世界一美しいもの 6 | 藤花のブログ 詩と

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この胸に 湧き上がる気持ちを 言葉にして あなたに贈りたい

 



 奥方が逃げまわる先々で 色々な噂が聞こえてきました。

 夫と会計係は 筋の悪い金融業者に捕まり、

 借金返済できないため鉱山で強制労働をさせられている事。

 夫の若い愛人は、金の切れ目が縁の切れ目で、
  
 別のパトロンの所に 転がり込んだけれど 

 新しい愛人を作られ 追い出されてしまった事。

 
 家財や絵画や彫刻を 盗み出した使用人たちは、 
  
 ブラックマーケットで強引に高く売りさばこうとして、

 裏社会の者たちと いざこざを起こし、

 品物を取り上げられ、

 皆 奴隷同然に タコ部屋に叩きこまれたという事。

 ろくでなし達には それ相応の報いが待っていました。


 信心深かった料理長は 魚料理屋を開いたそうでした、

 たまに宝石が出る 当たりつき魚料理が好評で

 店は 繁盛しているようです。  


 奥方は 金融業者から逃げ回りました。 

 商売関係 知人のところには 業者の手が伸びていました、

 助けを求めて 知り合いの家に近づきました。

「 うわぁ ここにも 人相の悪い奴らがいるわ 」

 ゴロツキのような連中が奥方が顔を見せるのではないかと

 たむろして見張っていました。

「 やばいよ やばいよ ~ 」

 見つからぬように 奥方は逃げ出しました。

 もともと やり手の彼女を快く思わない者も多いので、

 うかつに頼ったりしたら通報されてしまう恐れもあります。


「 もうこの街にいては 危険かもしれないわ 」 


 奥方に世間の風は 冷たく吹きつけました。

 奥方は 街から町 町から村へと

 ヤバイ金融業者の手を逃れ 流れ者になりました。

 普段 身につけていた指輪や 

 ブレスレット ネックレスなどを売り、

 しばらくは それで食い繋ぎました。

 しかし 足元を見られ安く買い叩かれたのと、

 旺盛な食欲のため、

 いつまでも お金は続きませんでした。

  やがて 飲まず食わずの苦しい生活が始まりました。


「 あぁ もう ひもじくて 

 しぼんで 干からびてしまいそう 」

 やがて 人様の戸口を回り、

 一かけらのパンを 乞うような生活に陥りました。

 裕福そうな家の前に 立つと玄関をノックしました、

 ドアが開きました。


「 こんにちは 」

「 どちらさん ざます ~ ? 」

「 食事に窮していまして 

 何か食物をいただけないでしょうか ? 」

「 あぁらぁあ ! あいにく 宅には 

 人様に差し上げるようなものなど無いんざぁます ~ 

 おととい いらっしゃってねぇ ~! 」

 別の家も尋ねました。

「 何か食物を いただけないでしょうか ? 」

「 このごろは 食中毒が怖いですからねぇ 

 差し上げるわけには いきませんのよ、

 私の 責任問題になりますからねぇ、

 ごめんあそばせ うふふふふ ♪ 」 

 お金持ちたちの家を訪ねても 

 冷たく 門前払いされてしまいました。

 空腹で 道にへたり込んでいると、

「 まぁ あなた 大丈夫 ? 

 良かったら このパンを おあがりなさい 」 

 通りがかった貧しそうな人が 

 パンを分け与えてくれました。

 


「 うぅぅ いいんですかぁ ? 」

「 困ったときは お互い様、 

 これを食べて元気をだしてね 」

「 あぁぁ ありがとうごぉざぃますぅぅ 」
  
 奥方は夢中で 差し出されたパンにかじりつきました、

 安くて硬いパンでしたが

 天にも登る気持ちになりました。


 しかし人は每日空腹になります、

 お腹の虫が鳴き叫びます。 

 意を決して 貧しそうな家を訪ねると 

 憐れみ深い人々が 厳しい家計の中、

 いくばくかの 施しをしてくれました。


「 あぁぁ おありがとうございます 」

 奥方は 涙を浮かべ 感謝しました。

 冷えた身体でも心に温もりを感じることが出来ました。

 食物の ありがたさが身にしみました。

 そうして奥方は かろうじて命をつないだのでした。


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