食事もままならない辛い生活が
いつしか 奥方の身体を蝕みました。
体調が思わしくなく、咳き込むことも多くなり、
体力も衰え、もしかしたら このまま
どこかで、行き倒れてしまうのではと思い
奥方は 不安になりました。
疲れ果てた奥方は、
風に吹かれ 導かれるように、
ある日、ある村に辿り着きました。
奥方は その地の一面の風景に
眼が 釘付けになりました。
そこには刈入れ時期の 小麦畑が広がっていました、
「 あぁ 夕日に照らされて 黄金色に輝く小麦畑、
風に吹かれ なびき 光り輝いている。
成長した小麦は 自らの命で人の命を支えてくれる。
私の命も支え続けてくれた、
何という美しさ 神々しさ、
今まで 私は気付かなかった、
人生の どん底の中、
やっと あの時の船長の気持ちが理解できた。
なんと 私は愚かであったのだろうか 、、、 」
奥方は こうべを垂れ 神に祈りました。
「 やっと 気付いたようじゃのう 」
奥方は その声に 顔を上げました、
そこには 見覚えのある老人が立っていました、
小麦を海に投げ棄てさせた時に 咎めた老人でした。
「 はい あの時の 船長の気持ちが 分かりました 」
「 そうかい そうかい 」
「 私は愚かでした。
虚飾に塗れ 今まで物事の真価を
見極めることが出来なかったのです 」
「 人生は シンプルで良いのだ 」
「 この世は 美しいものに みちています 」
「 ふむ ふむ 」
「 人が作り出すものも 自然の あるがままのものも
けっして それらには
順列を つけられるものではありません 」
「 う む 」
「 そして、心に染み入る とても美しく、
尊いものを 知ることができました 」
「 ほう それは何じゃな ? 」
「 貧しき境遇にあっても 他者を思いやり
情けをかけてくれる人たちが
たくさんいるのです 」
「 うむ 貧しき者は幸いである、
神の国は その人達のものだ 」
「 優しい慈悲の心は とても とても
美しく 尊いものだと知ることができました
今は心穏やかで 魂が浄化された気持ちです 」
老人は 満足そうに頷きました。
「 必ずや汝のために神の国の扉は開かれるであろう 」
そう言うと 老人の姿は 小麦畑に消えました。
奥方の心は 清々しい気持ちに溢れました。
大地にひざまずき 夕日に照らされ 祈る奥方の姿は
神々しいほどの 黄金色の光に包まれました、
そして 静かに崩れ落ちました。
続 く