※ 掲載は一人5首にさせていただきます
季節の影(第63回新墾新人賞)釣 尚子
ふりそそぐ陽がしだいに熱をもち凍りし世界を溶かしゆく春
ほどけゆく冬の緊張指先の血管ゆっくり広がるような
卒業の子らにもらいし花束よ夫のワイシャツにアイロンあてる
春がきたただそれだけでハミングがいつもの店で苺を買いぬ
あこがれの自給自足にほど遠く小さな菜園ハーブを植える
花柄の傘(原始林賞)竹内いく子
晩秋の雨に花柄の傘ひらき裡のくらきに身は包まるる
雪しんしん厨仕舞に包丁を研ぐはおどろきの雪女の裔
疾き風の日日のつづきて桜花ひらかぬが散る雨の溜まりに
庭の空せばむる木蓮を伐らむかと思へば白花あふれて咲けり
物言はぬ憂さに折りたる紙ヒコーキ大きく曲がり飛びてゆきたり