第五章その4!Nagisaの国のアリス・第24回 | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。



 (47)

 そんな具合にアリスはちょっとこれはやばいんじゃないの、と焦ってもいい状況になりましたが、小人の数は多く見積もって七人、そのうち両手両足を押さえている小人がいて、髪をつかんで頭を押さえている小人がいて、その小人がさっきまでアリスの顔を照らしていたランタンを手渡し、今それを掲げている小人がいてということは、手が空いている小人はひとりいるかいないかになります。そのひとりはたぶんさっき道具箱を引きずってきた小人でしょうが、手足を押さえていた小人と交替していたのかもしれず、その小人はスカートの中を覗きながら(たぶん肛門のあたりです、とドジソン先生)休憩しているのかもしれません。
 それにアリスが暴れようものなら、押さえつけるだけでも小人たちには手一杯になるはずで、アリスとしてはなにも警戒する必要はなさそうでした。本当に危険が迫ってきたら勝ち目はたぶんアリスにあります。大したことないわ、とアリスはまた口に出しそうになって、今はおとなしく様子をうかがうことにしました。なにしろ深い深い穴の中を長い長い時間をかけて落ちてきましたから、落ちるがままに落ちてきただけのことですが、長い長い川を流されてきたように体はだるく、それに退屈でやる気もなくなって、早い話が自分から何かするのはおっくうな気分でしたから、どうせその気になれば払いのけられる小人たちなど放っておいて、行きがかりは行きがかりで楽しんでみよう、と余裕の態度でした。そこらへんはさすがにアリスも階級制度にあぐらをかいた19世紀のイギリス人令嬢だけありました。動物の前で肌をさらして羞恥心を感じる人はいませんが、アリスの属する白人中産階級にとっては人間でさえも有色人種ですら家畜動物と同等かそれ以下ですから、こんな地底人の小人など畜類以下の爬虫類や両棲類、昆虫並みでしかありません。
 ですがアリスがあなどっていたのは、アリスにとって小人が畜類以下なら、小人にとってはアリスはでっかい獲物なわけで、おたがい話してわかりあえる可能性はまったくないということです。頭のわるいアリスでもなんだか嫌な予感がしたのは、コツンコツンとハンマーの音がし始めたからでした。アリスはハッと気がつきました。この音は地面に杭を打っている音だわ!アリスが油断して放心状態になっていた隙に、小人たちはてきぱきとアリスの手足を地面に張りつけにしていました。
 しまった、とアリスはガリバーのお話を思い出しました。小人は見つけた人間を張りつけにするものなのです。


 (48)

 はひふへほー、と小人のひとりが笑いました。どうせおれたち小人なんか力まかせではねのけられる、と油断していたに違いまい。それが慢心てやつさ、とハンマーを打ち合わせる音が聞こえ、だけど地面に張りつけにされたら、さすがにちょっとやそっとの力じゃ、身動きひとつとれないぜ。
 さあお嬢さんはどうするのかな、と別の小人が嬉しそうに言いました。かなりにっちもさっちもいかない事態だね、おれたちにとっては形勢逆転というべきか、もっとも最初から勝ち目は決まっていたようなものだがね。アリスは頭に血が上り、この人でなし、ゲス野郎、人間の屑と反射的にわめき出すところでしたが、どう言われても小人たちにはまるでこたえないのはわかりきっています。そんなことは私のような未来のレディが口にすることじゃないわ。アリスが品性をかなぐり捨てたら、それこそ小人たちの思うつぼです。
 それでおれたちはどうする?と別の小人が言いました。ざわ、と小人たちの間に当惑した雰囲気が走るのが、あお向けに張りつけになったアリスにも感じとれました。どうやら小人たちは、アリスを身動きとれなくした目的までは決めていなかったようでした。
 きっとこいつらばかなんだわ、とアリスは勘ぐりました。張りつけにしたのは小人がでかい獲物を見つけた時の本能で、いわばそれ自体が目的で、張りつけにしたその後のことまで考えてはいないのにちがいない。だったらなるべく無傷で助かる方法もあるかもしれないわ、とアリスはすばやく狡知をめぐらせました。狡知とはずるがしこい手段を考えることで(とドジソン先生は言いました)、立派なレディのたしなみのひとつとして大人になるまでに身につけなければなりません。
 そりゃさあ、と別の小人が困った様子で言いました、おれたちゃ小人なんだから、小人らしいことをしなきゃあなあ。
 やっぱそうきたか、とアリスは内心ほくそ笑んで、あんたたち小人らしいことって何だか知ってるの?小人たちは混乱したらしく、てんでばらばらな声を上げました。アリスは面白くなってきました。わけがわからずぐちゃぐちゃになっている集団ほど誘導しやすいものはないからです。ほら全然わかっていないじゃない、とアリスは挑発しました。またもや混乱してキーキー仲間割れする小人たち。
 小人らしいってことは、人間の嫌がることをすることよ。
 あーそうかっ!とばかな小人たちは素直に引っかかりました。で、何すりゃいいんだ?
 女体盛りとかどう?とアリス。
 次回第五章完。

⬇イラストのお問合せはこちらまで。