家内と突然に盛り上がって、やったこともないハゼ釣りに行ってきた。釣具屋やDAISOで道具を揃え、行ってきた場所は若洲海浜公園。もちろん訪れるのも初めてのこの公園、ナビをセットして、近くまで行ったのはいいが、最後のところで道を間違えて、ようやく着いたという感じになってしまった。ただ、お陰で東京ゲートブリッジを2度渡れた。

 駐車場に車を停めていざ出陣と、歩いてすぐの堤防に向かったのは、朝9時。意外にも釣り人はまばらで、家族連れのほか本格的なおじさん・お兄さんアングラーが多いようだ。

 空いている場所を見つけ、さっそく竿をセッティングして糸を垂らすと自ずと期待が高まってくる。周りを見ると釣れていそうな人は今のところ見当たらない。じっと竿先を見つめる。東京ゲートブリッジの影の中、気温はまだ低く指先が冷える。天気は快晴。羽田空港が近いため、ひっきりなしに飛行機が離陸しているのが見える。遠くに富士山が見える。見渡すと東京スカイツリーも見える。ロケーションとしては抜群の場所だ。まだまだこの街には知らない場所があったのだ。




 やがて東京ゲートブリッジの影は移動して、太陽の光が当たってきた。身体に暖かさが伝わってくる。太陽ってすごい。釣り客が次々とやってくる。あれから何度も周りを見回しても魚の気配はない。魚に気配はあるのかと自問してしまうが、そんなことは今どうでもいい。とにかく釣れない。

 何度もリールで糸を巻き取って微妙にポイントを変えたが、竿先に当たりの「あ」の字もない。周りも同様のようだ。餌を変えようかとも思ったが、餌のせいではないことは素人の自分でも分かる。時間帯で釣れないだけかとも思ったが、釣りを始めて2時間。今日は釣れない日なのだとようやく悟る。だって、本格的な竿を何本も使っている本格的そうなお兄さんも何も釣れていない。こんなど素人の老夫婦が釣れるわけがない。

 そう思ってからは、釣りに集中できなくなった。




 編隊を組んで青空を飛ぶ鳥。あの飛行機はどんな旅人をどこまで運んでいくのだろう。なにやら見たこともない機械を装備した大きな船。期待に胸を膨らませ、そしてすぐにその期待は裏切られることになるであろう、新たにやってくる釣り人。東京ゲートブリッジに登れそうなタワーのような設備。家内とのたわいもない会話。娘に釣りに来ているが何も釣れないことを伝えるファミリーラインと、娘から「頑張れ」との返信。用意してきたあったかいコーヒー。何をするわけでもなく普段と違う場所にいるだけでも、不思議と満足感は得られた。もはや釣りなどどうでもいい。そんな境地に陥り、春が少しだけ近づいてきたこの時間を楽しんだ。




 結局、用意してきたバケツに水を入れることなく、来た時と同じ道具を入れたまま帰路に着く。時間は12時過ぎ。帰り際、東京ゲートブリッジのあの設備、エレベーターで登って景色を楽しみ、帰りのルートはあえて下道を通って都心の街並みを楽しんだ。これはこれで楽しいお出かけだったと家内と笑顔になる。

 次は違う場所でリベンジしようねと約束するが、それがまた釣果ゼロだったとしても楽しいはず。翌日は、普通の生活が戻った。普通もいい、普通じゃないこともいい。穏やかな気持ちでいられる生活がいい。いつまでも続くとは思っていないが、これが続いてほしい。