開戦!戦場のミッフィーちゃんと仲間たち・第三回 | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。



 (5)

 うーん、とミッフィーちゃんはにやりと笑って言いました。
・金の臭いがプンプンするぜ。
 彼女の唐突な発言は今に始まったことではありませんが、例によって大胆なメラニーはフッと笑い、気弱なアギーはぶるぶると震え、のん気なバーバラは目をぱちくりし、クールなウインは無表情でした。うさぎたちは基本的にはみんな色白でしたが(南国生まれのメラニーと本当はくまのバーバラ以外は)、色白だからといって心まで白いとは限りません。口の悪く狡猾なメラニーなどは色黒ながらむしろ気性はさっぱりした方でした。実はみんなが気づいて黙認しているのは、ミッフィーの外見に似合わない腹黒さでもありました。
 そんなにハローキティの店の繁盛ぶりが気になるのかなあ、とみんなはミッフィーの機嫌を測りそこねて少なからず困惑していました。アギーやバーバラたちにとっては、格別お客さんが盛況よりもそこそこやっていければいいので、多少のチップはありますが軍務ですからお給料は繁盛していようがヒマだろうが大差ないのです。しかしこの慰安師団ではミッフィーが軍隊の位で言えば指揮官なので、彼女にとっては面子のかかった事態なのだろう、と推測できる程度ではありました。でもお店の流行りすたりなんて運じゃない?と話題が立ち消えそうになった時、そこで冒頭のミッフィーちゃんの唐突な発言が飛び出てきたのです。大胆なメラニーはフッと笑い、気弱なアギーはぶるぶると震え、のん気なバーバラは目をぱちくりし、クールなウインは無表情でした。
 運は自分でつかんでこそ実力と言いますが、運の中でも実力だけでは測れないのが金運と異性運と発癌リスクというものです。運とは成功と幸福を意味するならば、お金や健康や異性関係に富んでいることが単純に幸運と言えるでしょうか?じゃんじゃんウハウハお金がもうかり、よりどりみどりにモテまくるのも悪い気持はしないものですが、金と性と健康の過剰は精神的な荒廃と常に隣り合わせにあります。
 あんた何か言った?とメラニーはみんなを順ぐりに見つめました。どうしたの、とアギー。誰かいま、説教臭いこと考えていなかった?バーバラはぽかんとした表情で、ウインはいつも通り顔色ひとつ変えず、べつに、と言いました。この女けっこうくせ者だわ、私に説教臭いことを吹き込んでミッフィーをたしなめさせる算段だったに違いない。
 その手は食わないわよ、とメラニーは身構えました。自分自身が信じてもいないことまで考えられる二重思考ができるのは、仲間の中ではメラニーとウインだけでした。


 (6)

 クソったれ!(註1)とハローキティことキティ・ホワイトはドレッシング・ルームに戻るなり悪態をつきました。ミミィ・ホワイトは入れ替わりに接客に出るところでしたが、双子の姉のズベ公ぶりを恥じる一方で、外見も耳のリボンが右か左かでしか見分けがつかないほどですから、多少は大げさなくらいにキャラクターの差をアピールする方がいいのかな、と思いました。私たちも生まれて45年を越えたんだもの、いつまで経っても見分けのつかない双子の姉妹じゃ恥ずかしいような気がするわ。
 じゃあ行くわね、と服の肩ひもを直しながらミミィが振り返ると、双子の姉は脱衣カゴを持って踊っていました。何してるのキティ?とミミィが呆気にとられて裏声をひっくり返すと、わかんないの?とハローキティ。ドジョウすくい(註2)よ。ドジョウすくい?お客におそわった一発芸よ。さっき私下品なこと言ったでしょ?ああいう風にかましておいて、すぐさまこうやってカゴのたぐいを持って踊るんですって。はあ……それで、どうなるの?相手のMP(註3)が下がるんだってさ、効き目ありそうでしょ?
 ハローミミィは私の姉は何て馬鹿なんだろう、とさきほど少し感心したのが騙されて悔しい気分でしたが、交替するのにMP下げないでよ、と言いました。あ、下がった?どのくらい?としつこく訊いてくる姉に、わかんないわよ私元々MPないから、とミミィはぶっきらぼうに答えました。えっ、ないの?私の妹なのに?そういうのはきっと全部あんたに取られて生まれてきちゃったのよ、と、ハローミミィは苦々しい口調で双子の姉に返しました。
 寂しいこと言うのね。自信のない女は客がつかないわよ、とハローキティ。じゃあ相手を逆にしてやってみる?いつの間にか親友のキャリーも休憩に戻って、姉妹のやりとりをぽかんとして眺めています。
 いいわよ、とハローキティ。それで私何て言えばいいの?と困惑するミミィ。あんたもクソったれじゃ芸がないわね。イカの金玉!(註4)ってのはどう?ミミィは仕方なくイカの金玉!と叫ぶと、脱衣カゴを持って姉がしていたように踊ってみました。あんたたちどうしちゃったの!?と驚愕するキャリーに説明する気力もなく、どおMP下がった?とミミィは尋ねました。ううん全然。
 あの、そろそろ出ないとまずくない?とキャリーがミミィを促しました。繁盛も良いけれど、あっちの店とうちの店で、ほどよく客が分かれればいいのにね、とキャリー。しかしハローキティはと言えば、あんなうさぎばかりの店なんか問題外じゃん!と自信たっぷりでした。
 (註1・アルフレッド・ジャリ『ユビュ王(Ubu Roi)』1896参照)
 (註2・極東の宴会芸)
 (註3・魔法力=Magic Point)
 (註4・雄のイカの精巣。エビの尻尾同様、通常ネコが食べると腰を抜かすと伝承される。)