歩けメロス 1 | 藤花のブログ 詩と

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この胸に 湧き上がる気持ちを 言葉にして あなたに贈りたい




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  「 歩けメロス 」




   メロスは 刑場に辿り着きました。

   大群衆は彼の到着を 今や遅しと待ち望んでいました。

   この疲弊した時代の 閉塞感を打ち破り、 

   新しい時代を こじ開けるべく現れた救世主、

   それこそが彼であると 誰もが 想い 願い、

   大地を揺るがすような大歓声の中 迎えられたのです。

   彼の眼は 自分の行く末を見据えていました。



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   メロスは 田舎の村の 羊飼いでした。

   世の中の動きにも無関心で 世情に疎く、

   笛を吹き、羊たちと お気楽に

   遊んで 暮していました。


   メロスには 父も母も女房もいませんでした、

   妹と二人で 暮していました。


   今日の朝早く、メロスは村を出発し、野を越え山越え、

   十里、離れたシラクスの市にやって来ました。


   近々、妹は 村のある男性を

   花婿として迎える事になっていました。

   結婚式も 間近かなのです。


 「 お兄ちゃん !

   リストアップした物を ちゃんと買ってくんのよ ! 」
  

 「 何だよぉ かったりぃいなぁ ~

   おまえの結婚式なんだから

   自分で買い物に行けば いいじゃん 」


 「 あたしは あたしで 忙しいのよ !

   彼氏と打ち合わせや もろもろで 

   遠いシラクス市までなんか 

   この華奢な足で 行ってられないわよ 」


 「 ふ~ん きゃしゃねぇ ?

   すごく筋肉質で 太くて 頑健な足に見えるがなぁ 」

   
 「 うるさいわね ! ブサイク !

   うすらバカ兄貴のくせに !

   嫁入り前の こんな美しい妹に

   なんて事言うのよぉぉおおお ~!

   この口が言うのね この口がぁぁあああ ~! 」


 「 あだだだ ~ ! 

   口に手を突っ込んで左右に広げないで ~! 」


 「 学級文庫と 大声で言ってみなさいよ !

   言ったら 許してやるわ ! 」


 「 がっ がっ 学級 ▽ンコ ~ 」


 「 ふ ん ! 

   バカな兄がいて あたしも恥ずかしいわ、

   村一番 とびっきり おつむが 弱いんだから、

   誰かさんの言葉、『 生まれて すみません 』 を 

   体現してるわねぇ、

   黙って 言われたとおりにすればいいのよ !

   お兄ちゃんは とろいんだから

   買い物がすんだら 遊んでないで

   とっとと 帰ってくるのよ ! 」


 「 へい へい 」


 「 返事は 一回で いいの !

