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トゥーティッキさんと魔女モラン、フィリフヨンカはもともと親しいわけでもなければ、これから親しくなろうという気もなかったので、なるべくならばそれがきっかけで親しくせざるを得ないような係わりが起きないように、つとめて用心深くしていました。ひとの好いトゥーティッキさんは冷たいモランが苦手でしたし、モランは万事に神経質なフィリフヨンカが薄気味悪く、そのフィリフヨンカはトゥーティッキさんに劣等感を感じていたたまれない気持でした。
この三人の婦人の共通点を上げる前に、肝に銘じておきたいことがあります。たとえば鳥葬されると鷲はまず肝から食いつくといわれており、ひと口味見して肝のまずい遺体は、
・けっ!
と崖から蹴落してしまうのです。そうなると故人の尊厳はともかく、鳥葬ならば正規の葬送ですが、崖の下に遺体が転がっていたら死体遺棄、しかも損壊の跡もあるので、実行犯は鷲ですが鷲に責任は問えませんから結局は遺族の責任になり、もとをただせば故人の不徳のいたす所存です。そのように肝とはあなどると後が怖い沈黙の臓器なのでした。
そこで銘じておくべきは悪人であっても人には違いなく、悪習であっても習慣には違いないなら、その論法を通せば規則正しい習慣は良いことなので、悪習ですら善行になり得る、ということでした。おお。
婉曲話法はここまでです。トゥーティッキさんと魔女モラン、フィリフヨンカの三人の共通点は三人とも元魔法少女ということでした。なんと!女性の年齢を話題にするのは女性の前でははしたないことで、いわゆる男便所の会話でしか普通はしないものですが、この際それは棚に上げていつまでが魔法少女かというと誰もが納得できる線引きはなかなか難しそうですが、一応の結論としては、
・魔法少女←変身または魔法発動アイテムが必要
・魔女←存在しているだけですでに魔力を持つ
という違いがあるのではないか。これで年齢の問題は、変身または魔法発動アイテムは少女で通用する年齢層でないと使用適性がない、と解釈すれば説明に一貫性を通せます。
ではすべての魔女は甲羅を経た元魔法少女なのか、魔法少女はすべからず魔女へと成長するものか、というとこれにはやはり無理があり、各自の特性というものがあるでしょう。なにしろモラン以外の二人は誰にも魔女とは見えないほどなのです。その実、この三人の魔力は十分拮抗しておりました。
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ウェイターは突然マイクを持って現れました。服装も燕尾服に着替えています。それではみなさま、とウェイターは壁に向って体を斜めにし、当店がお送りする歌姫の舞台をお楽しみください。
しまった、音楽料金を取られる店かもしれんぞ、とムーミンパパ。食事だけなら踏み倒す自信がある、トロールが飯など食うか!で済むが歌となると聴かなかった、では済まされんぞ。
壁が左右に開くと舞台が現れ、そこに妙齢の乙女がライトを浴びて立っていました。あの人が歌姫、とミムラの胸はときめきました。そして歌姫は歌い始めました。
サッちゃんはね
サチコって いうんだ
ほんとはね
だけど ちっちゃいから
じぶんのこと
サッちゃんて よぶんだよ
おかしいな サッちゃん
聴いていたみんなの心が暖まっていく気持になりました……トスフランとビフスランを除けば。この夫婦はおたがいしか眼中にないのです。ですがはっきり逆鱗に触れられた気分になったのはミィでした。なによ、私は自分のことミィちゃんなんて呼ばないわよ。そんな思いも知らず、歌姫は続けます。
サッちゃんはね
バナナが だいすき
ほんとだよ
だけど ちっちゃいから
バナナを半分しか
たべられないの
かわいそうね サッちゃん
ああ、入院で出てきましたよ、とスノーク。変った魚でしてね、生で食べられますが皮を手で剥いて、身は均一で甘味があるんです。だったらそれは魚卵の房、いわゆる白子なのではないかね?ああなるほど、納得しました。
トゥーティッキさんは貧しかった少女時代を思い出していました。家族四人で缶詰め一個がごちそうでしたからバナナは皮まで焼いて食べたもので、彼女を魔女にしたのもバナナの皮の効用でもあれば、貧しい食事への怨念でもありました。そして歌は最終連に入りました。
サッちゃんがね
遠くへ いっちゃうって
ほんとかな
だけど ちっちゃいから
ぼくのこと
忘れてしまうだろ
さびしいな サッちゃん
上品な拍手と卑猥な掛け声が店内に響きました。わかんないや、と偽ムーミン、友だちでもないのに?ムーミン、サッちゃんは天国へ行ったのだ。きっと闘病生活だったのだな。
ブラボーお嬢さん、とムーミンパパは立って拍手しました。お名前を教えてくれないかね。
チュチュアンヌです、と魔法少女は言いました。歌い料一億万円ローンも可。
第七章完。