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U.S. Coast Guard
元船長によって 奥方の葬儀が行われました。
「 灰は 灰に 塵は 塵に 、、、、 」
金融業者たちが 押しかけた時には
すでに、小高い丘の教会の墓地に
棺が 埋められた後でした。
金融業者は 悪態をつきながら帰って行きました。
教会の墓からは 小麦畑が見渡せました。
広い畑に美しい小麦が 静かに揺れていました。
「 やれ やれ っと、
上手いこと 奴らを 追っ払えたわ ~♪ 」
「 借金取りも 地獄までは追いかけられませんねぇ、
ホントは まだ しぶとく生きていますけど 」
「 なんで 私が 地獄に行くのよぉおお ~ !! 」
「 おやぁ 天国に行ける根拠があるのですかぁ ? 」
「 ふん ! 這ってでも行くわよ ! 」
「 這っては 行けない場所のような気がしますなぁ、
這って行けるのは どう考えても地獄でしょうなぁ 」
「 でも この世の地獄を見たわよ
あまりに 空腹でね 」
「 奥方様は食い意地が具現化したような人ですからねぇ 」
「 あちこち さまよい歩き
な~んか 幻覚を見たような気もするわ。
だれかと 天国が どうのこうのと話していた気がするしぃ~
きっと低血糖になって
脳みそに 栄養がいかなかったのね。
その後 ぶっ倒れて 死んだと思ったわ 」
「 わたくしめも てっきり奥方様が
息絶えているものだと思いましたよ。
なにせ 生気がない真っ青な顔で
体脂肪の ほとんど無いような
前の姿から想像がつかない 痩せ細った身体でしたから、
慌てて 葬儀の準備をしたのですよ 」
「 ふん ! どっこい 生きてたのよ 」
「 借金取りに追われていると言うので
一計を案じて、連中が来るタイミングで
偽装葬儀をして、棺には奥方様の代わりに
藁で作った人形に 服を着せて入れました、
サービスで 麦の穂も入れときました 」
「 よく考えると 私が埋められたら
ホラー物か サスペンス物になってしまうものね、
華麗なる美人の 素敵な お話がだいなしよねぇ 」
「 美人って 、、、
奥方様は 面の皮が厚くて ずうずうしくて
あきれちゃいますなぁ やれやれ 」
「 ホントに 気を失っていた時、
生きたまま 埋められなくて良かったぁ。
古い ヒッチコック監督のテレビドラマにあったわ、
怖かったわぁ トラウマになるわぁ
再放送で見た気がするわ 」
「 時代が違いますよ !
この時代 ヒッチコック監督は まだ生まれてませんよ 」
「 じゃぁ テレビは ? 」
「 それも まだ発明されてませんし 」
「 ふ~ん 地デジは ? 」
「 はるか未来の話ですよ 色々と弊害があるはずですよ 」
「 どんな ? 」
「 製造メーカーが 需要を当て込んだけれど
赤字で青息吐息になるんでしょうね、
それで外国資本に買われたりするんですよ、きっと 」
「 4K放送は ? 」
画像は良くなるでしょう
でも、アラも良く見えてしまいますよ ~ 」
「 8K放送は ? 」
「 もっと画像が良くなるんでしょうが、
庶民は そんなに頻繁に買い替えできませんよ、
8Kテレビなら 何でもいいわけじゃなくて
きっと8K放送対応チューナー搭載テレビじゃないと
受信できないんですよ、買うときに注意ですねぇ 」
「 それも含めて み~んな
空腹のあまりの幻覚だったのね
お~ほっほほほ ♪ 」
「 やれやれ 薄い話をムリヤリふくらましてますなぁ 」
「 でも 形だけの葬儀のお陰で 金融業者を騙せたわ、
私 喪服を着て お墓の横で連中に声までかけたのに
気づきもしないんだもの、
うすらバカよねぇ 間抜けよねぇ。
あの連中 どうせ小間使いの下っ端だろうけど
借金取りは廃業したほうがいいわ、
闇金ウシジマくんに弟子入りしたらどうかしら、
お~ほっほほほ ♪ 」
「 ふふふっ
まるで豚か トドのような体躯が
カモシカのように スリムになり
あの頃とは 別人のようになりましたからねぇ、
お隣から急遽 お借りした喪服が
スリムな体にお似合いでしたよ。
しかし 自分の葬儀の場に堂々といるなんて
なんて 図太い神経なんでしょうねぇ 」
「 そこが 盛り上がるとこよ、
映像的にも 緊張感があるでしょう、
ズームアップされる場面よね、
正体が バレれるか バレないかってね、
みんな ワクワク ドキドキ ♪ 」
「 ほんとに 埋めちゃえば よかったかも 、、、 」
「 何か 言ったかぃいい ~? 」
「 いえいえ 何も 、、、、 」
「 私 痩せたから また昔の美しさ復活よ
鏡よ 鏡 世界一美しいのは だぁれ ?
