集団ヒステリーのような 興奮状態の大群集には
メロスの声は 聞こえません。
歌や、笛、太鼓、鳴り物、弦楽器、
刑場は お祭り騒ぎです。
「 お兄ちゃん 立派よ カッコいい ~♪
普段とは 別人みたい ~♪ 」
メロスの姿は 傾き始めた太陽に
背中を照らされ 逆光のシルエットとなり
後光が射しているかのように神々しく見えました。
妹が うっとりと見上げています。
「 やれやれ この騒ぎでは
もう群衆を 止めることができませんなぁ ~
いたしかたありません 天命です !
ここは一つ 民衆の望むままに
おとなしく じたばたせず 天に召されてください。
それが一番 おさまりがいいですよ、
そうしましょう そうしましょう 」
義弟が 言いました。
「 救世主の悲運、御立派な 最後の御姿は、
必ずや 長く後世に語り継がれることでしょう 」
近衛隊長との決戦を制した元百人隊長の
山賊の親分ケントリュウスが
他人事のように 無責任に言いました。
その言葉に 納得したように
元兵士と寝返った刑吏、近衛兵たちも、
磔台の上の二人を見つめ うなずいています。
「 まぁ もともと お前が
はりつけられる はずだったんだから
これも運命だ、しかたないよね ~
お前のことは 忘れないよ ~ ぷぷぷ ♪ 」
セリヌンティウスも言いました。
「 お祭りのフィナーレは やはり
ど派手じゃないといけませんよね。
スペシャルな出し物 王様とメロス様の 血祭り
これは見ものですねぇ ~ うきうき ♪ 」
弟子の フィロストラトスも メロスを指さして
いかにも嬉しそうに 満足そうに笑っています。
「 ねぇねぇ 確かに 一義的には
オイラ 磔刑になるため
シラクス市に帰って来たことになるけどさぁ、
みんなは 王様に抗議するために
オイラと一緒に来たんじゃないの ~!
もともとの主旨と ちがうんじゃないの ~! 」
「 今更 何を言ってる ! 往生際が悪いぞ ! 」
セリヌンティウスが 怒鳴りました。
「 そ ん な ~~~! 」
そんなメロスに お構いなく
何処からか薪が運ばれてきました。
「 じぇじぇじぇ ?
『 ま き 』 って どういうこと ~?
まだ 焚き火のシーズンじやぁないしぃ
キャンプファイヤーでもするのぉ ~? 」
王様と メロスの 十字架の下に
薪が 高く積まれました。
「 もはや 群衆の怒りは
激しく燃え盛り 収まらぬ、
わしらは 火あぶりにされるのだ、
これも また 運命なのだ 」
「 なんだってぇぇえ ~! 」
「 これほどまでに 熱狂的な騒乱になっておる。
その締めくくりの 劇的なフィナーレのために、
民衆に選ばれた 神への生贄が必要なのだ !
それが ワシと お前なのだ
わかったか ~! 」
「 ひゃぁぁあああ ~!
ちっとも わかんないよぉぉおおお ~!
た す け て ぇ ぇ え え ~ ! 」
続 く
【 運 命 】
暴君が悪いことをする際によりどころとするもの、
間抜けが,ヘマをやらかした時の口実にするもの。
A,ピアス