父の無念 執行裕子
「お前がナ男だったら良かったナ」と頭を撫でて呉れたりし父
あの時の父の瞳に光るもの忘るる事なき八歳の夏
終戦の一と月前に逝きし父三十八歳の無念を思ふ
五十年経てやうやくに白黒の写真で父の遺影を掲ぐ
吾の性(さが)の善きか悪しきか判らねど「何とかなるさ」で米寿を迎ふ
辰年の空 下口順子
新年の挨拶のやうな足跡を残しセキレイ飛び立ちにける
雨やみて真珠のしづくはひとつづつ白く光りて玉に零るる
始めての敬老パスを通さむとひとり照れゐる改札機前
遺伝子に組まれしオスの闘争本能チンパンジーもゴリラも人も
辰年の空に起これよ争ひを吸ひてからめて昇れる風よ



