本稿に取り組むきっかけ
何だか後ろ向きの様に感じて「いわゆる闘病記」を残すつもり等サラサラなかったのだが、多くの同病患者が人工呼吸器装着後の生活に悲観して呼吸器の装着を拒み亡くなっている現状を憂い、本稿が現状打破の一助になればと思い、私なりの「ALS考」を綴ってみることにした。

世界の治験 
国内で行われている治験8種は前稿で詳しく述べた通りだが、世界に目を向けると多くの治験が実施されており、私がざっと調査しただけでも以下の治験を見つけることができた。
1. remdesemtiv  米国
2. BIIB067(tofersen)  米国
3. ION363  米国
4. NeuroNata-R  韓国
5. Ultomiris
6. ウルソデオキシコール酸(商品名:ウルソ)  ドイツ
7. カンナビノイド  オーストラリア
8. CuATSM  オーストラリア
9. ibudilast(商品名:ケタス)  米国
10. Masitinib  米国・カナダ
11. Arimoclomol  ドイツ
12. deferiprone(鉄キレート剤)  フランス
13.自家骨髄単核球細胞移植  スペイン
14. β-ヒドロキシ酪酸  ドイツ
15. RT001  ヨーロッパ
16. ポリフェノール+デュタステリド  スペイン
17. Engensis  韓国
18. APL-2  米国
19. ANX005  米国
20. PU-AD  米国
21. セラクルミン  米国
22. AT-1501
23. Healey platform  米国
24. Clenbuterol
25. MICABO-ALS
26. メトフォルミン
27. トコトリエノール含有ビタミンE製剤  マレーシア
28. Ciprofloxacin/Celecoxib  イスラエル
29. BLZ945  スイス
30. CNM-Au8  米国
31. 遺伝子組み換えヒトエリスロポイエチン  韓国
32. Fasudil  ドイツ
33. ezogabine  カナダ
34. RNS60  米国
35. コルヒチン  イタリア
36. イノシン
37. rasagiline  ドイツ
38. IPL344  イスラエル
39. ILB  英国
40. 低用量IL-2  英国・フランス
41. L-serine  米国
42. NSI-566  米国
43. IC14  米国
44. Triheptanoin  米国
45. ヒト胎児由来アストロサイト移植(AstroRx)  イスラエル
46. ranolazine  米国
47. 高用量ビオチン  レバノン
48. リチウム+バルプロ酸  メキシコ
49. NP001  米国
50. ラパマイシン  イタリア
51. ピモジド  カナダ
52. guanabenz  イタリア
53. ペニシリンG+コルチゾール  オランダ
54. VM202  韓国
55. 自家脂肪組織由来間葉系幹細胞移植  米国
56. AMX0035  米国
57. メキシレチン 米国
58. FLX-787  米国
59. 自家骨髄幹細胞移植  ヨルダン
60. Q cell  米国
61. 自家間葉系幹細胞移植  ブラジル
62. ルナシン レジメン  米国
63. tocilizumab  米国
64. IPL344  イスラエル
65. 抗レトロウイルス製剤(Triumeq)
66. GM604  米国
67. アルブミン製剤による血漿交換療法  米国
68. 制御性T細胞  米国

米国を筆頭に、韓国、中東、世界各地で60種以上の治験が実施中、あるいは予定されている。海外の治験の特徴は薬剤のみでなく、所謂再生医療と思われるものが含まれていることだ。薬剤でALSの進行を止める、もしくはブレーキを掛けるのももちろん重要だし、そっちの方が先に実用化されるのだろうが、私はALSを完治させるには再生医療こそが不可欠と考えているので、完治する日が来るかもしれない。

韓国産治療薬
私が確定診断された2011年頃に、先輩ALS患者達のブログ内で絶大な人気を誇ったのが韓国産のYoo’s neurosolutionだ。ネーミングはYoo博士の神経の(neuro)解決薬(solution)といったところだろうか。製薬会社NeoYouth(ネオユース)社が製造する本剤は「治療法なし」、あるのは<その56>で前述した、3か月の延命効果があるリルテックのみという当時のこと、「藁にもすがる」思いで個人輸入する患者が後を絶たなかった。私はというと、<その57>で前述のように治験に参加していたこともあり、飛びつくことはなかった。主成分はウルソデオキシコール酸という胆汁酸の一種だという。ウルソデオキシコール酸は熊の胆(くまのい)、熊胆(ゆうたん)として知られる生薬の主成分でもあるので、その昔から何にでも効くとして珍重されてきた熊の胆はALSにも効果があるのだろうか。

Yoo’s neurosolution


そういえば<世界の治験>で前述の6.ウルソデオキシコール酸(商品名:ウルソ)の主成分も同じだ。徳島大学の和泉唯信教授によると、ウルソ錠は良い結果が出ているという。

ウルソ錠

 
効果があるといわれる薬剤

① ケタス錠(一般名称イブジラスト)
脳梗塞後遺症に伴う脳血管障害によるめまいの治療や、気管支喘息の治療に使われるホスホジエステラーゼ阻害剤。前述の<世界の治験>で紹介したように、ALSに対してはメディシノバ社が米国で治験中だ。ケタスはiPS細胞による既存薬のドラッグ・リポジショニングにより候補に浮上した、とおぼろげに記憶している。既存薬は副反応も知られているので、前述の和泉唯信教授のビハーラ花の里病院から処方されて数年前から服用している。

ケタス錠

 


②ハイボン錠(一般名称リボフラビン酪酸エステル)
高コレステロール血症の治療や、ビタミンB2の欠乏または代謝障害が原因の口角炎、口唇炎、舌炎、脂漏性湿疹、結膜炎、びまん性表層角膜炎の治療に使われる。ハイボンもケタス同様の手順で候補薬に浮上し、ビハーラ花の里病院から処方されて服用している。

ハイボン錠


これらの薬剤の服用は和泉教授の助言と提案によるもので、ALSに対する承認は得られていない。副反応が知られている既存薬だからと言って、あくまでも自己責任で服用するもので、他のALS患者に勧められるものではないし、ここで触れるべきかどうかも悩んだほどだ。「へぇ~、三保はチャレンジャーなんだね」位のスタンスで読み飛ばしていただきたい。

追記(Muse細胞を用いた治験)
<その57治療薬考その2・国内で現在行われている治験>で触れるべきだったものが本稿を準備中に発表されたので、ここに追記する。2021年10月29日、お隣の岡山大学、東北大学の共同研究グループはALSモデルマウスにヒト骨髄由来のMuse細胞を経静脈的に投与すると、運動機能などにおいて症状進行抑制効果があることを発表した。これを受けて、2022年1月28日には三菱ケミカルホールディングス子会社の生命科学インスティテュートから、「ALSに対してMuse細胞を用いた治験に着手したと」発表があった。

Muse細胞によるALS治療のイメージ


テレビ朝日の報道ステーションでは、Muse細胞を投与されたALSモデルマウスと、投与されていないモデルマウスが回転する棒から落ちまいと、懸命にしがみつく様子が放送された。家族そろって放送を観た三保家では、妻は「モデルマウスの後ろ姿が父さんにしか見えんかった」と。娘は「Muse細胞凄い。こりゃあ治るね」と。そう、我が家では誰も悲観視していない。私も幹細胞を使った再生医療がALS治療の第一候補だと考えている。現時点では治験の詳細は不明ながら、私の知る限り国内で唯一の再生医療を用いた治験のはずだ。今後のアナウンスに注目しなければなるまい。
(つづく)
※本連載は歯科医向けの連載ですので専門用語を含みます。
<広歯月報No.802  令和4年3月号掲載>