映画「アルキメデスの大戦」2019年7月公開 | 日々是湧日 ヒビコレユウジツ

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2021年までは、主に映画(ドキュメンタリー多、ネタバレ多)・書籍からの感想、2023年からは、映画・書籍にとらわれずにやってます。

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東京帝国大学数学科で100年に一度と言われる天才数学者、櫂直 (菅田将暉)が、戦艦ヤマト製造の見積が正確かどうかを調査し、それ以外にも設計図の欠陥を発見するというストーリーのフィクション映画。

【概要】
櫂直は、東京帝国大学在学中から、戦艦の性能について、数学的に、論理的に、懐疑的であった。
以下が、そのことを表す軍人とのおおよそのやりとりが以下。


(戦艦の模型を見て)
「この戦艦の大砲が的に当てる確率は如何ほどのものですか?」

海軍少将
「マトが静止している状態で100回に1回程度だ。」


「ほう、そうすると、マトが動く状況では更に確率が下がる。

ましてや、海上で波がある状態では、なおさら当たらない。
そのような戦艦にこれほど巨額な費用をかける意味がわからない。」

戦艦のメーカーの重役
「貴様、いい加減にしろ!」

東京帝国大学を退学させられた櫂は、その才能を買われ、22歳、若くして軍隊に採用され、少佐の階級を与えられる。
海軍では大型戦艦(後の戦艦大和)建造派建造反対派(空母&戦闘機推進派)で割れている最中。
建造反対派が建造賛成派が出してきた大型戦艦の見積が安すぎると疑い、その不正を暴くために櫂を軍隊に引っ張った。

期限はおよそ2週間。
機密として設計図すら見ることができない中で、天才櫂は奔走する。
 

国民の血税が無意味な戦艦につぎ込まれようとしているのだ。
戦艦大和ははたして建造されてしまうのか?

【感想】
この映画の面白さは、完全なる理論の若い数学者 vs 軍人 だと思う。
これは実際にはありえない組み合わせなのだが、もし、この組み合わせが実現したとしたら、どうなるか?がうまく表現できている。

軍隊のルールも礼儀も知らない若者が、理論だけはしっかりしている。
櫂が戦艦の見積が正しくないと会議でプレゼンした時に、
「もしそれがうそだった時、上官侮辱罪に当たるぞ!」
などと脅迫される。
これにより、上下関係が絶対で、上には正しいと思うことも言えない軍隊の形が表出する。
このことから、人と人の絶対の上下関係には危険が潜んでいることを学ぶ。

また、止まらない戦争への道、戦意高揚の圧力のようなものが、海外に日本のすごさを示すアイコン的な大型戦艦製造につながっていくのだが、アメリカと日本の国力の差、この情報を冷静に見ている科学者は、戦争になれば日本が敗けることを知っている。
雰囲気で過信とともに戦争に進んでいく軍隊。
当時、敗戦を確信している人も存在はしたのだろうが、そのことを口にすることはできなかったのだろう。
このことから、正しいと思うことを言えない社会が危険が潜んでいることも学ぶ。

この映画では、当時ではありえない敗戦を口にすることができた科学者の会話シーンも存在ある。
当時の科学者はこの映画の科学者と同様なことを考えていたのだろうか?

 

当時の環境に現代っぽい数学者をタイムマシーンで送り、鉢合わせにしたことで、当時の日本の、あるいは、軍部の危うさが際立つものになっている。
この映画はフィクションではあるが、このフィクションによって、「史実をどう捉えるべきか?」そのメッセージがより伝わるように感じた。

 

ドキュメンタリー映画だと、史実のどちらが正しいか?を議論になる。

「歴史から学び、現代生活に活かす」、そのことを目的とした場合、どちらかが正しい、どちらかが間違っている、という押収になってしまうから必ずしも建設的ではない。

このようなフィクションの方が正しい、間違いの二元論に偏らず、ライトに感じ、かつ、学ぶことができる面もあるようにも感じた。