令和5年度短歌年鑑より(※ 解釈文省き、各結社短歌を10首前後紹介)
【花林】昭和62年創刊の隔月誌、代表・編集人は樋口忠夫氏。
炎熱に病葉こぼす白樺と共に在りつつ慈雨を待ちをり 菅原琢子(遺稿)
秋気とて玲瓏ならざる文が来て健康保険の負担倍増す 樋口忠夫
風が呼びし雪が渦巻く野を行かばわれも裸木と同化してゆく 入舟嘉子
行く風と引き返す風に麦の穂は濃く淡く旗ひるがへるがに 佐藤ひとみ
風呂場よりあがるよと声吾子のごと湯上りの犬夫より受く 丸山玲子
ヘルパーの菜きざむ音かろやかに寒の凍(しば)れのゆるむけはいす 泉 玄冬
ドアが開く電車の中へ夕闇を連れて来しひと隣に座る 吉田千寿子
いつ見ても下向きに咲くカタクリよ澄む青空を見上げてごらん 石山キエ
存分に夏陽をしよつて訪ね来ぬ元少年のの笑窪かはらず 伊藤典子
来る人と逝きたる人とすれ違ふ発寒河畔の風わたる橋 明石雅子
営々と従属のふちあゆみきて拾いしは貝の嗤う声かも 石井ユキ
産土の森近く住みあけくれに老いし桜の芽吹く日を待つ 三井廸子