フランク・ザッパ - ヨーロピアン・ツアー1968 (TV Broadcast) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

フランク・ザッパ・アンド・ザ・マザーズ・オブ・インヴェンジョン - ザ・ヨーロピアン・ツアー1968 (Video, TV Broadcast)
フランク・ザッパ・アンド・ザ・マザーズ・オブ・インヴェンジョン Frank Zappa and Mothers of Invention - ザ・ヨーロピアン・ツアー1968 The European Tour 1968 (Video, TV Broadcast) :  

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1968-09-28 Grugahalle
Essen, Germany
00:00
01 King Kong
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1968-10-06 The Beat Club,
Bremen, West Germany
14:09
01 Improvisations
02 King Kong
03 Pound For A Brown
04 Sleeping In A Jar
05 Uncle Meat
06 Lohengrin
07 Let's Make The Water Turn Black
08 Octandre
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1968-10-23 BBC 2 TV,
London, England
53:15
01 Improvisation
02 King Kong
03 Oh In The Sky
[ Frank Zappa and the Mothers of Invention ]
Frank Zappa - guitar, low grade vocals, percussion
Jimmy Carl Black - drums, droll humor, poverty
Roy Estrada - electric bass, cheeseburgers, Pachuco falsetto
Don (Dom De Wild) Preston - electric piano, tarot cards, brown rice
Bunk (Sweetpants) Gardner - piccolo, flute, clarinet, bass clarinet, soprano sax, alto sax, tenor sax, bassoon (all of these electric and/or no-electric depending)
Ian Underwood - electronic organ, piano, harpsichord, celeste, flute, clarinet, alto sax, baritone sax, special assistant, copyist, industrial relations & teen appeal
Artie (With the Green Mustache) Tripp - drums, timpani, vibes, marimba, xylophone, wood blocks, bells, small chimes, cheerful outlook & specific inquiries
Euclid James (Motorhead/Motorishi) Sherwood - pop star, frenetic tenor sax stylings, tambourine, choreography, obstinance & equipment setter-upper when he's not hustling local groupies

 フランク・ザッパ(1940-1993)は名前は広く知られていますし、案外ラジオでもよくかかるメジャーな存在です。門下生に有名ミュージシャンがわんさといる偉大な人らしい、ということでも有名です。だけどヒット曲というとよくわからないし、あまりに多作な人だったので必ず上がる代表作もよくわからない。だいたいフランク・ザッパというミュージシャンは多作ミュージシャンの例に洩れず、そういう感じで敬遠されています。

 一方、ザッパには熱狂的なファンが少なからずいて、そうしたファンのザッパ讃辞がこれからフランク・ザッパを聴こうという人には敷居が高く、これはアーティスト自身の韜晦癖にも原因があるでしょう。フランク・ザッパはロサンゼルスのロック界最大の大物ギタリストで作・編曲家であり、バンド・リーダーでした。誰しもがそうであるように、単にそれだけの人ではなかったと言うのも正しいですが、神棚の上にあげるように聴かれたいと思っていたような人ではないでしょうし、細かい批評をされるよりもノリノリに楽しんでくれる聴衆の方が好きだったに違いないショーマンシップに満ちた人でもありました。今回ご紹介したのはテレビ放映用スタジオ・ライヴ映像ですからシリアス寄りの演奏ですが、'70年代以降のライヴ映像を観ると観客もバンドも先述の通りノリノリの馬鹿騒ぎで、フランク・ザッパとそのバンドは大エンターテインナーとして大人気だったんだな、とよくわかります。デビュー・アルバムの1曲目からしてザッパのロックはポップでシニカルな、ユーモアのセンスにあふれたものでした。
◎Frank Zappa and The Mothers of Invention - Hungry Freaks,Daddy (from the album "Freak Out!", 1966) :  

 フランク・ザッパは「フランク・ザッパ・アンド・マザーズ・オブ・インヴェンジョン」のバンド名義で1966年8月に異例の二枚組デビュー・アルバム『Freak Out』(Verve, 1966)で一躍ロック界きっての奇才の名を上げました。1966年はザ・ローリング・ストーンズが『Aftermath』を4月に、ボブ・ディランが『Blonde On Blonde』を5月に、ザ・ビーチ・ボーイズが『Pet Sounds』を6月に、ザ・バーズが『Fifth Dimension』を7月に、ザ・ビートルズが『Revolver』を8月に発表します。アメリカ西海岸のロック・シーンではビーチ・ボーイズ、ザ・バーズに続く存在としてアーサー・リー率いるラヴのデビュー作『Love』が4月、グレース・スリック加入前のジェファーソン・エアプレインのデビュー作『Takes Off』が9月で、ラヴはマザーズと同じロサンゼルスのアンダーグラウンド・シーンからのバンド、エアプレインはサンフランシスコのバンドですから、ザッパより早くアルバム・デビューしていたラヴの意外な先駆性には意表を突かれます。ニューヨークのヴェルヴェット・アンダーグラウンドとサンフランシスコのグレイトフル・デッドは翌1967年3月に、続いてロサンゼルスのザ・ドアーズは4月に、英米混成グループのジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンスは5月にデビュー・アルバムを発表して、'60年代後半の主要グループは出揃います。ヴェルヴェッツとデッドが同月デビューなんて出来過ぎた冗談のようですし、1966年の五大グループではビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』はあまりに先を行き過ぎ、またザ・バーズはいつも一瞬とはいえビートルズの先を行っていたのには驚嘆します。『Fifth Dimension』は恒例のディランのカヴァーは一曲もなく、ディノ・ヴァレンテ改作のトラッド曲「Hey Joe」をジミ・ヘンドリクスより半年早く取り上げ(もともとこの曲のロック・ヴァージョンを初めてライヴ・レパートリーにしていたのはザ・バーズでした)、「Eight Miles High」を始めとするメンバーの強力な自作曲によって、ガレージ・パンク~サイケデリック・ロックの指針となった、ストーンズの『Aftermath』と肩を並べる影響力の大きいアルバムです。バーズにはストーンズのような天才はいないバンドでしたから、後続のバンドが模倣・発展させるには取り付きやすい存在でした。