   迷子にならないでよ ! 」


 「 へぇ~い 」


   てなわけで メロスは妹の花嫁衣裳やら、 

   祝宴の御馳走やらを買い求めるため、

   はるばる シラクス市にやってまいりました。

   まず、その品々を買い集めました。


 「 これを おくれ 」


 「 はい はい 」


 「 返事は 一回でいいんだよ 」


 「 さいですか、失礼しました 」


 「 わかれば よろしい ♪ 」


 「 まいど ありがとうございましたぁぁぁ ~

   なんだか この街じゃ見かけない、

   相当おバカそうな客だったなぁ、

   バカ移ると困るから 塩でも撒いとこうっと 」


   久しぶりなので メロスは浮かれて

   妹に 早く帰れと言われたのも忘れ

   大通りを あっちこち、ぶらぶら歩きました。


 「 そうだ あいつに 会わなくっちゃなぁ 」


   メロスには 幼なじみがいました、
  
   今は このシラクス市で石工をしている 

   セリヌンティウスです。

   彼を これから訪ねてみるつもりでした。


 「 あいつ 石工の弟子もいて 

   今や親方かぁ、羨ましくて悔しいな。

   けっこう羽振りが良さそうだし、

   そうだ 妹の結婚式の御祝儀を たっぷりせしめて、

   半分は自分の懐に 入れよ~うっと うはうは ♪ 」


   メロスは そんな あさましくセコイ事を考えていました。


 「 あれぇ ? どこだっけなぁ ? 」


   シワの少ない脳みそなので

   うろ覚えだった住所が 思い出せずに

   あちこち 迷っているうちに夕刻になりました。

 
   歩いているうちにメロスは、街の様子が

   何やら、変な事に気が付きました。

   あまりにも ひっそりしています。


   もう既に日も落ちて、街の暗いのは当り前ですが、

   けれど、夜のせいばかりでは無く、

   市全体が、やけに 薄ら寂しいのです。


   呑気なメロスも、だんだん不安になって来ました。
 
   脇道を こそこそ歩く若者を つかまえて質問しました。


 「 ねぇねぇ シラクス市で 何かあったのか~い ?

   二年前に この市に来たときは、

   夜でも皆が酒を飲んで 歌を唄って どんちゃん騒ぎで

   街は賑やかだったんだがなぁ ? 」


   若者は、迷惑そうに首を振って答えませんでした。


 「 なんだよ 無愛想だなぁ !

   この頃の若いのは 礼儀がなってないなぁ ぶつぶつ 」


   しばらく歩いて 老人を見つけ 質問しました。


 「 ねぇ ねぇ おじいさん 何だかシラクス市が

   まるで、お通夜みたいなんだが、どうした事だい ? 」


   老人は あたりを はばかる声で答えました。


 「 うかつに夜出歩くと 警吏に捕まりますじゃ 」


 「 なんでぇ ? 」


 「 王様は 人が変わったようになりましたのじゃ、

   だから 警吏に命じて やたら 人を捕らえるのですじゃ 」


 「 捕らえたら どうするのさ ? 」


 「 尋問して 牢獄に閉じ込め拷問しますのじゃ

   場合によっては 殺すかもしれませんのじゃ 」


 「 えぇぇ なんで 殺すのさ ? 」


 「 悪心を抱いている、というのですじゃ、

   誰もそんな、悪心を持っているとは思えないのですがのぅ 」


 「 王様は いっぱい人を 捕らえたのかい ? 」


 「 はい、はじめは 王様の妹婿様を、

   それから 御自身の お子の王子様を、

   それから 妹様を、

   それから 妹さまの御子様を、

   それから 皇后様を、

   それから 賢臣のアレキス様を、

   それから 手当たり次第に 

   疑わしい人間を 捕らえていますのじゃ 」


 「 えぇぇ ~? 国王は ご乱心かい ? 」


 「 ピンポ~ン ♪ 

   大きな声じゃ言えませんが、  

   もっとも、御自分では

 『 人を信ずる事が出来ぬ ! 』 というのですじゃ。

   このごろは、臣下の心をも お疑いになり、

   人質、一人ずつ差し出すことを命じておりますのじゃ。

   御命令を拒めば 投獄されたり、

   へたすると 十字架にかけられて、

   処刑されかねませんのじゃ 」


 「 えぇぇ ~!? 」


 「 今までに、お身内と 何人もの配下を 

   投獄されましたのじゃ 残虐な拷問もしているのでしょう、

   夜 静まり返った城下に 悲鳴が鳴り響くことも 、、、。

   以前は こんな事をするような王ではなかったのですがのぅ 」


   それを聞いて、メロスは驚きました。


 「 恐ろしい王だ 冗談じゃない !

   捕まっちゃ困る、早く帰らなくっちゃ、

   セリヌンティウスには 

   手紙で 御祝儀を請求すればいいや 」


   メロスは 買い物を背負ったままで、

   そそくさと 逃げるように

   人気のない道を 歩いて行きました。


 「 やばいよ やばいよ !

   とにかく このシラクス市から 一刻でも早く出よう

   シラクス市民の連中が どんな酷い目に合わされても

   おいらに 関係ないもんね へへへ~んだ
   
   さわらぬ神に たたりなし くわばら くわばら 」


   メロスは 短い足で アタフタと 道を急ぎます。




          続 く