最終話 世界一美しいもの 9 | 藤花のブログ 詩と

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この胸に 湧き上がる気持ちを 言葉にして あなたに贈りたい



                         U.S. Coast Guard


  元船長によって 奥方の葬儀が行われました。

「 灰は 灰に 塵は 塵に 、、、、 」

  金融業者たちが 押しかけた時には 
 
  すでに、小高い丘の教会の墓地に 

  棺が 埋められた後でした。

  金融業者は 悪態をつきながら帰って行きました。


  教会の墓からは 小麦畑が見渡せました。

  広い畑に美しい小麦が 静かに揺れていました。


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「 やれ やれ っと、 

  上手いこと 奴らを 追っ払えたわ ~♪ 」

「 借金取りも 地獄までは追いかけられませんねぇ、

  ホントは まだ しぶとく生きていますけど 」 

「 なんで 私が 地獄に行くのよぉおお ~ !! 」

「 おやぁ 天国に行ける根拠があるのですかぁ ? 」

「 ふん ! 這ってでも行くわよ ! 」

「 這っては 行けない場所のような気がしますなぁ、
 
  這って行けるのは どう考えても地獄でしょうなぁ 」  

「 でも この世の地獄を見たわよ

  あまりに 空腹でね  」

「 奥方様は食い意地が具現化したような人ですからねぇ 」

「 あちこち さまよい歩き  

  な~んか 幻覚を見たような気もするわ。

  だれかと 天国が どうのこうのと話していた気がするしぃ~ 

  きっと低血糖になって 

  脳みそに 栄養がいかなかったのね。
 
  その後 ぶっ倒れて 死んだと思ったわ 」

「 わたくしめも てっきり奥方様が   

  息絶えているものだと思いましたよ。

  なにせ 生気がない真っ青な顔で 

  体脂肪の ほとんど無いような

  前の姿から想像がつかない 痩せ細った身体でしたから、

  慌てて 葬儀の準備をしたのですよ 」

「 ふん ! どっこい 生きてたのよ 」 

「 借金取りに追われていると言うので 

  一計を案じて、連中が来るタイミングで

  偽装葬儀をして、棺には奥方様の代わりに

  藁で作った人形に 服を着せて入れました、

  サービスで 麦の穂も入れときました 」

「 よく考えると 私が埋められたら 

  ホラー物か サスペンス物になってしまうものね、

  華麗なる美人の 素敵な お話がだいなしよねぇ 」

「 美人って 、、、

  奥方様は 面の皮が厚くて ずうずうしくて 

  あきれちゃいますなぁ やれやれ 」

「 ホントに 気を失っていた時、

  生きたまま 埋められなくて良かったぁ。

  古い ヒッチコック監督のテレビドラマにあったわ、

  怖かったわぁ トラウマになるわぁ 

  再放送で見た気がするわ 」

「 時代が違いますよ !

