「 あぁ もう今年も 収穫祭がきたなぁ 」
「 一年は 長いようで 短いものだなぁ 」
「 そうだ たしか
世界一美しくて、尊いものを探す船が
去年の今頃 出航したよなぁ 」
「 そろそろ あの船長が出航してから一年になるなぁ 」
「 そう言えば あの船は どうなったんだろうな ? 」
「 いいかげん もう 戻ってくる頃だろう 」
「 何を持ち帰るか 楽しみなものだ
素晴らしい宝飾品か
美しい絵画か それとも ? 」
「 意外と 絶世の美女だったりして 」
「 それは いいなぁ あはあはあはあはは ♪ 」
「 でも奥方が激怒して 血の雨が降りそうだなぁ いひひひ ♪ 」
「 まぁ それはそれで面白そうだが うひゃひゃひゃ ♪ 」
港の見張りの者が 一年前に出航した船が
帰って来たのを見つけました。
「 船が、帰って来たぞぉい ~! 」
「 うお~! 」
「 待ってました ! 」
「 がや がや 」
「 どや どや 」
「 ざわ ざわ 」
街中の人々が、船つき場に集まりました。
奥方も、船を出迎えました。
「 やっと 戻ってきたのね、
待ちどうしかったわぁ ~!
待たされる一年て なんて長いのかしら
一年分 歳とっちゃったわ ~ 」
奥方は一年間、食っちゃ寝食っちゃ寝を繰り返し
たくさん皮下脂肪を蓄えながら待っていました、
船長が どんな宝物を持って来たか、
早く見たくてたまりません。
船を降りた船長は 奥方の前に進み出ました。
「 奥方様、ご機嫌麗しゅうぅぅう ~
ただいま 戻りました ~ ♪ 」
「 挨拶は 後でいいわ、早く見たいのよ
世界一 尊く 美しいものを !!
それで貴方は、
何を見つけて来てくれましたか ? 」
「 はい、わたくしめは 一年間 世界中を旅して、
色々な宝物を見ました 」
「 ほう どんな物ですか ? 」
「 はい 人の背丈よりも 大きな水晶や、
黄金の仮面 黄金の棺
シルクで織られた 素晴らしい模様の布
大理石で作られた 女神像
色とりどりの宝石で飾られた王子の像
金色に輝く寺 巨大仏像もありました 」
「 それは さぞや美しく尊いものなのでしょうね 」
「 しかし それらが、世界一美しい物、
世界一尊い物に相当するのかと 考えしてみましたが
必ずしもそうとは 思えませんでした。
あれこれ考え 悩み 結論の出ない日々に身悶えして
わたくしめは もう少しで諦めてしまうところでした。
ところが、ある小さな港に入った時の事でございます 」
「 ほうほう それで ? 」
「 そこは港から 少し離れた場所に
穀物畑が 見渡すかぎり、
どこまでも どこまでも広がっておりました。
麦の穂は 風を受け、
波のように 大きくうねり 揺れていました 」
「 それが どうしたのかしら ? 」
「 太陽が出ると、あたり一面が
黄金色に 光り輝きました。
わたくしめは これを見たとたん、
穀物こそが 毎日のパンを作る穀物こそが
世界一美しい物、世界一尊い物だと思いました 」
うっとりとした顔で、船長は
つばを飛ばしながら熱く語りました。
奥方は いまいち理解できません。
「 自然の中で 農民が精魂を傾け 大地を開墾し
慈雨と太陽の光の恵みに育まれ
苦労の末に 手に入れることができる
我々の生命を繋ぐための 小麦 」
「 ふ~ん それでぇ ? 」
「 そこで わたくしめは、
船いっぱいに 小麦を積んでまいりました 」
「 えぇぇえ ~ !? 何ですって ~ !? 」
奥方は、顔を真っ赤にして怒りました。
「 お前は 一年をかけて世界中を回って わざわざ
どこにでもある 小麦を持ち帰ってきたのかい ! 」
「 そうです ♪
評判の それは それは 極上の麦でした、
もう売り先が決まっていましたが、
無理を言って 金に糸目を付けず買い付けました 」
「 なんてことを !! 」
「 どうですか この艶や 豊潤な香り 」
「 この、バカ! どアホ ! うすらマヌケ ~!
お前の母ちゃん デベソ ~!
浅はかな考えしか出来ない ろくでなし ~! 」
「 おやぁ ?
