奥方が逃げまわる先々で 色々な噂が聞こえてきました。
夫と会計係は 筋の悪い金融業者に捕まり、
借金返済できないため鉱山で強制労働をさせられている事。
夫の若い愛人は、金の切れ目が縁の切れ目で、
別のパトロンの所に 転がり込んだけれど
新しい愛人を作られ 追い出されてしまった事。
家財や絵画や彫刻を 盗み出した使用人たちは、
ブラックマーケットで強引に高く売りさばこうとして、
裏社会の者たちと いざこざを起こし、
品物を取り上げられ、
皆 奴隷同然に タコ部屋に叩きこまれたという事。
ろくでなし達には それ相応の報いが待っていました。
信心深かった料理長は 魚料理屋を開いたそうでした、
たまに宝石が出る 当たりつき魚料理が好評で
店は 繁盛しているようです。
奥方は 金融業者から逃げ回りました。
商売関係 知人のところには 業者の手が伸びていました、
助けを求めて 知り合いの家に近づきました。
「 うわぁ ここにも 人相の悪い奴らがいるわ 」
ゴロツキのような連中が奥方が顔を見せるのではないかと
たむろして見張っていました。
「 やばいよ やばいよ ~ 」
見つからぬように 奥方は逃げ出しました。
もともと やり手の彼女を快く思わない者も多いので、
うかつに頼ったりしたら通報されてしまう恐れもあります。
「 もうこの街にいては 危険かもしれないわ 」
奥方に世間の風は 冷たく吹きつけました。
奥方は 街から町 町から村へと
ヤバイ金融業者の手を逃れ 流れ者になりました。
普段 身につけていた指輪や
ブレスレット ネックレスなどを売り、
しばらくは それで食い繋ぎました。
しかし 足元を見られ安く買い叩かれたのと、
旺盛な食欲のため、
いつまでも お金は続きませんでした。
やがて 飲まず食わずの苦しい生活が始まりました。
「 あぁ もう ひもじくて
しぼんで 干からびてしまいそう 」
やがて 人様の戸口を回り、
一かけらのパンを 乞うような生活に陥りました。
裕福そうな家の前に 立つと玄関をノックしました、
ドアが開きました。
「 こんにちは 」
「 どちらさん ざます ~ ? 」
「 食事に窮していまして
何か食物をいただけないでしょうか ? 」
「 あぁらぁあ ! あいにく 宅には
人様に差し上げるようなものなど無いんざぁます ~
おととい いらっしゃってねぇ ~! 」
別の家も尋ねました。
「 何か食物を いただけないでしょうか ? 」
「 このごろは 食中毒が怖いですからねぇ
差し上げるわけには いきませんのよ、
私の 責任問題になりますからねぇ、
ごめんあそばせ うふふふふ ♪ 」
お金持ちたちの家を訪ねても
冷たく 門前払いされてしまいました。
空腹で 道にへたり込んでいると、
「 まぁ あなた 大丈夫 ?
良かったら このパンを おあがりなさい 」
通りがかった貧しそうな人が
パンを分け与えてくれました。
「 うぅぅ いいんですかぁ ? 」
「 困ったときは お互い様、
これを食べて元気をだしてね 」
「 あぁぁ ありがとうごぉざぃますぅぅ 」
奥方は夢中で 差し出されたパンにかじりつきました、
安くて硬いパンでしたが
天にも登る気持ちになりました。
しかし人は每日空腹になります、
お腹の虫が鳴き叫びます。
意を決して 貧しそうな家を訪ねると
憐れみ深い人々が 厳しい家計の中、
いくばくかの 施しをしてくれました。
「 あぁぁ おありがとうございます 」
奥方は 涙を浮かべ 感謝しました。
冷えた身体でも心に温もりを感じることが出来ました。
食物の ありがたさが身にしみました。
そうして奥方は かろうじて命をつないだのでした。
続 く