【辛夷】
暁鳥あたたかに啼き呼びている心の中に呼ぶごとくして 本多正孝
海のあたり失くしたようなあたたかい霧むれて誰ともとおい真実 坪谷捷介
君の履く透明な靴につま先を差し入れ哀しみひたひたと染む 山本三奈
この青い大地を次に継ぐため一粒の麦われも蒔かねば 真柳富貴子
閉山で森に還りし学び舎は昇る朝日に真向かうところ 佐藤 泉
尊厳といふ姿見つ老い人は杖をかかげて車道を渡る 高 昭宏
欲しければ斯くなる奪ひかたもある廃屋すつぽり蔦の葉 吉田真弓
太陽に焦がれ一両編成の列車が夜の砂漠を走る 山内 昌人