同じ人への
思い出が
共通していない
一緒に
暮らしていた
はずなのに
家族であっても
そういうもの
なのか
「お父さんは
用意した
ご飯のおかずに
うるさい人
だったわ」
実家に
帰るのも
気が重く
なってくる
子供の頃から
無理解な人に
見えては
いたけれど
晩年の
父の
『無理解』は
気持ちを
伝える術を
失ったこと
自分の家へ
帰ろうとする
私へ
「ほら、ほら」と
一枚づつ
渡そうとする
「お父さん
お金なら
大丈夫だよ
ちゃんと
持っているよ
電車も乗れるし
ご飯も
食べているよ
心配ないよ」
「ほら、ほら」と
一枚づつ
渡そうとする
千円札も
五千円札も
一万円札も
同じに
見えている
どれが多くて
どれが少ないか
同じに
見えている
ほんの少し
あるのは
これさえ
あれば
暮らしていけるの
だからという
子供に
教えたかったこと
金額の
区別が付くか
どうかより
働くことの
意味を
覚えたよ
ちゃんと
覚えたから
安心して
いいよ
それから
私のこと
知らない人に
なっていって
しまった
自分が
これなら
出来ると
思うことを
やればいい
自分のペースで
やればいい
すすんで
やろうと
思えることを
やればいい
あなたが
「出逢った人を
大事にしなさい」
そう言ったから
大切に
してきた人に
教わってきた
こと
もう
お金では
得ることの
できない
ことを
教わって
最後に
渡された
五千円札
キーホルダーに
はさんだまま
立ち止まった時
地図に
あてる
方位磁石のよう
迷わないように
取り出しやすい
ポケットに
入れて
あなたを
覚えていよう
いつか
空の上で
キーホルダーから
ふと
差し出す
『方位磁石』に
そっと
振り向いて
くれる
日が
来るまで
