップな曲で、「ト・ビ・ラ」と「それがおまえにいちばん」が自主制作シングルAB面用に選ばれたのも納得のいくものですが、この2曲ともスタジオ・ヴァージョンは平坦な音色とミックス、ヴォーカルのエコー過多で明らかに客席録音のライヴ・テイクの方が演奏、録音ともに迫力と演奏の密度、緊迫感に優れ、まだインディー・レーベルでは予算的・技術的に録音環境でメジャー作品におよばなかった時代の物足りなさが感じられます。午前四時の場合はバンドが一番乗っていた頃の良好な観客録音が残されていたのが幸運だったので、再CD化で新発見され追加収録されたキン脱退直前のライヴは未発表曲3曲の出来ともども初回盤10インチLPの8月のライヴ6曲におよびません。この金属的で鋭角的なサウンドとビートは当時フリクションやザ・ルースターズくらいしか類例がなく、10年のちのミシェル・ガン・エレファント、イースタン・ユース、ブランキー・ジェット・シティらではごく標準的なサウンド傾向になり、その分先駆的な存在だった午前四時の演奏のテンションの高さが際立って聴こえます。日本のプレ・パンク・ロックだった'70年代の頭脳警察、村八分、サンハウス、外道らからも午前四時には明確にポスト・パンク的なリズム革新があり、川田良のザクザクしたギター、高橋均の吐きすてるようなヴォーカルは'80年代初頭にしてすでにグランジやローファイを経た'80年代末~'90年代の感覚を先取りしています。川田良がのちに結成したジャングルズ、ザ・フールズも素晴らしいバンドでしたが、音楽的にはファンクを取り入れたオーソドックスな黒人音楽ルーツのポスト・パンクに向かったので、その点でも実質的には高橋均在籍時の半年しか存在しなかった午前四時は幻のバンドの筆頭と言える日本のパンク・ロックの最重要バンドのひとつです。日本ロック史に輝く名曲「ト・ビ・ラ」のオリジナル・ライヴ・ヴァージョンだけでもこのバンドの名は残ります。バンド名、かっこいいジャケットとともにこれほど質の高いロックのアルバムはそうあるものではありません。スタジオ・ライヴの拍手からドルフィーのフリーキーな無伴奏ソロに突然ハン・ベニンクの鋭いスネア・ドラムスで始まるエリック・ドルフィーの「Epistrophy」、またラフなチューニング・ノイズから始まるビートルズの「Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band」、ビートルズの同曲のイントロを踏襲したジャックスの名曲「堕天使ロック」ら古典的名演のいずれをとっても午前四時の「ト・ビ・ラ」は十分拮抗し、その無作為な衝撃ではドルフィーやビートルズ、ジャックスすら越えています。お聴き較べください。
Eric Dolphy - Epistrophy (Fontana, 1964) :