  この時代 ヒッチコック監督は まだ生まれてませんよ 」

「 じゃぁ テレビは ? 」

「 それも まだ発明されてませんし 」

「 ふ~ん 地デジは ? 」

「 はるか未来の話ですよ 色々と弊害があるはずですよ 」

「 どんな ? 」

「 製造メーカーが 需要を当て込んだけれど

  赤字で青息吐息になるんでしょうね、

  それで外国資本に買われたりするんですよ、きっと 」

「 4K放送は ? 」

  画像は良くなるでしょう
  
  でも、アラも良く見えてしまいますよ ~ 」

「 8K放送は ? 」

「 もっと画像が良くなるんでしょうが、

  庶民は そんなに頻繁に買い替えできませんよ、

  8Kテレビなら 何でもいいわけじゃなくて

  きっと8K放送対応チューナー搭載テレビじゃないと

  受信できないんですよ、買うときに注意ですねぇ 」

「 それも含めて み~んな 

  空腹のあまりの幻覚だったのね

  お~ほっほほほ ♪ 」

「 やれやれ 薄い話をムリヤリふくらましてますなぁ 」

「 でも 形だけの葬儀のお陰で 金融業者を騙せたわ、

  私 喪服を着て お墓の横で連中に声までかけたのに

  気づきもしないんだもの、

  うすらバカよねぇ 間抜けよねぇ。

  あの連中 どうせ小間使いの下っ端だろうけど

  借金取りは廃業したほうがいいわ、

  闇金ウシジマくんに弟子入りしたらどうかしら、

  お~ほっほほほ ♪ 」


「 ふふふっ 

  まるで豚か トドのような体躯が

  カモシカのように スリムになり

  あの頃とは 別人のようになりましたからねぇ、

  お隣から急遽 お借りした喪服が 

  スリムな体にお似合いでしたよ。

  しかし 自分の葬儀の場に堂々といるなんて

  なんて 図太い神経なんでしょうねぇ 」


「 そこが 盛り上がるとこよ、 

  映像的にも 緊張感があるでしょう、

  ズームアップされる場面よね、

  正体が バレれるか バレないかってね、

  みんな ワクワク ドキドキ ♪ 」


「 ほんとに 埋めちゃえば よかったかも 、、、 」

「 何か 言ったかぃいい ~? 」

「 いえいえ 何も 、、、、 」
 
「 私 痩せたから また昔の美しさ復活よ

  鏡よ 鏡 世界一美しいのは だぁれ ? 

  お~ほっほほほ ♪ 」

「 奥方様じゃぁないのは 確かですよ。 

  どうも明らかに自己認識能力に乏しいようですなぁ、

  急激に痩せたから 顔の皮膚がたるんで

  シワシワになってますよ 」

「 いいわよ !

  また パン バンバン食べて パンパンに膨らんで

  パンと シワを伸ばすわ 」
   
「 しかし あんなに衰弱していたのが ウソのようで、

  まるで ゴキブリ並みの生命力ですなぁ 」

「 焼きたてのパン、お腹いっぱい食べたら

  すっかり 元気になっちゃったわぁ 」

「 いくらパンを焼いても、追いつきませんでしたねぇ、

  チーズや 干し肉も あるだけ食べて、

  ミルクもぶどう酒も がぶがぶ 浴びるほど飲んで

  うちの家計は 大赤字ですよぉぉ ~ 

  奥方様は 鯨飲馬食ですなぁ ~ 」

「 こ ら ! 健啖家と いいなさい ! 」

「 なるほど ものは言いようですなぁ 」

「 ふ ん ! ものすごく腹減ってたんだもの ! 

  しょうがないだろぅがぁあ、

  おまえも 飢えてみろよぉぉおお ~ ! 」

「 ところで 奥方様は 破産されたのですかぁ ? 」

「 そうなのよ 商船団が 嵐で沈んで、

  その他にも いろいろあってねぇ。
 
  火災、不正経理、使い込み、盗難、

  亭主も愛人と逃げて 雇人も泥棒ばかり、

  ろくでなしばかりだったわぁ。

  弱り目に祟り目 泣きっつらに蜂

” 不幸は束になって やってくる ” のよ ! 」

「 どこかの有名な劇作家

( シェークスピア ) の言葉ですねぇ

  栄光の日々から 一転、

  さすが たくさんの船の所有者だっただけあって 

  浮いたり 傾いたり 沈んだりの 

  極端な人生ですなぁ  」  

「 そうそう 船といえば

  たらふく食べて 頭に血がめぐったら

  思い出したんだけど 」

「 なんですか また 悪い話ですか ? 」

「 ちがうわよ !

  世界一美しいものを探す旅から帰った あの船は、

  その後すぐ 誰にも内緒で たんまり資金を持たせて、

  別の船長に そこそこ美しいものを 

  また 買い付けさせに行かせておいたのよ。

  街中の連中が 私を ばかにするもんだから

  あまりにも悔しくって むかっ腹が立ったからねぇ。

  一番じゃなくても お値打ちの良い物を

  たくさん持ち帰るように きつく言いつけてあるわ。
 
  なんとか鑑定団みたいな 実利的な質屋家業の 

  目利きの者を行かせたのよ。

  船いっぱいに色々積んで

  もうすぐ帰ってくるはずよ ! 」

「 えぇぇぇ ? 」  





「 死んで 花実が咲くものか ~! 

  さぁ もう一回、それを元手に

  一花 咲かせましょう ~♪

  今度は 人様のために 

” 世界一 美しく 尊い ” 行いができるように、

  貧しい人達に 希望を与えられ、

  あのゴロツキたちも 更生させられるような

  世の中の役に立つ 事業をしましょう 」

「 はぁ それは素晴らしい理念ですねぇ 」
  
「 あんたも手伝いなさい いいわね ! 」

「 えぇぇ ~! 

  わたくしめが また かかわるんですかぁ ? 」

「 当たり前でしょう !

  元はと言えば あんたのせいでもあるんだからね !

  これから世界で一番 忙しくして

  尊い労働を みっちりさせてやるわ、

  24時間 寝ないで働きなさい。 

  ブラック企業なんて言うんじや無いわよ !

  お~ほっほほほほ お~ほっほほほほ 

  お~ほっほほほほ ~♪ げほげほほ ! 」


         終 り