※ 掲載は一人5首にさせていただきます
ネッカー川 千田慶子
新雪のウィーンの街に夫と佇つ三十年の思ひ叶ひぬ
ドイツに乗る幌馬車に夫杳き日の牧の務めを想ひゐるらむ
並立てるコーカサス松美しくローマの丘の幾つを曲がる
ネッカー川に沿ひ来し見ればこの遺跡崩れし街並 戦禍を偲ぶ
船長の白き帽子に重なりて父の面影ネッカーに観つ
樹氷林 千葉悦子
樹氷林に憑かれてこの地に生きて来つ息を吐くとき目をつぶりをり
切れ味のするどき刃つきつけて三日月は照る正月五日
朝五時のラジオにショパン流れきてさめざる耳に待つポロネーズ
渇きたるこころに降れる春の雪妻に遅れて逝きし叔父の忌
織部焼の歪(ひづみ)に口の触るるとき忘れたきことひとつ零れくる