サン・ラ - アイ、ファラオ (El Saturn, 1979) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - アイ、ファラオ (El Saturn, 1979)
サン・ラ Sun Ra and his Arkestra - アイ、ファラオ I, Pharaoh (El Saturn, 1980)
Recorded live during 1979, though some authors say that the real date is June 6 1980.
Released by El Saturn Records El Saturn 6680, 1980
All composed and arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Rumpelstiltskin - 4:15 (different version from the album "Aurora Borealis", Saturn 10480, 1980) :  

A2. Images - 7:15 :  

(Side B)
B1. I, Pharaoh (The Mayan Temples) - 27:19 (Part I: 15:14, Part II: 12:51) :  

[ Sun Ra and his Arkestra ]
Sun Ra - piano, organ, synthesizer, recitation
Marshall Allen - alto saxophone, flute, piccolo
John Gilmore - tenor saxophone, percussion
James Jacson - basoon, fl, percussion
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, flute
Eloe Omoe - bass clarinet, flute
Steve Clarke - electric bass
Richard Williams - bass
Luqman Ali (Edward Skinner) - drums
Atakatune (Stanley Morgan) - percussion
June Tyson - vocal
(Original El Saturn "I, Pharaoh" LP Liner Cover & Side A/B Label)
 自主制作レーベルのサターン盤とは言えこれはないだろうと呆れるくらい粗末なジャケット(1枚1枚マジックペンでジャケットとレーベルを手描き、曲目をスタンプ捺印)の本作でサン・ラの1977年~1979年録音作品の紹介は終わります。おさらいに再びリストを掲げます。ナンバーは1977~1979年内の通し番号、また()内はデビュー作以来の通算番号です。ご紹介できたアルバムには☆をつけました。
[ Sun Ra & His Arkestra Album Discography 1977-1979 ]
◎制作後すぐ新作として発売されたアルバム
○発表の遅れたアルバム
※サン・ラ没後の発掘・編集盤
☆◎1. (98) Solo Piano, Volume 1 (Improvising Artists Inc., rec.1977.5.20/rel.1977)
☆◎2. (99) St. Louis Blues (Solo Piano vol.2) (Improvising Artists Inc., rec.1977.7.3/rel.1978)
◎3. (100) Somewhere Over the Rainbow (also "We Live to Be") (El Saturn, rec.1977.7.3/rel.1978)
☆◎4. (101) Some Blues but not the Kind That's Blue (also "Nature Boy" & "My Favorite Things") (El Saturn, rec.1977.7.18/rel.1977)
で◎5. (102) The Soul Vibrations of Man (El Saturn Chicago, rec.1977.11/rel.1977)
☆◎6. (103) Taking a Chance on Chances (El Saturn Chicago, rec.1977.11/rel.1977)
☆◎7. (104) Unity (Horo, rec.1977.10.24&29/rel.1978)
☆◎8. (105) Piano Recital - Teatro La Fenice, Venezia (Leo, rec.1977.11.24/rel.2003)
☆◎9. (106) New Steps (Horo, rec.1978.1.2&7/rel.1978)
☆◎10. (107) Other Voices, Other Blues (Horo, rec.1978.1.8&13/rel.1978)
※11. (108) The Mystery of Being (klimt mjj,  rec.1978.1/rel.2011)
☆◎12. (109) Media Dreams (El Saturn, rec.1978.1/rel.1979)
☆◎13. (110) Disco 3000 (El Saturn, rec.1978.1.23/rel.1978)
☆◎14. (111) Sound Mirror; Live in Philadelphia '78 (El Saturn, rec.1978.1/rel.1978)
☆◎15. (112) Of Mythic Worlds (Philly Jazz, rec.1978/rel.1980)
☆※16. (113) Live at the Horseshoe Tavern, Toronto 1978 (Transparency, rec.1978.3.13,9.27,11.4/rel.2008)
☆◎17. (114) Walt Dickerson & Sun Ra; Visions (Steeplechase, rec.1978.7.11/rel.1979)
☆◎18. (115) Lanquidity (Philly Jazz, rec.1978.7.17/rel.1978)
☆※19. (116) Springtime in Chicago (Leo, rec.1978.9.25/rel.2006)
☆◎20. (117) The Other Side of the Sun (Sweet Earth, rec.1978.11.1, 1979.1.4/rel.1979)
☆○21. (118) Song of the Stargazers (El Saturn Chicago, rec.prob.middle'70s/rel.1979)
☆◎22. (119) Sleeping Beauty (also "Door of the Cosmos") (El Saturn, rec.1979.6/rel.1979)
☆◎23. (120) Strange Celestial Road (Rounder, rec.1979.6/rel.1979)
☆◎24. (121) God Is More Than Love Can Ever Be (also "Blithe Spirit Dance", "Days of Happiness" & "Trio") (El Saturn, rec.1979.7.25/rel.1979)
☆◎25. (122) Omniverse (El Saturn, rec.1979.9.13/rel.1979)
☆◎26. (123) On Jupiter (also "Seductive Fantasy") (El Saturn, rec.1979.5, 1979.10.16/rel.1979)
※27. (124) Live From Soundscape (DIW, rec.1979.11.10,11/rel.1994)
☆◎28. (125) I, Pharaoh (El Saturn,  rec.1979-probably1980.6.6/rel.1980)