わたくしめの お母ちゃんの
おへそを見たことあるんですかぁ ?
いつ見たんでしょうかぁ ~? 」
「 きぃぃぃいいい ~!
余計な事 言ってんじゃぁないよ ~!
私の この 『 怒り 』 を
どう鎮めてくれるんだ、
そうだ お前を 錨( いかり )に巻きつけて
海に 沈めてやろうかぁぁああ ~!! 」
船長は 奥方の怒号を聞くと 穏やかに答えました。
「 わたくしめは 一年かかって、
ようやく世界で 一番大切な物は、
穀物であることに 気がつきました。
神様が我々に お与え下された、
黄金色に光り輝く 穀物です。
人はパンのみに 生きるにあらず、
されど、パンは人が生きるために必要な大切なものです、
穀物無しでは、毎日食べるパンも作れません 」
しかし奥方は、その説明に納得しません。
「 船長、お前は とんだ考え違いをしているようね。
給金も払いません 今すぐ首にします。
お前の顔なんぞ、もう二度と見たくなどありません !
元々 歪んだ 醜いキュビズム顔なんだもの !
ええい そんな物は、海にでも捨てておしまい ! 」
「 やれやれ それは価値観の相違ですなぁ。
奥方様は 物事の真価を
ちゃ~んと 分かってくださるかと思いましたが。
そうですかぁ ~
わたくしめは とても残念ですよぉ。
では退職金代わりに 小麦を一袋だけ頂いてまいります 」
船長は 袋を担ぎ どこかへ立ち去ってしまいました。
「 むきぃいきぃきぃいい ~!
なんて忌々しい事 一年もかけて
わざわざ小麦などを買い求めるとは 」
奥方は 船に積まれた小麦の入った
山積みの袋を見つめて 怒鳴りました。
「 あなた達 さあ早く、穀物なんか捨ててしまいなさい ! 」
奥方の命令で船員たちは 穀物を海に捨て始めました。
< どっぶ~ん ! >
< どっぶ~ん ! >
< どっぷ~ん ! >
そこに 見知らぬ老人が やって来て、奥方に言いました。
「 やめさせなされ !
なんと、勿体無い事をするのじゃ !
よ~く考えてみなされ、
世の中には 一かけらのパンもなく、
飢えて死ぬ人が大勢いるのじゃ。
神様から与えられた 尊い送り物を捨てたりすれば、
神罰が当たって 汝は貧乏になり 破滅するが必定じゃ 」
それを聞いた奥方は、嘲るように笑いました。
「 お~ほっほほほほっ ♪
神罰が あたるぅぅう ~ ?
そして私が、貧乏になるですって ?
バカバカしいたら ありゃしない
ぷぷぷぷぷぅう ~ ! 」
奥方は 自分の指から素晴らしい
ブリリアンカットを施された
大きな宝石の指輪を抜き取ると
老人に 見せつけました。
「 ひかえおろう ~!
この特別あつらえの
スペシャル ゴ~ジャス デラックスな
豪華絢爛 キラッキラの指輪が 眼にはいらぬか ! 」
指輪は陽光に照らされ 美しく輝きました。
奥方は それを怒りにまかせ
海の中に投げ込んでしまいました。
「 え い ! 」
< ち ゃ ぽ ~ ん ! >
「 もし、私に 神が神罰を当てるというのなら、
海に命じて あの指輪を私に返してごらんなさい !
あの指輪には 商船が買えるくらい価値がありますが、
あんな指輪が一つや二つ無くなっても
私は 貧乏になりまっしぇ~ん !!
決して貧乏になるものですか なるはずもないわ !
お~ほっほほほほ ♪ 」
奥方は 捨て台詞を吐くと、
鼻息荒く ふんぞり返り 大股開きで
ドスンドスンと 地響きを立てて帰っていきました。
「 うぉぉおお ~! 金目のもの ♪ 」
「 一財産になるぅううう ~! 」
「 オイラが もらったぁぁあ ~! 」
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人々が先を争って 海に飛び込み
奥方の捨てた指輪を探しましたが
誰も見つけることは出来ませんでした。
「 ふ ん !
貧しい者たちは あさましいわねぇ 」
奥方は 憎々しげに毒づきました。
指輪探しで阿鼻叫喚 大騒ぎの船着場から
いつの間にか 老人の姿は消えました。
続 く