明日を信じて  瓢子朝子

 

レッテルを読めば西瓜の生産者教え子と知り娘は懐しむ

 

わが余命いづこのあたり戻れない道をこんなに来てしまひたり

 

納豆の長く引く糸みつつゐて切れそうで切れぬわが命にも似る

 

高齢となりたる身にも明日あるを信じて着替への服たたみ置く

 

夫の遺品いつかいつかが早や四年虚しさ思ひ添へ来ぬ

 

 

 

永平綠さん  平山公一

 

三十年原発阻みつ続けたる珠洲は地震の二次被災救ふ

 

鳩寿超え北海道へ帰りたる綠さん一年経たず逝きたり

 

綠さんはビールでわれは紹興酒歌会の帰り根岸の中華屋

 

綠さんの追悼文には欠かせないことを書きたりひとつ匿して

 

芽生えたるもみぢ若葉を三月に逝きにしひとの化身かと視る

 

 

 

 

 

 

 

函館抒情  日置正博

 

外は雪花瓶に咲いたさくら枝ひと足早い春はほのかに

 

眼下には満開誇るさくら花浮き立つごとし五稜の星は

 

臥牛山すそ野歩めばきらきらと木立の中を光が遊ぶ

 

浜風に一羽のゴメがホバリング思わずカイトを引くリアクション

 

間近にて輝きいたる漁火も今はまばらに沖に灯れり

 

 

 

カメオと湖  樋口智子

 

窓を開ける 誰かの夜とつながって水飴みたい 窓をあけてねむる

 

うす闇は家のどこかに隠されて 否、そこかしこにあるゆえに 家

 

誰も誰も訪うことできぬ湖の深みの街に沈めたき鍵

 

託されたカメオのブローチ陽に透かす うすくてもろくて、そのあたたかさ

 

針葉樹の実それのみだつた昼の星 気後れしないでわたしもれぷりか

 

金物店の奥の暗がり鈍食の釘の角先向き向きに照る

 

 

 

 

 

 

有り体  阪東睦子

 

あと少しやりたいことや見たいこと知りたいことを掴みてみたい

 

Z世代成人となる初孫の記念写真に憂へる未来

 

言葉とは摩訶不思議なる媒体よ翻弄されつつ生かされてをり

 

春あらし唸りをあげて吹き荒ぶ昨日は夏日けふの気温差

 

「ただいま」とわが産みし子が子を育て揃ひて歩む祭り三昧

 

 

 

ことづてならば  柊 明日香

 

水仙も山吹も咲くわが庭にトラ猫一匹訪ねくるなり

 

四十雀のさえずり耳にここちよく編み棒の先にリズムの生まる

 

「くうねる」と名付けて九年のわが猫はねだる仕種に磨きをかける

 

通販の花のカタログ取り寄せて陽の射す部屋に開きていたり

 

雪の上に家並の陰を濃くしつつ三月の陽の移ろいてゆく