 重要作は落とさずご紹介できたと思います。マネジメント主宰のシカゴ・サターンが制作して正規盤としてリリースしてしまった偽アーケストラの贋作アルバム『Song of the Stargazers』も取り上げました。それにしても正味3年間に28作、没後リリースの発掘盤5作(うち『Live at the Horseshoe Tavern, Toronto 1978』はCD9枚組!)を引いても23作、そのうちホロ・レーベルからの『Unity』『New Steps』『Other Voices, Other Blues』は2枚組で『Media Dreams』『Disco 3000』も2枚分からのセレクト(CD再発売で増補)という猛烈な多作には驚かされます。前回も触れましたが、1977年~1979年は1914年生まれのサン・ラは初老も初老、63歳~65歳に当たるのです。またアーケストラは従来バンドと自主レーベルのサターンを任せていたシカゴのマネジメント、アルトン・エイブラハムとはアルバム5、6を最後に袂を分かっており、1972年以来アーケストラが拠点を移したフィラデルフィアからバンド直営のフィラデルフィア・サターン盤以外の1974年以前のサターン盤の版権は従来通りすべてシカゴのアルトン・エイブラハムが管理していたでしょうからフィラデルフィア・サターン盤のカタログ充実を急いで上記リストでもサターン盤は3, 4, (5, 6), 12, 13, 14, (21), 22, 24, 25, 26, 28の14作におよび、そのうち()内の(5, 6)はシカゴ・サターンとの契約満了のためのアルバム、(21)はシカゴ・サターンが現地ジャズマンを集めて作り正式にサン・ラ・アーケストラの未発表アルバムとしてリリースした贋作とほぼ定説になっていますが、3年間にシカゴ・サターン盤、フィラデルフィア・サターン盤だけでも14作を制作・リリースする一方、その同数にも上る他社への提供作(しかも多くは2枚組以上)を制作したのは一時的な人気低迷の挽回のためとは言え、唖然とするほどの脅威的な多作です。

 本作『I, Pharaoh』は1980年になって発売された収録場所・年月日不明のライヴで、レコード番号の6680から1980年6月6日録音なのではないか、という説もあるようですが公式には1979年録音となっており、1980年録音としても発売は1980年リリース作品中もっとも早いので、この位置は動かないようです。残念ながら今回は不完全な紹介で、A面2曲のうち冒頭のA1「Rumpelstiltskin」は本作収録の音源は引けず、1980年録音のアルバム『Aurora Borealis』のボーナス・トラック収録のテイクを引きました。これはサン・ラによるソロ・ピアノ演奏曲で本作のオープニング・トラックの意味合いが強く、おそらく即興曲と思われるワン・コードのナンバーで、ロマン派風のメロディアスな曲調から怒涛のフリー・ジャズに流れ込みます。またB面全面を占めるアルバム・タイトル曲「I, Pharaoh」は1978年1月ライヴ録音の『The Sound Mirror』のタイトル曲「The Sound Mirror」と異名同曲で、かつ'80年代以降は「The Mayan Temples」と改題されてステージ定番曲となる曲です。本作の「I, Pharaoh」ヴァージョンは15分・12分に分かれた2パートで27分あまりに及び、2ベースを生かしてトライバルかつ淡々としたアフリカン・リズムとフルートとピッコロ・アンサンブルをバックに、サン・ラ自身による説法が延々続くというありがたいものです。ただしこのヴァージョンはあまり良好とは言えない録音状態、1枚1枚をメンバーやスタッフ、ファン有志が手描きしたジャケットやレーベルの汚さもあって信者限定なのは否めませんし、本作は初回盤のオリジナル盤以来追加プレスの所在も確認されておらず(1977年~1979年録音・リリースのサターン盤の大半は最小ロット数単位ながら会場手売り即売を積極的に行っていたか、即座に4~8回、しかもかなりの頻度で別タイトルで別作に見せかけた追加プレスが行われていたのが確認されています)、正規の再発売もCD化もされていません。筆者所有の本作も海賊盤です。ただし初ヴァージョンと言えるアルバム『The Sound Mirror』とも、'80年代にライヴ定番となった後のヴァージョンとも本作の演奏は大幅に異なる呪術的なムードをかもしだしており、'60年代末のアルバム『Strange Strings』や『Atlantis』に共通した作風の本作のヴァージョンは本作ならではの魅力を湛えています。

 アルバム・タイトル曲「I, Pharaoh」があまりにマニア向けのヴァージョンだとすれば、本作の聴き物はA2「Images」でしょう。サン・ラのストレート・アヘッドなハード・バップ路線を代表する名曲で、アルバム『Jazz in Silhouette』1959で初演されて以来ライヴ演奏頻度も高く、アルバム『The Magic City』1966初演の激烈フリー・ジャズ曲「The Shadow World」と並ぶライヴ定番曲となっており、アルバム『Space Is The Place』1973でもスタジオ再録音され、また1978年1月のカルテット編成のライヴでも演奏されていましたが、本作ではサン・ラはファルファッサ・オルガンで豪快に無伴奏テーマからソロまで縦横無尽に弾き倒しており、ジミー・スミスのハモンド・オルガン以上にダイナミックです。さらにすごいのがジョン・ギルモアのテナーサックス・ソロで、アーケストラの懐刀の割にはやる時はやる、そうでもない時は案外ムラのある人ですが、今回はこの曲だったら20年前から十八番だぞとありとあらゆるアプローチを総動員して目の醒めるような鮮やかなアドリブを決めます。本作は経済的に火の車だったという時期を反映したものか、録音状態は全体的に芳しくなく、マスターテープ散佚から正規再発売されていないと推定される不遇なアルバムですが、本作収録のA2「Images」は必聴と言える激烈ヴァージョンです。サン・ラのオルガンとギルモアのテナーの絶倫プレイをご堪能ください。