第一章その3!Nagisaの国のアリス・第三回 | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。



 (5)

 以前も言及したような気もしますが、犬のメスの発情周期は6か月から8か月で、犬種により差があります。発情期間は約3か月で、この期間のうち前期1か月間が実際に交尾によって繁殖できる可能性のある期間です。発情期に入ると、メスは性器を自らなめる仕草が多くなり始めます。この時期にメスの性器が発するフェロモンが周囲のオスに発情期を察知させるので、余計なオスを興奮させないためにも、発情期のメスをドッグランなど不特定多数のイヌがいる場所に連れ出すのは控えた方が良いでしょう。次いで性器が充血して出血(生理)が始まる時期に移行します。その期間は平均10日前後で、この時期に相手のオスと同居させることで交配が行われます。これは獣のように貪りあう、などという卑小なヒトにおける慣用句などとは異なる、非常に機械的であっけなく、かつ厳粛な過程を踏みます。
 交尾の際にはほかの多くのイヌ科の動物と同様に交尾結合が見られ、後背位で結合した後にオスがメスの尻をまたいで反対向きとなり、お尻とお尻を向かいあわせた状態で、長い時は30分以上交尾が継続します。交尾中はオスの陰茎は根元付近が特に大きく肥大してメスの膣から抜けなくなるため、射精が終了するまでは人の手でも引き離すことは困難です。ブリーダーによる血統証明書の申請の際は、この「お尻を向かい合わせた姿勢」の写真を根拠に交配証明書を作成することが一般的です。
 いっぽう練馬大根は、東京の練馬地方で作られ始めた大根を言い、練馬区の特産品にもなっています。この地域の土壌が関東ローム層であり、栽培に適していたのです。練馬大根とは白首大根系の品種で、重さは通常で1~2kg前後、長さは約70~100cmほどにもなります。首と下部は細く、中央部が太い形状が特徴で、辛味が強く、沢庵漬けに適した「尻細大根」と、その改良型で煮て食べたり、浅漬に用いられる「秋詰まり大根」の2種類があります。
 練馬大根の利用法としては漬物、特にたくあん用として重宝されます。辛味が強いことから、大根おろしにも利用され、その他煮物、干しダイコンなどに使われます。
 現在生産量が少ない理由としては、収穫時の重労働があります。練馬大根の特徴が、首と下部は細く、中央が太いということがあり、収穫のために練馬大根を引き抜く際に、非常に力が必要になります。ある調査によれば、練馬大根を引き抜くには、青首大根の数倍の力が必要であるといいます。そのため、高齢の農家への負担が大きいと言われます。
 ドジソン先生は目をつぶると、意地でも大地から抜けない明るい青空の下の練馬大根の根性に思いをめぐらせました。


 (6)

 それが先生のおっしゃりたいことでしたの?とロリーナが尋ねました。こういう時に姉妹を代表するような態度に出るのが、いかにも三姉妹の長女らしいロリーナのこざかしい面で、アリスやエディスが従順なのは決してロリーナに賛同してではありませんでしたが、いざ事がこじれた場合に長姉を矢面に立たせるのは得策なこともあるのです。その辺はアリスたちもちゃっかりロリーナのでしゃばりに便乗しているところがありました。もしロリーナが地雷を踏んでもそれは自爆というものです。
 遠くで汽笛が鳴りました。ポー。
 おおむね違いません、とドジソン先生は言いました、ところで大根には殴る以外の使い道もあります、とドジソン先生は練馬大根を振り回しながら言いました。そもそも練馬大根は変態倶楽部の御神体、つまり心の故郷です。それをお忘れなく。
 ロリーナはエディスを見ました。エディスはそしらぬ顔でアリスを見ました。アリスはロリーナを見つめていましたが、エディスの視線を感じるとロリーナの視線を誘導してエディスにはちあわせさせました。エディスは妹の特権がないがしろにされた気持で長姉の助力を借りると、ロリーナとふたりでアリスに責めるような視線を浴びせました。アリスは伏し目がちでいましたが、アリスの様子がロリーナとエディスには姉妹の中で唯一、まだドジソン先生に追い返されてはいないのに由来する自信のように見えて、激しい嫉妬に襲われました。
 わかりました、とアリスは言いました。ドジソン先生は私をひっそり滅多打ちにするために呼び出したのよ。だから先生は不意打ちしようと練馬大根をつかんだんだわ。違いますか?
 違うわ、とロリーナは口をはさみました。先生ならそんな回りくどいことはなさらないわ。回りくどいこと?とエディス。そう、先生なら堂々とドアを開けてアリスとお茶をしてから撲るわ。だって不意打ちする必要なんかないじゃない、そうでしょ?
 これはもちろん暗にきっとアリスならそうする、ということをドジソン先生に託して言っているのです。これを一般的には「当てこすり」と言います。いやあ先生も買いかぶられちゃったなあ、とドジソン先生は笑ってみせました。少女といえども女同士、しかも姉妹同士でイチャコラ揉めるとなると、博愛主義者のドジソン先生ですら手に余るというものです。
 そうだ、とドジソン先生はつぶやきました、犬でも練馬大根でもない、この姉妹たちへのお話に、いま必要なのは童話ならではの存在しないウサギ、しかも食えないほどにとびきり腹黒いウサギの話なのだ。
 続く。

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