 一方フランク・ザッパはエンターテインナーとしてアメリカ本国で成功しながら、アヴァンギャルド・ロックの創始者としてイギリス~ヨーロッパ諸国では絶大な影響力を誇るミュージシャンになります。ジャズ・ロック~プログレッシヴ・ロック、またザッパ自身は反ヒッピーでサイケデリック・ロックを一笑に伏しましたが、究極のサイケデリック・ロックとして国際的な最前衛ミュージシャンと見なされるようになります。1969年のヨーロッパ・ツアーでは10月にベルギーでフランク・ザッパ主催の前衛ロック・フェスティヴァルが行われ、ピンク・フロイドの出演ではザッパみずからが共演し、ザッパのあまりに強力な演奏にピンク・フロイドがバック・バンド化してしまう、という音源も残されています。イギリスのコロシアム、ソフト・マシーンやヘンリー・カウ、フランスのゴングやマグマ、西ドイツのクラウトロック勢(特にタンジェリン・ドリームやファウスト、アジテーション・フリー)、さらにザッパの曲から名前を採った旧チェコスロバキアのプラスチック・ピープルなども、ザッパの影響やザッパが開拓した何でもありのスタイルなしには発展はなかったほどです。
 フランク・ザッパをご紹介するのに1968年のライヴ映像を持ってきたのは、このテレビ放映用ライヴはアルバム『Uncle Meat』発表に先立つツアーの一環で、同アルバムはデビュー以来のザッパ&ザ・マザーズの到達点になりました。このアルバムでザッパはそれまでのマザーズを総括し、またこのアルバム以降のザッパはバンドの制約にとらわれず『Uncle Meat』の変奏・延長・拡大を流動的なメンバーで制作していくようになります。52年の生涯に150枚あまりのアルバムを残した人ですから何から聴けばいいのか困っている人には、まず初期5年間のアルバムが聴きやすいと思います。処女作にすべてがある、というのはザッパにも当てはまります(その後の拡大ぶりが凄いですが)。サード・アルバムまでは三部作をなしています。実験的なサウンド・コラージュ作品でソロ名義の4と匿名バンドでオールディーズ・ポップスのパロディをやった5に続き、『Uncle Meat』になるわけです。『Uncle Meat』をさらに複雑かつパワフルにしたソロ名義の7(このアルバムはビートルズの『Abbey Road』の連続1位に取って代わってイギリスでNo.1ヒットになりました)で大反響を呼んだ後、新メンバーのマザーズで7の延長上にある8と9で再編成マザーズの決定版を出して締めくくる、というのがザッパ初期5年間のアルバムの流れです。ザッパは恐るべき一貫性を持ったミュージシャンで、スタジオ・ミュージシャンとして研鑽を積んだのち25歳でアーティスト・デビューして52歳で亡くなるまで、とことん反体制・最前衛の立場を崩しませんでした。初期5年間のアルバムでザッパを知れば、続く140作ものアルバムはどれを聴いても楽しめます。以下はリストをご覧ください。
[ Frank Zappa And The Mothers of Invention Album Discography 1966-1970 ] 
1. Freak Out! (フリーク・アウト!1966年)
2. Absolutely Free (マザーズ・オブ・インヴェンションの自由な世界 / アブソリュートリー・フリー/1967年)
3. We're Only In It For The Money (マザーズ・オブ・インヴェンションのおかしな世界 / ウィー・アー・オンリー・イン・イット・フォー・ザ・マニー/1968年)
4.Lumpy Gravy (ランピー・グレイヴィ/1968年) ※ソロ名義
5.Cruising With Ruben & The Jets (クルージング・ウィズ・ルーベン&ザ・ジェッツ/1968年) ※ルーベン&ザ・ジェッツ名義
6. Mothermania (マザーマニア/1969年) ※ベスト・アルバム
7. Uncle Meat (アンクル・ミート/1969年)
8. Hot Rats (ホット・ラッツ/1969年) ※ソロ名義
9. Burnt Weeny Sandwich (バーント・ウィーニー・サンドウィッチ/1970年)
10. Weasels Ripped My Flesh (いたち野郎/1970年)