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カボチャの形をした馬車は お城に着きました
太っちょの御者が 優しく エスコートします
娘は 夢うつつで お城の階段を登りました
お城の大広間の 仮面舞踏会に 娘が現れると
仮面を付けていても そのあまりの清楚さと美しさに
皆が息を飲み あたりはシーンと静まりました
彼女が会場内を進むと 人の波が左右に割れ
どよめきが 起こりました
その 優美な姿は
ケバケバしいドレスに 身を包んだ女たちの
打算と欲望が 渦巻き ひしめく
毒気と 殺気混じりの
おどろおどろした会場に 舞い降りた
さながら 一羽の 優美な白鳥のようでした
それに気づいた王子様が、娘の前に進み出ました。
「 僕と 踊っていただけませんか ? 」
「 はい よろこんで 」
彼女は 愛らしい笑顔で 会釈しました
踊りの苦手な王子様を 彼女がリードして
二人は 滑るように踊ります
娘は ダンスがとても上手でした
今は亡き父母が ダンス好きで
幼い頃から 教えていたのでした
母も娘時代に 舞踏会に出たいと
夢見ていたのかも知れません
今は亡き 父と母も こんなふうに幸せそうに
ダンスをしていたことを思い出していました
娘は 目頭が熱くなるのを 感じました
シェイプアップされ しなやかな身体で
軽やかな シンデレラのステップに
クリスタルカットのヒールは
まばゆく 四方に光を放ちます
出席者達は 幻惑されたように魅せられてしまいました
” なんと 清楚な娘さんなのだろう
他の出席者とは 大違いだ
憂いを含むような潤んだ瞳の なんて深い色
もう お后候補は この人以外は考えられない ”
王子は ひとときも娘の手を離しません
舞踏会に出席した娘たちは みな綺麗に着飾り
それなりに容姿に 自信がある娘たちです
しかし 彼女たちはあまりにも気迫がみなぎりすぎて
他人を 蹴落とそうとした気持ちが
トゲトゲしい雰囲気を 醸し出していました
「 あたいの目の前 チョロチョロするなよ
邪魔だよ このアマ ! 」
「 あ~ら ごめんあそばせ うふふ
1000年に一人の美少女みたいに可愛くて 」
「 何 冗談ぬかしやがるんだ ! そんないいものかよ
パンケーキ踏みつけたような顔のくせに ! 」
「 なんだと ~! ちよっと 顔貸せ ! 」
「 それは こっちのセリフだ ! 」
「 キイキイ ! 」
「 ぎゃぁぎゃあ ! 」
「 あんたぁ ちょっと邪魔よ どきなさいよ ~! 」
「 あんたこそ 空間占有率が
高すぎるんじゃぁないの~ ♪
壁が歩いてるかと思ったわ うけけけ ! 」
「 やかましいわ ! あんたこそ
カバが二足歩行してるかと思ったわ
ぶわっははは ! 」
「 何だと ~! やんのかい ! 」
「 このブサイクが ~! 表に出やがれ ~! 」
< ボコン ! > < バチコ~ン ! >
「 なに 人のドレスの 裾 踏んづけてんのよ ~! 」
「 あらまぁ 安物のカーテンを引きずってるのかと思ったわ
うほほほ ♪ 」
「 やんのか ! 」
「 さぁ来い やってやらぁ ! 」
< ドスッ ! > < ズコン ! >
「 なんて下品な香水の臭い うっけけけ 」
「 あんたこそ 腐敗臭がするし~ おぇ~え 」
「 なんですって ~ 」
「 なんだよ ~! 」
「 キキイイ ~~! 」
「 ウキキィィイイ ~! 」
あちこちで 小競り合い どつき合い
ひっかき合いも 起こりました
それは舞踏会ではなく まるで武道会か
デスマッチのリングの空気でした
それに比べると 邪心のない彼女は
気負いが無く 自然体で穏やかで
そこが 王子の心を捉えて離さないのでした
「 ねぇ なんか あの娘
うちの雑用係に似てな~い ? 」
「 どれどれ いやぁ まさかぁ
他人の空似でしょう お姉さま 」
「 あいつは 今頃家で どうせ
不貞腐れているわさ ケケケケ 」
と 継母
「 そりゃぁそうね
あんな綺麗なドレスなんか持ってるはずもないし 」
「 あいつの招待状取り上げて
お母様が いい年して厚かましくも来たしねぇ 」
「 うるさい!
そんな事より まだチャンスが有るかも知れないから
精一杯 頑張るのよ!
他の男どもは お城の侍従連中のサクラばっかだし 」
「 えぇ ? どう頑張ればいいのかしら ? 」
「 ほれ 王子と あの女のダンスの邪魔をするのさ 」
「 どうやって ? 」
「 あの女の足でも引っ掛けて
無様にひっくり返しておやり
人が見てなきゃ ボコボコにするところなんだけどね
げひひひ 」
「 なるほど セコイいじめの王道ね ありがちだけど 」
「 王子の前で恥をかかせるのさ わかったかい ? 」
「 派手に ひっくり返して 辱めてやるわ
うひひひひひいっ ♪ 」
「 あの女が 泣きながら逃げ出したら
その後は お前たちの毒々しい色気振りまいて
王子を篭絡しておしまい
うまくいけば 国を乗っ取れるかもよ
げっひひひひ~ん~ 」
王子と娘は そんな悪だくみにも 気付くこと無く
楽しげに 踊り続けるのでした
続 く