お~ほっほほほ ♪ 」
「 奥方様じゃぁないのは 確かですよ。
どうも明らかに自己認識能力に乏しいようですなぁ、
急激に痩せたから 顔の皮膚がたるんで
シワシワになってますよ 」
「 いいわよ !
また パン バンバン食べて パンパンに膨らんで
パンと シワを伸ばすわ 」
「 しかし あんなに衰弱していたのが ウソのようで、
まるで ゴキブリ並みの生命力ですなぁ 」
「 焼きたてのパン、お腹いっぱい食べたら
すっかり 元気になっちゃったわぁ 」
「 いくらパンを焼いても、追いつきませんでしたねぇ、
チーズや 干し肉も あるだけ食べて、
ミルクもぶどう酒も がぶがぶ 浴びるほど飲んで
うちの家計は 大赤字ですよぉぉ ~
奥方様は 鯨飲馬食ですなぁ ~ 」
「 こ ら ! 健啖家と いいなさい ! 」
「 なるほど ものは言いようですなぁ 」
「 ふ ん ! ものすごく腹減ってたんだもの !
しょうがないだろぅがぁあ、
おまえも 飢えてみろよぉぉおお ~ ! 」
「 ところで 奥方様は 破産されたのですかぁ ? 」
「 そうなのよ 商船団が 嵐で沈んで、
その他にも いろいろあってねぇ。
火災、不正経理、使い込み、盗難、
亭主も愛人と逃げて 雇人も泥棒ばかり、
ろくでなしばかりだったわぁ。
弱り目に祟り目 泣きっつらに蜂
” 不幸は束になって やってくる ” のよ ! 」
「 どこかの有名な劇作家
( シェークスピア ) の言葉ですねぇ
栄光の日々から 一転、
さすが たくさんの船の所有者だっただけあって
浮いたり 傾いたり 沈んだりの
極端な人生ですなぁ 」
「 そうそう 船といえば
たらふく食べて 頭に血がめぐったら
思い出したんだけど 」
「 なんですか また 悪い話ですか ? 」
「 ちがうわよ !
世界一美しいものを探す旅から帰った あの船は、
その後すぐ 誰にも内緒で たんまり資金を持たせて、
別の船長に そこそこ美しいものを
また 買い付けさせに行かせておいたのよ。
街中の連中が 私を ばかにするもんだから
あまりにも悔しくって むかっ腹が立ったからねぇ。
一番じゃなくても お値打ちの良い物を
たくさん持ち帰るように きつく言いつけてあるわ。
なんとか鑑定団みたいな 実利的な質屋家業の
目利きの者を行かせたのよ。
船いっぱいに色々積んで
もうすぐ帰ってくるはずよ ! 」
「 えぇぇぇ ? 」
「 死んで 花実が咲くものか ~!
さぁ もう一回、それを元手に
一花 咲かせましょう ~♪
今度は 人様のために
” 世界一 美しく 尊い ” 行いができるように、
貧しい人達に 希望を与えられ、
あのゴロツキたちも 更生させられるような
世の中の役に立つ 事業をしましょう 」
「 はぁ それは素晴らしい理念ですねぇ 」
「 あんたも手伝いなさい いいわね ! 」
「 えぇぇ ~!
わたくしめが また かかわるんですかぁ ? 」
「 当たり前でしょう !
元はと言えば あんたのせいでもあるんだからね !
これから世界で一番 忙しくして
尊い労働を みっちりさせてやるわ、
24時間 寝ないで働きなさい。
ブラック企業なんて言うんじや無いわよ !
お~ほっほほほほ お~ほっほほほほ
お~ほっほほほほ ~♪ げほげほほ ! 」
終 り