耽美の地下室!荒野のチャーリー・ブラウン!第八回 | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。



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 かつてスヌーピーが望んだのは、ランプの人工的な光に照らされることでよりいっそう映えるような色彩でした。昼間の光には味気なく見えても構いません。彼が小屋にこもりきりになるのは夜でしたから……誰もが自分だけの部屋で孤独にいる時こそ快適であり、精神は夜の闇に包まれている時こそ真に活性化する、というのがスヌーピーの持論でした。パインクレストの町が夜の闇に寝静まる時、ひとり小屋の地下室でランプの下に起きているのはスヌーピーだけの悦楽でした。この悦楽は職人が他人を締め出して念入りな仕事にこもるような、一種の虚栄心にも通じるものでした。
 スヌーピーは入念に、あらゆる色を検分しました。青はロウソクの光で見ると不自然な緑色にくすみます。空色や藍色のような青ではほとんど黒くなり、明るい青でもロウソクの光では灰色に変わります。トルマリンのように暖かく柔らかでも艶を失い、冷たい色になるのです。ですから、補助色のように配合して用いる以外にシアン系の色彩は部屋の基本色には不向きなのは明らかでした。
 一方、茶色はランプの光で見ると、濁って鈍く見えました。真珠色は透明な青味が失せて、汚いだけの白になります。灰色は眠たげで冷たくなり、深緑はといえば濃紺と同様に黒の中に沈んでしまいます。
 そうして青は駄目、緑は濃いほど駄目となると、青味を極力含まない緑、つまり淡い黄緑や浅黄色に行きつくしかありませんが、それらもランプの光の下では不自然な色調になり、やはりどんより濁ってしまうのでした。
 サーモン・ピンクもコーン・イエローも、昔ながらの薔薇色もさらに問題外でした。薔薇色は女性的で、孤独の思想には矛盾しています。とはいえ紫色は寒々しく、これも駄目。赤色だけが夕方の光の中でぐっと映えてくるのですが、ひと口に赤と言ってもその種類たるや!べたべたした赤や、赤ワインの搾りかすのような赤ではどうしようもありません。こうした色は安定感がなく、たとえば彼は気管支炎の鎮静用シロップを服用していますが、ふとした光の加減で嫌な紫色に見える時がある。そんなふうに部屋の内装がちょっとした加減で変色して見えるのではたまりません。
 そうして除外していくと、三つの色だけが残りました。それが赤と、オレンジと、黄色でした。


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 要するにルーシーはさ、と夢想から返ったスヌーピーは言いました。コブシで語り合いたかったんじゃないのぅ?、というのがこの犬の賢者の見解でした。文法的に限定すると犬の賢者の「の」は所有格ではなく形容副詞の「の」です。前者の用法なら賢者はチャーリーということになり、これは彼にはいささか荷が重いでしょう。では後者、賢者たるスヌーピーの場合この極端に怠惰か遊んでばかりいるかの犬の、どの辺が賢者かを常識ある読者に説得力のある説明をするには難しいことですが、人間に較べればゴキブリ一匹さえも合理的ならざる活動はしません。スヌーピーの場合は限りなく人間に近づいた犬ですがそれでも犬は犬なので、単に犬であるということだけでも人間との比較において十分に賢者と呼べるのでした。Q.E.D?
 だからさ、きみの言うとおりルーシーが、パインクレスト小学校に登校してくるやいなやライナスの毛布を引きちぎったかと思うとピッグペンから埃をはたき落とし、高潔なフランクリンにこの黒人野郎と暴言を吐きながらペパーミント・パティとマーシーを追い詰めて眼鏡を奪うとグシャッと踏み割り、シュローダーのトイピアノを叩き壊して走り出して行ったというのなら、要するにそれはルーシーなりのコミュニケーションなのさ。
 それじゃライナスがリランのオーバーオールを被せられ、指をしゃぶろうとすると指がなかったのはどうなるんだい?それもコミュニケーションかい?
 姉と弟の間柄なら他人よりもいくらかは過剰になるものさ。
 でもね、それでも、まだ済んでないのは、とチャーリーは息せききって、言葉を継ぎました。次にルーシーが標的に選ぶとしたらここなんだ。もちろんぼくのグローブもまっ先にこれさ、と彼はまだボロボロの残骸を未練惜しげにぶら下げていました。
 それはもう聞いた、とスヌーピーは冷淡に、場合によってはルーシーはみんなの気持を代弁しているということにもなるだろうね。
 ひどいよスヌーピー!ぼくの場合はいいザマだって言うのかい!
 まあ熱くなることはないさ、と賢者の犬。誰にもルーシーの本意はわからない。突然イカレちゃったようにも見えるし前からイカレていたとも言える。くだらない話はやめよう夜もふけてきた。
 そんな!とチャーリー・ブラウン。ならぼくたちは、どっちみち諦めなきゃならないっていうのかい?