人魚姫 ブルー・マーメイド 1 | 藤花のブログ 詩と

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この胸に 湧き上がる気持ちを 言葉にして あなたに贈りたい


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 とある惑星の 蒼い 蒼い 空の下

 深い 深い 海の底に

 紅い 紅い サンゴの壁の お城があります



 その お城は 悠久の昔に 天空から流れ落ちた

 一粒の 蒼い水滴のような 彗星に乗り 

 この惑星の海に 来たという 伝承を持つ

 水棲生物の 人魚族の王の お城だったのです


 彼らは 高度な科学技術で 陸上の類人猿に

 遺伝子組換えを施し 進化を促し 

 人魚族の良き仲間を作り

 理想世界を構築しようとしましたが

 意に反して 類人猿から進化した人間は 

 水辺の平和な生活に飽きたらず

 暴君として全地上に君臨する

 危険で凶暴な生物になってしまいました


 人魚たちは 不完全で粗暴な人間とは深く関わらずに

 遺伝子技術を封印して

 海中で静かに平和に暮らし続けました

 
 人魚族の王様には 六人の姫がいて 

 その中でも とりわけ 一番末の姫は綺麗でした

 長く美しい髪を持ち

 肌は バラの花びらのように なめらかで透きとおり

 目は 深い海のように 青く澄んで 

 見る者すべての心を とらえてしまいます

 皆から 深い愛情を受けて 育ちました


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 人間の世界は 大航海時代になり 

 平和だった海洋にも 進出するようになりました

 それぞれの国が 覇権を争う様相を呈していました

 人魚たちは 海洋の環境悪化の要因にもなる

 地上の人間の世界を たびたび観察に行きました

 平和で少し退屈な海に住む人魚にとって

 海上は 刺激的な世界でもありました


 しかし 十五歳にならないと 許可されないのです

 十五歳になれば 一人前の人魚として

 自己責任の元 さまざまな権利を

 行使することができるのです

 末っ子の姫は 姉たちが見てきた人間の世界の様子を

 いつも胸を ときめかして聞いています


「 あぁ~ 早く私も 人間の世界を見てみたいわ 」


 やがて、好奇心の強い一番末の姫も

 十五歳になり 海の上に出る日が来ました

 喜んだ姫が 上へ上へと昇っていくと

 最初に目に入ったのは 大きな船でした


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「 わあぁ すご~い ! 

  人間も こんなに大きな物を作れるんだ 」


 人魚姫は 船を追いかけると

 波間から そっとのぞいてみました

 船上では パーティーが開かれていて

 賑やかな音楽が流れ

 美しく着飾った人々が ダンスをしています

 その中に ひときわ美形で満面の笑顔の少年がいました

 新興の海洋国家の 王子です。


 その日は 王子の誕生日を祝うための

 クルージング船上パーティーで気のおけない仲間たちと

 王子の侍従の者たちが集まっていました


「 ❤ きゅ~ん ❤ ! 

  きゃっ ♪ 素敵な 王子さま ~ ❤ 」


 男性に 免疫のない人魚姫は

 一目で恋に落ちてしまいました

 人魚姫は夜になっても うっとりと王子を見つめていました 


 凪から 弱い風 やがて強い風が吹き始めたかと思うと

 突然 海の景色が変わりました

 稲光が走ると風が吹き荒れ 波がうねりはじめたのです


「 嵐 が 来 た ぞ ~ ぉ ! 」


  水夫たちが 大急ぎで帆を たたみますが

 嵐は ますます激しくなりました

 そこへ 嵐に紛れ 諜報活動をしていた 

 紛争の相手国の 最新鋭の工作高速艇が近づき 

 船に爆薬を仕掛け 逃げ去りました

 そして時限発火装置により 爆破が行われました



 <<<  ズ ド ~ ン ! >>>



 爆破と嵐に煽られ船は 大混乱に陥り 

 船内には 大量の海水が流入し 船は見るまに傾き

 やがて 横倒しになってしまいました

 船は 沈没を始め 乗っていた人々が

 荒れ狂う海に 放り出されました

 沢山の人々が 海中を 漂っています


「 大変 ! 王子さま ~ ! 」



 人魚姫は 大急ぎで 溺れた王子の姿を探しだすと

 ぐったりしている身体を抱いて 海底へと運びました


「 王子さま しっかりして 王子さま ~! 」


 怪我をして仮死状態の王子のため 人魚達の医療機関で

 緊急手術が行われました 大きな怪我で深刻な容態でした



 人魚姫は 海の世界で一番美しいと言われる声で

 王子のために 歌うように祈りを捧げました

 癒しと願いの言葉は 麗しく荘厳に響きました



 人間界に比べ より高度な医療処置で

 王子の生命は救われました

 呼吸を補助する装置をつけ

 姫は王子を海辺に戻しました


「 君は 誰なの ? 」


 朦朧とした意識で 王子は人魚姫に尋ねました 


 しかし 王子の話す言語を理解できず

 人魚姫は微笑むだけでした

 深い海のような蒼い瞳に見つめられながら

 王子は また意識を失いました


 その時 一人の漁師がやって来ました


「 あっ いけない ! 」


  人魚姫は驚き 海に身を隠しました

  すると漁師は 倒れていた王子に気がついて

  あわてて人を呼びました


「 お~い また一人 打ち上げられたぞ ~! 」

 
  王子はそのとき 意識が戻りました

  意識の混濁していた王子は 目の前にいる漁師を

  命の恩人と 勘違いしました

  王子は 漁師の顔を見つめました


「 ありがとう 君が 僕を 助けてくれたんだね 」


  美形の王子は 漁師に抱きつきました

  漁師は 思わず 頬を赤く染めました


「 あぁぁ ~ ♡ オイラ ~ ♡ そんなに強く

  抱きしめられるとぉぉおぉぉ ~♪ 」


  王子に 抱きしめられた漁師の鼓動は

  早鐘のように 激しく脈打ちました

  今 まさに 新しい愛の世界への扉が 

  彼の眼の前で 開き始めたことを感じました



         続 く